第7話 壊れた携帯
とりあえず、スールが終わったようなので、自己紹介する少年。
「おいらの名前は純っす。風野=谷野=純って言います」
「ジュン君ね。よろしく」
そう言って自分を指さすウルフカットの少年とブタ耳の少女。
なんとなくおバカそうな雰囲気は消せない。
それを聞いて不思議そうに尋ねる太った少年。
「明らかに日本人だよね? なのに名前は宇宙人ってどういうこと?」
「おいらの所は元々孤児院っす。何か宇宙式にエニル?って言うのを導入すると支援が貰えるってことでこうなりました」
「ああ、なるほど……」
ブタ耳の少女が微妙な顔になる。
宇宙の家族様式は多夫多妻制である。
エニルと呼ばれる独特の家族形態を持っているので、宇宙に開かれたばかりの日本は宇宙先進国の支援の元、このエニル制を導入しようと躍起になっている。
何でこんな変な家族をしてるのかと言われると、宇宙には多種多様な民族がおり、一夫一妻は勿論、一夫多妻、多夫一妻など色んな家族形態がある。
こうなると、家族の違いから、片方の国では普通だが、もう片方では重婚になるという歪みが存在する。
それを解消するために多夫多妻制を導入して、エニルという仕組みを導入してるのだが……
「ぶっちゃけ、おいらにはエニル制というのはよくわかんねーっす。支援貰えるから良いんですけど、何なんすかねこれ?」
やっている側の意見はこんなもんである。
「まあ、その辺は別に良いんだけどな」
純の言葉に静かに答えるアホ毛の少年。
するとブタ耳の少女が言った。
「よろしくね純君。私はエウマ=イオス=シュリエ。こっちの太ってるのはスール部の部長の東山亜斗夢。そっちのむっつり顔は上村悠里だからよろしく」
「どうも。太ってる東山です」
「むっつり顔の悠里だ」
微妙に皮肉っぽく自己紹介する男二人。
悠里はへの字口になって言った。
「ほんで? 結局何の用なんだ?」
「あ、そうそう! 実はお願いがありまして……」
そう言って、純は懐から携帯端末を取りだす。
携帯端末とは携帯電話やスマホの事を指すのだが、これにイチイチ専門用語を付けると話が分かりにくいのでこう書いている。
何しろ、色んな企業が携帯端末を出していて、その機種ごとに呼び名があるので、それをイチイチ描いていると話がわからないのだ。
同じようにデスクトップパソコンの事を『端末』、ノートパソコンやタブレットのことを『ノート端末』という言い方をしている。
それはともかくとして、携帯端末を取りだした純はそれを見せながら言った。
「友達の携帯端末なんですけど、見ようとしたら急に止まって真っ暗になって……」
純の持っている携帯端末は画面が真っ暗になっている。
悠里はそれを手に端末の周りの様子を調べ始めたが特に何もなさそうである。
そんな様子を見ながら、純は説明した。
「どうもスールされたらしくて、全く中がわからなくなってしまって……」
「電器屋で診てもらったか?」
「はい。そしたら『これはもう無理だから買い替えるしかないよ』って」
「まあ、そうだろうな」
そう言って携帯端末を純に返す悠里。
「こいつは完全にスールされてるな。日本の電器屋じゃ対応は無理だ」
あっさり答える悠里だが、これはある意味仕方が無い。
地球が宇宙に開かれてからはまだ5年である。
スールという最新のハッキング技術がもたらされたまでは良いが、このスールと言う技術自体が完全に未開の領域である。
法整備に関しては宇宙先進国の実例が豊富にあったので、すぐに成されたのだが、肝心の技術者は圧倒的に不足している。
「スール自体が、地球人にできる奴がほとんど居ない。そんな状態じゃ携帯端末は素直に潰した方が早い」
悠里はストレートに答えるのだが、純の顔が曇る。
「その端末にはもう死んでしまった友達の物っす……せめて写真だけでも使えるようにしてくれればと思ったんですけど……」
困り顔で、若干泣きそうな純の顔をみてエウマも微妙な顔になる。
「ひょっとしてその友達って……」
「一週間前に自殺したんです……」
辛そうに答える純。
「ある日突然、橋の上から身を投げたそうっす……悩んでいるのなら教えてほしかったっす……」
純が涙を浮かべながら俯くと、部長の東山が言った。
「うーん。どこまで出来るかわからんけど、ちょっとだけやってみよう」
「お願いします!」
そう言って純は頭を下げた。
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