第174話 攻守交替といこうか

 魔王スキルって俺の強さで変化するんだ。知らなかった。あいつがしれっと隠密を使えていたのはそういう原理だったのか。そういうことは言っとけよ。




『聞かれてねーし』


『知らないことを質問できるかよ。てか戻ってこい』


『あいよ』




 レヴィアタンが現れた。精神世界を経由すれば俺の近く限定で即座にスポーンできるらしい。不便なんだか便利なんだか。




「久しぶりじゃねーか、傲慢」


「再び貴様の顔を見ることになろうとはな、嫉妬」


「ギャハハハ! 相変わらず素っ気ねーな」


「貴様はいつになっても五月蠅い」




 なんだこいつら。仲いいな。




「仲良くねーよ」


「仲がいいわけなかろう」




 息ぴったりじゃん。そう思うだろ、アイナ? ほら、アイナも頷いてるし。認めちまえよ。マブダチなんだろ?




「アレと親友など断じて認めぬ。例え話であっても寒さを感じぬこの身体が寒気を感じるほどだ」


「ギャハハハ! それならマブダチでいいかもしれねーな!」


「やめろ!」




 あ、傲慢が引っ込んだ。レヴィアタンは勝負に勝った。賞金はよ。




「……仕切り直しね」


「そうのようだ」




 まったく、真剣な場面で人の話の腰を折りやがって。こっちは真面目にやってんだ。


 俺とアイナは微妙になった空気を振り払うように武器を構えた。




「もう面白魔道具はお終いか?」


「残念ながらね」




 アイナは小さな肩を大きく竦めた。明らかに嘘くさい動作だが、たぶん本当だろう。大根役者が大根役者を演じる女優になっちまって。成長が早すぎる。




「あなたの魔道具は品切れなの?」


「まさか。こっからは俺の番。覚悟しな」


「うふふ、楽しみだわ」




 本当に楽しみらしい。うきうきした雰囲気が俺にまで伝わってくる。これは期待にお答えしないとな。


 俺は気合を入れ直す。勝つための戦略は立てた。後はそれに沿って実行するだけ。もし、すべての戦略が通じないようなら俺に勝ち目はない。今はアイナと同じステージにいるように見えるだけ。実態はたまたまアイナの成長線と同じ場所にいるに過ぎない。




「開幕するは道化と愚民のから騒ぎ」


「……?」


「然れども高貴気取りは見向きもせずに」




 お? アイナから攻撃をしに来てくれたじゃないか。そらそうだよね。突然、目の前で意味の分からない口上を垂れ流し始めたら警戒するよね。しかも、その口上を攻撃されても止めないし防御に徹するんだもの。怖いよね。




「絢爛尽くしの世界に浸る」


「その珍妙な口上を止めなさい!」


「光が輝けるほどに闇はより濃く深く」


「この……!」




 止まらない口上に焦るアイナ。それを見ながら俺はタイミングを計る。無理な一撃を放ったその瞬間に合わせて左手の掌底をアイナの鳩尾に向けて叩き込んだ。手つけているグローブは衝撃波が出せるように設計したインファイト専用の魔道具だ。ちなみにヒートエンドはできない。




「衝撃が逃げないように吹き飛び性能は削ぎ落している。高防御も貫通できる優れものだ」




 焦りと武器を持つ右腕に注意が向いていたからこその不意打ち。一見すると何もない掌から超火力が出てくるんだもの。初見で対処は無理でしょ。あ、口上に意味はありません。何となく意味深な言葉を選びました。


 俺はぐったりとしたアイナを抱えようとしたその時、ムカデワニと対峙した時以上の寒気に襲われた。急いでアイナから離れようとしたが時すでに遅し、アイナにがっちりと腕を掴まれてしまう。




「捕まえた」


「……嘘ぉ……」


「ホントよ?」




 確実に入ったはず。それなのになぜ? そんな疑問が出てきてしまった。普段なら正しいがこの状況では悪手だった。脱出の思考が遅れたから。俺の腕が凍りつき始める。




「ちょっと冷たいだけだからね?」


「是が非でも遠慮する」




 ゼロ距離でシールドが張れないのは俺も同じ。きっと某海賊漫画の氷人間に凍らせられるのはこんな感じなんだろうな、と思いながら俺は作戦の前倒しを決めた。




「このまま……!」


「……逃がさねぇよ!」


「是が非でも遠慮するわ」


「いっ……」




 アイナは地面に落ちていたみーちゃんを蹴り上げて掴み、剣の腹で俺の腕を打ち据えた。手加減なしの一撃に手の拘束が緩みアイナに逃げられる。そして、それまでアイナのいた所を魔法が通過した。




「よく気が付いたな」


「害意が漏れていれば気がつきますわ。でもどうやって? 事前に設置したスクロールが偶然わたくしを狙える位置にいたわけではないのでしょう?」


「教える義理はねぇが、それもすぐにわかる」




 できればもう少し温存しておきたかったがそれもやむなし。決着が早まったとでも思うことにしよう。


 俺は光源を創る魔法で光の玉を複数生み出し周囲に浮遊させる。アイナはその様子を興味津々で眺めていたが、次の瞬間には引き攣るような笑顔になった。全ての光源が変形し、魔法陣を描いたのだ。




「光学魔法陣。本来スクロールに必要なものを全て魔力で代用したものだ」




 魔法と言ったらこんな感じ魔法陣が出てくるものだよね。この世界の魔法陣は物に描く必要があったから再現できないと思っていたが、光源を魔力操作で変形させることで実現可能にした。




「よく考えれば魔法が少し便利に使えるようになっただけじゃない。普通に魔法を使えるわたくしの優位性は変わらないわ」


「それはどうだろうな?」




 光学魔法陣の面白さを見せてやろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る