第175話 相手にすると本当に厄介な人ですわね
腕を掴んだ時に勝ったと思ったのですが、そうは問屋が卸しませんか。密接して腕を封じ込めてしまえば魔道具を使えないと踏んだのですけれど、ちゃんと対策はしてあったようですわ。あの強烈な一撃でお守りが壊れてしまいました。残りは1つだけ。大事にしていきましょう。
「神崎さん、どれだけ無茶して魔道具作ってたんだろ?」
神崎の作った装備の解析のためデッドコピーを作っていた生産職の方々はそう言っていました。レシピは思いつくけれど魔力が全く足りないそうです。神崎は魔力回復ポーションを飲みながら作っていたことを伝えると、とても驚いていたのが印象的でした。
「どうしたどうした? さっきまで勢いがなくなってんぞ」
現在、わたくしは苦戦しています。少々、光学魔法陣というものを甘く見積もっていたようですわ。
わたくしは右で神崎の攻撃を受け流し、左で飛んできた魔法を切り裂きます。他の魔法も同じく魔法で迎撃しているのですが、如何せん光学魔法陣の特性が厄介なのです。
「実に鬱陶しいだろ?」
「その通りですわね!」
光学魔法陣は光源を変形させているので当然直接見ることができます。普通の魔法と比べて何処から攻撃してくるかわかってしまうのは弱点と言えばそうですが、そんな弱点を些細なことと思えるほど利点がありました。
「まるで大量の敵と戦っている気分だわ」
魔法は発動者本人から一定以上離れて発動することはできません。位置を指定する系統の魔法は多少なり距離を稼げるのですが、この場では少し使いにくいのです。しかし、それらのデメリットを無視した光学魔法陣は予想外の方向から魔法を撃ってくるのです。
「動きが鈍いぞ。一対多は苦手か?」
「あなたほど得意ではないわ」
連携して絶え間なく魔法を撃ってくる上、光源を破壊してもすぐさま補填される。更には気配探知に無数の気配があることと、視界に高速で動く魔法陣が映るのは精神的にくるものがあります。早く慣れなければなりません。
「そんな時間があるわけないだろ」
わたくしが慣れきる前に神崎が畳みかけてきました。光学魔法陣が高速回転しながらわたくしに向かって飛んできます。見るからに危険な回転陣に魔法をぶつけるも、その魔法を切り裂いて向かってきました。
「嘘!」
「隙アリだぜ」
「くっ……!」
高速接近する回転陣を躱し、同時に振るわれた神崎の攻撃を防ぐことはできましたが、代わりに弾かれて体勢が崩れてしまいました。そこに追い打ちをかけるように光学魔法陣が殺到します。咄嗟に張ったシールドは回転陣とぶつかり合って双方砕け散り、後続の魔法が迫ります。わたくしはダメージを食らう覚悟で奥歯を噛み締めました。
「……サシの横やりはどうかと思うんだが?」
「我はスキルだ。何の問題もない。それに、先程は貴様が嫉妬を使ったではないか」
「ぐうの音も出ねぇ正論をどうも」
ルシファーが精神世界から出てきてわたくしを守ってくれたようです。おかげで怪我をせずに済みました。
「助かったわ、ルシファー」
「主を守るのはスキルの務めだ」
「あら」
「だそうだ、レヴィアタン」
「オレサマが何でオメーを守らなきゃいけねーんだ。面倒くせー」
魔王スキルにも性格があるのですね。この際だからルシファーを使いましょう。
「ルシファー、援護しなさい」
「心得た」
攻撃の手が止まったのなら反撃を開始しましょう。形勢逆転の機会をみすみす逃すような真似をする余裕はないのです。
それぞれの魔王が戦いに参戦しました。連携はわたくしたちの方が優れているようで、神崎たちと互角に戦うことができています。落ち着いて観察ができるようになったおかげで光学魔法陣の癖や弱点を分析できました。
「回転陣はシールドで相殺。光学魔法陣は光源を重ねると無効化できる、ですわね?」
「つくづく頭の回転が速いようで」
神崎からお褒めの言葉を頂きました。嬉しいです。加えて、神崎の攻撃の癖もわかってきましたわ。
本人は基本的に正面突破をせずに安全着実な攻撃に徹し、魔道具や魔法陣、言葉で隙を作る。そして、生じた隙に高火力を叩き込むスタイル。奇抜な魔道具などで誤魔化されがちですが、その本質は至って普通な戦い方をしているだけです。逆に言えば、普通の戦い方とは要点を押さえた戦い方。それだけ突破が難しいことを意味します。
「もう慣れましたわ。次はどんな手品を見せてくださるの?」
「はぁ……、俺だって無限に手の内があるわけじゃないんだがなぁ。しゃあなしだ」
神崎が行動に出ました。何かの魔道具を取り出した神崎はそれを地面に叩きつけたのです。
「煙幕……?」
「俺が何処にいるのかわかるかな?」
「この程度の目くらましなんて……!」
煙幕は視界こそ奪えても魔力まで覆い隠すことはできません。視界を覆う煙を風で払う前に、わたくしに迫る魔力が幾つも見えました。光学魔法陣です。さらに、神崎もそれらを盾にして向かってきています。
「それで隠れたつもりです……あれ?」
魔法陣を相殺した後、神崎と剣を交えそうとしましたが、わたくしの剣は神崎の持つ武器をすり抜け、神崎さえもわたくしを通り抜けて蜃気楼のように消えてしまいました。脳が拒絶するその光景を目の当たりにしつつ、状況を掴むために煙幕を風で晴らしました。
「まさか……人魔一体か!?」
「それは何かしら?」
煙幕が晴れ、離れた場所に神崎と嫉妬の魔王が佇んでいます。二人そろって気配はありませんでした。そして、その二人を見た瞬間、ルシファーが裏返った声で動揺しました。
魔王になるリスクと引き換えに強大な力を得るスキル。器の人間の強さ次第で強化幅が変わり、神崎ほどの強さが人魔一体をしたならばわたくしに勝ち目はない、ですか。
「神崎に羽が生えたわ」
「……どうやら成功したらしい」
「ルシファー、わたくしたちもそれをするわよ」
「しかし……」
「このままではどうせ負けるわ」
「主が言うなら仕方あるまい」
ルシファーが人魔一体を発動しました。
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