第173話 遠慮なく行かせてもらうわ
神崎に行動を読まれていました。起動までに時間がかかることを見越してお喋りをしていたのですが、この様子なら正直に言ってしまった方が楽だったのかもしれません。
「よく見ておきなさい。これがあなたの教え子の本気よ」
わたくしは戦いの最中から仕掛けていた魔道具を起動します。すると、わたくしの足元の地面がゆっくりと隆起していきます。隆起した地面は遠くから見ると人型をしていることがわかるでしょう。そう、これは地面をそのまま使ったゴーレムなのです。その頭にわたくしは乗っている状態です。
「な、なんじゃそりゃあ……!」
「ジャイアントゴーレムとでも呼んでくださいな。さあ、神崎を叩き潰しなさい」
「シャレになってねぇぞ!」
神崎の強さは知っています。これまでの魔物の倒し方も見てきました。それらを加味した上での対策が「ひたすら巨大化する」なのです。これなら大抵の罠は気にせず戦えるでしょう。
地面にいる神崎にゴーレムが拳を振り下ろしました。それだけで小さなクレーターができ上ります。この威力なら神崎にダメージを通すことも可能なはずです。
「デカいは強い。だが、その巨体は的にもなるんだよ!」
「その通りですわ。だから、わたくしが対処します」
「2対1とか卑怯だぞ! 正々堂々戦え!」
「何を言っているのですか? これはれっきとした魔道具ですわ。1対1ではありませんか」
神崎が訴えましたがわたくしはすぐさま棄却しました。大きさを除けばこのゴーレムはビットと大きな差はありませんわ。魔道具ですもの。
神崎が打ってくる魔法をわたくしは迎撃します。攻撃はゴーレムに任せているので、迎撃だけに集中できるので簡単でした。
「森に隠れた? でも気配探知で簡単に居場所がわれてしまうのは知っているはず……。なぜ?」
木々のせいで直接見えなくなった神崎の気配を探りながらゴーレムに攻撃の指示を出します。
回避ばかりで反撃がありませんわね。わたくしの攻撃にも反応なし。どこかに誘導しているのでしょうか? それとも時間稼ぎに徹して打開の策を探っている? 嫌な予感がします。
「一体何を企んでいるのかしらね?」
どんな些細な変化も見逃さないように、わたくしは集中して周囲を見渡しました。するとほんの少しの違和感を発見しました。ゴーレムの至る所に棒が突き刺さっているのです。
「あんなものあったかしら? ……なかったはずだわ」
地面をそのまま使ったゴーレムなので魔道具の残骸なども巻き込まれていますが、記憶にある限りあのような棒があった記憶はありません。そう結論付けたわたくしの耳は小さな異音を拾いました。その方向に視線を向けると、先程までなかったはずの棒が突き刺さっていました。
「一体どこから? 気配も感じられないのに……」
周囲には逃げ回っている神崎の気配以外、一切気配を感じません。それなのに別方向から棒が突き刺さる。事前に仕掛けていた罠? それにしては不自然です。わたくしを想定した罠ならばもっと低い位置を狙う必要があります。空を飛ぶことを考えているとしても、この法則性のなさは違和感を覚えますわ。
わたくしが考え込んでいる間に、更に別方向から何かが飛んできました。それは槍であり完全にゴーレムを狙ったものであり、深々とゴーレムに突き刺さりました。突き出た持ち手は見覚えのある状態です。
「何か工作をしているようですわね。このゴーレムを破壊するための方法……。まさか……」
最初と同じように爆発させるつもりでしょうか、と出した結論を証明するように魔力が膨れ上がりました。わたくしの真下でゴーレムが弾け、物言わぬ瓦礫になり果てて山となります。どうやらあの槍にはエクスプロージョンのスクロールを仕掛けていたようです。
「デカブツの相手は嫌というほど体験したんだ。それ用の魔道具を作っておくのは当然だろう?」
わたくしが爆風を防いで着地すると森の中から神崎が姿を現しました。どうやらわたくしの知りえない修羅場をくぐり抜けてきたようです。これは更に強さを上方修正する必要があります。
「甘く見積もったつもりはなかったのだけれど、想像以上に強くなっているわね」
「俺の方が驚きだ。これだけ強くなったのに勝ちきれないなんてな」
互いに互いを過小評価していたようですね。それも、相手を軽んじたわけではなく相手を最大限評価して上で。しかしながら、二人してそれを越える努力をした。変なところで似ていますわ。
「それにしてもどういうトリックを使ったのかしら? 気配は一つだけ。他に気配はありませんでした。どうやって槍をゴーレムに当てたのですか?」
「おいおい、そんな大事なことを言うわけないだろ。アイナに話したらすぐに対策されるじゃん」
残念です。その通りですけれど。
わたくしがそっと肩を落としているとルシファーが背後に現れました。
「嫉妬を使ったのだろう?」
「どういうこと?」
「主でいうところの我に槍を投げさせた。それだけだ」
「ネタバラシするなよ」
まあ、そんな手段があったのですね。ルシファーの力を借りることは前提にしていませんでした。確かに自由に動かせる存在は非常に便利です。しかし、疑問は残ります。
「でも気配がないのはなぜかしら?」
「恐らく嫉妬の隠密スキルが高いのだ。我らの強さはその主によって変化するが故に」
「そうなのね」
「そうなのか」
神崎も知らなかったのですね。ここも似ているようです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます