第6話 訪れ人


 ガチャリ……


 部員たちがスールをしていると、部室のドアが突然開いた。


「あ、あのー……」


 外から一人の少年が覗いていた。

 年齢は15歳ぐらいだろうか?

 ウルフショートの黒髪黒目の日本人で小柄で痩せた体格をしている。


「何の用だ?」


 ぶっきらぼうにアホ毛の少年がじろりと睨む。

 心なしかアホ毛が逆立っているようにも見える。

 だが、それを聞いて慌ててブタ耳の少女の方が声を上げる。


「悠里(ゆうり)! そんな言い方は無いでしょ! すいません! 今ちょっと取り込み中で! ちょっと待ってください!」


 そう言ってブタ耳の少女は、ウルフショートの少年に謝ってから再び画面を見て、何やら端末を操作している。

 その様子を見て、ウルフショートの少年がアホ毛の少年に言った。


「あの……ゲーム中でしたか?」

「ゲームじゃない。スールだ」


 そうぶっきらぼうに答えるアホ毛の少年。


「あんたはスールを見たことないのか?」

「おいらはスールとか数学が関係することが苦手っす……」


 そう言って、たははと笑う彼が、不思議そうに尋ねる。


「でも普通のゲームとあんまり変わらないっすね? 操作も脳波式ですし、アクションゲームと変わらないような……」


 彼がそう言うのも無理からぬことで、この世界でアクションゲームはヘルメットのような映像兜マッカを被り、

 と言うよりも、アクションゲームはほとんどそれなのだ。

 それ故に人間と変わらないアクションが出来るゲームが多く、ぱっと見はそれと同じである。

 ちなみに手元のコントローラーはメニュー画面操作にしか使わない。

 だが、アホ毛の少年は静かに答える。


「やってることは同じだが、決定的に違う点が一つある」

「……なんですかそれは?」

「……ええ?」


 それを聞いてキョトンとするウルフカットの少年。


「スールは他人の端末に侵入して様々な事を行うのが目的だ。それを映像化してるだけで、実際には進入用のアーリグ(アプリやプログラムのこと)を操作して侵入している……」


 そう言ってアホ毛の少年は画面を指さす。

 画面の中では鬼と侍が一騎打ちでつばぜり合いをしている。

 しているのだが……


「ぐううう……」


 フルフェイスヘルメットを被っている少年がうめき声を上げる。

 明らかに押されているのだ。


「このぉ!」


 つばぜり合いから逃げて剣撃を仕掛けるのだが……


 スカスカスカスカスカ……


 悲しいぐらいに避けられる。

 いくつもの連続攻撃を仕掛けるのだが、その全てが避けられるのだ。

 その様子を冷静に分析するアホ毛の少年。


「自動回避を使われてるな。通常は自動回避を使うと処理速度が落ちるから、その分動きが鈍くなって当たることもあるんだけど、それを使っても避けられるほどのスピードがある。プロレベルなら自動回避は使って当然なんだが、プロ並みってことだな」

「はぁ……凄いんすねぇ……」


 絶対にわかっていない顔で、首を傾げるウルフカットの少年だが……やがてハッとなる。


「それって……そもそも仕様が違うってことじゃないっすか?」

「そうだ。しいて言えばレベルが二桁ほど違う相手と戦っている」

「絶対勝てないじゃないっすか!」


 呆れた顔になるウルフカットの少年。


「チートしても良いなんて……! そんなの勝負にならないっすよ!」

「そうだよ。

「……あっ……」


 アホ毛の少年の言葉に、ようやくどういったものなのか理解するウルフカットの少年。


「スールはチートを競い合う。端末に侵入するのはハッキリ言って犯罪だ。。だから如何にチートをするかを競い合うのがスールなんだ」

「つまり、チートをやり合う事で操作ではなく、?」

「そういうこと。だから、本当は試合に入る前に決まっているんだけど……」


 グシャァ!


 結局、鬼に完全に叩きのめされてしまう侍。


「くそ! 相手が悪かった!」


 乱暴にヘルメットのような物を脱ぎ捨てる太った少年。

 それを横目に静かにぼやくアホ毛の少年。


「試合してみないと技量差が一切わからないのも現場の状況と一緒なんだ。だからうっかりするとコテンパンにやられてしまう」

「下手なゲームよりもよっぽど厳しいんっすね」


 感心した様子でうなずくウルフカットの少年であった。



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