第18話 英雄の正体
「……えっ? 悠里さん?」
漆翅の正体は上村悠里だった。
さきほど純の携帯を復旧させた彼が目の前で倒れていた。
「……馬鹿野郎。そんなこと気にしてる場合かよ……」
寝ながら毒づく悠里だが、頭を強く打ったせいで中々起き上がれない。
「ゆ、悠里さん! しっかりしてください!」
「……本名で言うんじゃねーよ。誰が聞いてるかわかんねーんだから……」
「あ、そうでした。すいません……」
英雄の正体は知っても話すのは厳禁である。
始終、テロリストと戦うような仕事である英雄は正体を秘匿されている。
また、それを探るのも法律で禁止されているので、探るだけで捕まるのだ。
「だ、大丈夫ですか?」
「……くそ……体が動かねぇ……」
「すいません……おいらのせいで……」
申し訳なさそうに謝る純だが、悠里は言った。
「……気にするな……お前のお陰でアイツの弱点がわかった……」
「……本当っすか!」
嬉しそうに声を上げる純に悠里は言った。
「……この辺に端末があるはずだ……そいつをぶっ壊せ」
「……へっ?」
キョトンとして辺りを見渡す純。
どこにも端末らしきものは無い。
当り前だが、この場所は元々ガレージで炎の壁で切り離されているこの一角は壁際である。
床には犯人たちの落とし物はあるが、ポケットから落ちたタバコやペンのような軽いものしかない。
「そんなもの落ちてないですよ?」
「必ずある……あいつはこっちを攻撃してこない……」
そう言って悠里はドラゴンを指さす。
ドラゴンは周りを睥睨するかのように見渡しているが、特に何もしていない。
だが、しきりにこちらの方を見て、攻めあぐねていた。
「あの
確かにおかしな状態であった。
既に二階部分は吹っ飛ばされており、それ以外の場所も破壊されている。
本来なら二階が崩れ落ちる危険があるのに、それが無い。
「電脳空間の物を現実に取りだす時は、必ずベースとなる端末が近くに無いと駄目なんだ。あいつの依り代となる端末が近くにあるから攻撃出来ない……」
そう言って立ち上がろうとする悠里だが……
「まだ無理っすよ!」
「くそ……」
ダメージで立ち上がることもままならない悠里を見て覚悟を決める純。
(ここはオイラが探すしかない!)
純は辺りを見渡してみた。
落ちている物と言えば、工具箱から散乱した道具類や純を誘拐してきた車の残骸、そして手袋やタバコ、ペンなどの逮捕時にポケットから落ちた物ぐらいである。
(車の残骸は燃えているからありえないっすね)
となれば散乱している工具類だが……
(こんなものの中に……やっぱり無いか)
多少は電子機器付きの道具はあるものの、端末とは言えない物ばかりである。
そこで、重要なことに気付いた。
(そう言えば工作員はタバコやペン型の盗聴器を使うって聞いたっす!)
そう考えて落ちているタバコやペンも見てみるのだが……
「……ただのペンとタバコっすね」
結局変わらなかった。
(本当にここにあるんすか?)
にわかに信じがたくなった純だが、ある物が目に入った。
(そういや、あの手袋は何で捨てたんっすかね?)
キュラと言う美女は捕まる前に手袋を脱ぎ捨てたことを思い出した。
(まさか!)
慌てて捨てた手袋を調べる純。
すると……
「あったっす! 指輪型の端末が手袋の中に隠れてたっす!」
高々と指輪を掲げる純。
それを見て悠里は叫んだ!
「壊せ!」
「はい!」
バギン!
指輪をコンクリの床に落として踏みしめる純!
指輪はあっけなく破壊された。
すると……
ブォン……ブォン……
ノイズを出しながらドラゴンの姿は透明になっていき……
バシュン♪
呆気なく消えてしまう。
後に残されたのは事務所の残骸と炎と……悠里と純だけだった。
悠里は兜を被り直し、ふらふらとたちあがりながら、氷の剣を力なく振るう。
バシュ……
炎は完全に消え去り、事務所の残骸だけが残った。
悠里はおぼつかない足取りで純に言った。
「ちょっとだけ肩を貸してくれ」
「は、はい!」
ふらつく悠里を純はしっかりと支えながらその場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます