第172話 勝てるものなら勝ってみな
みんなが立ちはだかる、か。随分と主人公してくれるじゃないの。俺には到底できないことだ。だが、みんなに愛されているようで何より。安心しちゃうね。だから、俺も本気で相手をしよう。俺がいなくても十全に回ることが確認できたし。
アイナは自信たっぷりに笑い、マジックバッグから次々と物々しいブツを取り出す。それに俺はこめかみが引き攣った。
「行きなさい」
「ビットだとぉ!?」
両刃の剣の中央に砲身らしきものがある。ライフルとソードを兼ね備えているようだ。何それ格好いい。でも、相手にはしたくない。遠隔誘導兵器使いは強キャラ確定なんだ。だがしかし、俺もサブカル大好き人間。もちろん作りましたとも。
「あなたも!?」
「当然だ」
俺のビットはダガー型でもちろん砲撃だってお手の物。両者のビットが空を駆け戦場を魔法と爆発が彩った。
数は俺の方が多いが操作精度はアイナの方が高いようだ。一見拮抗している空中の戦いも、よく見ると撃墜される俺のビットの方が多い。遠からず俺のビットは全滅するだろうな。
「それまでに勝てばいいだけの話だがな!」
「接近戦でわたくしに勝てるとでも?」
「誰も正々堂々なんて言っていないぞ?」
アイナは両手が塞がっているが俺は違う。俺は何時でもマジックバッグから魔道具を取り出せるのだ。
「まだ隠し持って……!」
「ビットを全部出したなんて言ってないぞ」
さらに4機のビットを取り出した俺はそれらを操りアイナに猛攻を仕掛ける。更にはスラッシュハーケンも組み合わせた格闘戦もお披露目した。大振りの攻撃によって生じる隙はビットで埋めつつ、スラッシュハーケンによる変則機動によって普通では在り得ない動きでアイナを追い詰める。
「これで……!」
「終わるわけないでしょう?」
眼前を覆いつくす炎に冷や汗をかきながら俺は決着を急ぎ過ぎたと反省する。しかし、この速さの戦いの中、これほど肉薄している状態で正確に魔法を使えるとは驚きだ。ステータスだけじゃなく魔法もしっかり鍛えてきたらしい。
「驚いたわ。まさかこんなにも早く魔法を使わされるなんて」
「俺も驚いたぞ。ちゃんと魔法の制御も正確になっているんだな。成長しているようで何よりだ」
「うふふ、ありがとう」
まったく。戦場で相手に向ける笑顔ではないぞ、それは。本当に嬉しそうにしやがってからに。やりづらくてありゃしない。
「さあ、再開しましょう? 今度は魔法も交えて戦うわ」
「それは恐ろしいな」
これは失敗したかな。短期決戦に囚われ過ぎたか。俺の手の内を晒しただけに終わったっぽい。しかも、アイナの動きが格段によくなっている。もう正面からの戦闘では勝てないかもしれない。近接戦闘で決着をつけようと思い上がったしっぺ返しが来たな。
俺の予想は当たっていた。この短期間でアイナの動きはよくなり俺との戦いは経験値となって吸収されただけだった。そこに魔法が加わることで戦闘は徐々にアイナに傾き始める。更には俺のビットは全て破壊され、残ったアイナのビットまでもが参戦し始めた。
「これはなかなか……手厳しいな」
「降参してもいいのよ?」
「誰が!」
生憎、俺はまだ全てを出し切ったわけじゃない。諦めるのは全てやり切ってからで十分だ。
「またその魔道具? 同じ手は通じないわよ」
「本当に同じ手だと思うか?」
俺は球体を地面にばら撒く。それをアイナは警戒しながらも、どうやら打って出てくるつもりはないらしい。ビットはこれを破壊できるほどの威力はないらしく、魔法で破壊しようにも俺が目の前にいる状況でこれだけの数を壊すのに意識を割く余裕はまだないようだ。
どっちだろうねぇ。わかんないよねぇ。残念ながら俺もわかんないんだよねぇ。びっくり箱だよ。球体だけど。
「毒、麻痺、睡眠、魔法。好きなものを選んでくれ」
「クーリングオフよ」
「返品不可です。はい、どうぞ」
ギャー! 地面が凄いことに! 魔法が無秩序に飛んでくるぜ。
「この程度の魔法、通じないわよ」
「アイナには、な」
「そっちが狙いだったのね」
アイナと俺は魔法が縦横無尽に駆ける最中で剣戟を交える。しかし、俺たち二人には無害な魔法も他の魔道具には有害だった。俺の周りに飛び交っていたビットは全て撃ち落され、魔法が収まった時には二人だけしか立っていなかった。
「魔道具の種類も対処方法もお見事だわ」
「それが取り柄だからな」
それ以外何もできなくて詰んでた時期が長かったんだ。苦悩の期間が長かったが、そこでの知見が生きている。災い転じて福となる、とはよく言ったものだな。災いなど人生に欠片もいらんけど。
「うふふ、流石よ。早乙女さんたちの魔道具も素晴らしいけれど、文字通り必死さが足りないのかしらね?」
「それもあるだろうが、素材と知識の差だろう。どんな場面にどんな魔道具が欲しいかを知ればもっと伸びる。現状でさえここまでいい魔道具を作れるんなら尚更だ」
「あら、褒めるのね」
「俺は褒めて伸ばす派の人間なんだよ」
馬鹿みたいに叱るだけでは人は伸びない。ダメなものはダメと言うが、それ以外は基本的に褒めて伸ばす。基礎はしっかり教え込む。見て覚えろは教育放棄に等しい。教育の鉄則だ。惜しむらくは新人がクソ上司に絡まれて辞めていくのを止められないことだ。俺もしがない一平社員でしかない。権力は相応しい人間が持たないとダメだね。
「お喋りは十分かしら?」
「時間稼ぎに乗ってやったんだ。俺を楽しませてくれ」
「ちょっと劣勢だったのによく言うわね」
劣勢? まさか。まだまだ俺の戦略の入り口だぞ。
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