第16話 助けに来たヒーロー
「……こんばんは」
入って来たのは漆黒の仮面を着けた完全武装の漆翅だった。
手には火花が散るスタンロッドを持っている。
それを睨みながら、床でぎりりと歯ぎしりするキュラ。
「とりあえず、その子を離してくれないかな?」
漆翅は飄々と言ってのける。
「ぐぐぐぐぐ……」
スタンロッドの痛みで床から動けずに悔しそうに呻くキュラ。
その様子を見てきょとんとする純。
「あの……一体何がどうなってるんすか?」
話について行けずに困り果てる純だが、それを見て漆翅はため息を吐いた。
「こいつらは麻薬組織だ。在原貴音にクスリを売ってたんだよ」
「……ええっ!?」
それを聞いて凍り付く純。
漆翅は話を続ける。
「在原貴音の両親はダメ人間でな。膨大な借金を作って麻薬を売っていたんだ。その麻薬すら手を出して廃人になってしまったんだよ」
「そんな……」
悲しそうに顔を歪める純。
「両親が死んで、そんな現状に絶望した貴音ちゃん自身も麻薬に手を出していた。貴音ちゃんは元々気弱で人見知りをする性格だったんだが、薬のせいで解放的な性格になっていたんだ……」
「ひょっとしておいらに声を掛けたのも……」
「麻薬の症状の一つだな」
恐ろしいことに麻薬は性格をすら変えてしまう。
それがたまたま良い方を転がっていただけなのだが、麻薬と言うのは最初だけしか良い方に転がらないのだ。
そしてそういった麻薬にはある症状がセットである。
「そしてこの手の麻薬の禁断症状として効力が切れると逆に陰鬱になってしまう。全てに嫌気が差した貴音ちゃんは自殺してしまったんだ」
「……貴音ちゃん……」
悲しそうに呻く純だが、漆翅はキュラへと向いた。
「だが、死の直前で密売人とのやり取りを残した携帯端末を君に渡した。それもヤバい情報が入っている状態でな」
「……後から気付いて焦ったよ……暗号から場所や人までわかるようなメッセージ残してんだからさ……」
悔しそうに顔を歪ませるキュラだが、漆翅は続けた。
「それに気づいたお前たちはSNSを通じて
「ああそうだよ! 悪いか!」
とうとう開き直ったのか、堂々と言い放つキュラ。
ピーポーピーポー……
外には警察が集まっているようで、サイレンが近付いてきた。
ドダダダダダ……
開いた出入口から警官たちが入ってくる!
「動くな! 警察だ!」
拳銃を構えて犯人たちに圧を掛ける警官たち。
「証拠は既に転送済みだ。この会社が拠点だったんだな。会社にあった端末には色々と入っていたから助けるのが遅れてしまったよ」
そう言って漆翅も拳銃を構える。
キュラがふっとため息を吐いた。
パサッ…………
両手に着けていた手袋を脱いでその場に捨てる。
「わたしの負けってわけね」
そう言って諦めたように両手を差し出すキュラ。
それを見て警官たちは叫んだ。
「確保!」
全員に手錠を掛けていく警官たち。
それを見て安堵のため息を吐く漆翅はスタスタと純に近づく。
「大丈夫だったか?」
「は、はい! 何とか!」
嬉しそうに叫ぶ純だが、すぐに怪訝な顔になる。
「あれっ? 何か声を聞いたことあるような……」
「……………………………………気のせいだ」
そう言って目を逸らす漆翅。
不思議そうに漆翅をじろじろと見る純だが、不意に視線を感じてそちらの方を見る。
(何すか? あのキュラって女?)
首謀者らしきキュラが何やらこちらを見て、警官の一人におねだりをしていた。
警官は呆れ顔になりながらも美人の頼みで携帯端末を取りだす。
ギラン!
奴の顔が悪魔のような嗤い顔に変わった!
その瞬間、嫌な予感がした純が慌てて漆翅に飛びつく!
「危ないっす!」
「うおっ!」
いきなりなタックルに、思わず尻餅をつく漆翅と倒れこむ純!
不意を突かれて完全に組み伏されてしまう漆翅が、抗議の声を上げようとしたその時だった!
ボゴォォォォォ!
巨大な炎が漆翅の居た場所を薙いだ!
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」
警官と麻薬組織の数名が炎に巻き込まれて黒焦げになる。
「なにっ!」
慌てて立ち上がる漆翅はその光景に愕然とする!
「さっきの
第二スール部で戦っていた
それを見た漆翅は叫んだ。
「まさかあの女!」
『そのまさかよ』
キュラの声が怪しく周りに木霊した。
建物に備えつけのスピーカーから聞こえてきたのだ。
『あんたと同じでわたしも『虚人』よ。電脳空間を自由に動き回ることが出来るのよ』
「くそっ!」
漆翅は思わず叫んでしまう。
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