第168話 準備は整いましたわ
素材の解体や装備の作製に時間がかかるとのことで、しばらくの間は暇になりました。今の衣装を主軸にして改良していくらしく、ダンジョンに赴くこともできません。生産職の方々は忙しそうなので、わたくしは仕方なく剣術の研鑽に勤しみます。
「アイナちゃん強すぎ。何でそんなに強いの?」
「効率よく動くだけよ」
「意味わからないんだけど」
わたくしは剣術を学びたいという戦闘職の方々に教えているのですが、なかなかどうして上手くいきません。わたくしにとって息をするようにできることも他人にとっては違うようです。終いには言葉なしに、ひたすら打ち合うことで身体に教え込む方法に着地しました。教えるということはとても難しいのですね。初めて知りました。
「庭が賑やかだと思ったら、帰ってきていたのですね、天導さん」
「おかえり~、会いたかったよ~」
「ただいま帰ったわ。そして、お帰りなさいかしらね?」
ダンジョン攻略から帰ってきた九城さん達がわたくしのところにやってきました。三島さんが抱き着いてくるのをなだめながら、ダンジョン制覇の報告と装備づくりに生産職の方々を借りている旨を伝えておきます。
「大丈夫だと思いますよ。神崎さんに挑むのに必要なものは高レベルの方が担当するでしょうから、手の空いている人はいるでしょう。スクロールやポーションも在庫は十分残っていますし、こちらの攻略に支障は出ないかと」
「それならいいのだけれど」
ダンジョン攻略で生活費を稼ぐのに支障が出ないようならよいです。これなら装備の製作は遅延することはないでしょう。そもそも期限を切っていないのであまり関係ありませんが。
そんなことを話していると早乙女さんたちがやってきました。スクロールを作っている方もいます。そして、その手には何かの魔道具を持っていました。
「あれ? 九城さん。帰って来てたんですか?」
「ええ、つい先ほど帰りました。それで、その手に持っているものは?」
「あぁ、これですか? 新しい魔道具です。アイナちゃん、これに魔力を流してみて」
早乙女さんに差し出された不思議な形の魔道具に魔力を流します。しかし、変化はありません。どうすればよいのでしょうか?
「できた? なら、これを操れるはずだよ」
「……はぁ……?」
意味がわかりません。どういうことなのでしょうか? そんなことを思っていると後藤さんと斎藤さんの会話が聞こえてきました。
「ありゃ銃か? 随分とSFチックだな」
「操れるっていうならライフルビットですかね? 形的にファンネルではなさそうです」
「ビット? あんな形ではないだろう?」
「それはファーストですね。ライフルビットはアナザーのファンネルみたいなものですよ。あれを大量に操作して乱れ撃つのは格好いいです」
「はぁ~、ついていけねぇなぁ」
言っていることはわかりませんが、ヒントになりそうな言葉が聞こえました。大量に操作ということは、つまりこれは手で持つものではないということでしょう。それにライフルという言葉を合わせると無線式のライフルでしょうか。持ち手は存在せず、地面に固定するようなパーツも存在しません。となると、後は宙に浮かぶくらいしか考えられませんが……。
「おお! 浮いた!」
「これくらい当然よ」
これは面白いですわね。相手の死角から攻撃できるというのは攻守どちらの面から見ても非常に有用ですわ。これはたくさん欲しいです。
「これに金属製スクロールを装着すると魔法が打てるの。今は外してあるけどね。どう? 使えそう?」
「ええ、使えそうよ。これはもっと性能を上げることができるの?」
「もちろん」
「ならもっと高性能にしてちょうだい。極限まで速く動けるようにして、剣をつけてくださいますか?」
「オッケー。頑張る」
魔道具は大丈夫そうですわね。装備の進捗はどうでしょうか、気になります。この後見に行きましょう。剣術の指南は大和さんにお任せしました。わたくしに教師役は務まらないようなので。
九城さんたちは一度着替えるそうなので別れました。わたくしはそのまま村正さんのもとに向かいました。
「まだ完成してないよ」
「まだ何も言っていないわよ」
「言ってないだけだろうに」
その通りですわ。そんなにわかりやすい表情をしていたのですか? まぁいいでしょう。装備はどの程度までいるのでしょうか?
「素材の検証は終わった。今は素材の加工の途中さ。錬金素材もまだ作れていないようだし、まだまだかかるよ」
こうして待つこと一週間ほど、ようやく装備が完成しました。完成した装備を渡されたわたくしは早速着替えてみます。見た目に大きな変化はなく、できる限り神崎の作った衣装そのままという要望を叶えてくださったようです。
「スキルは耐性系とリジェネ、防御スキルがメインだ。要望通り防御寄りにしたけれど、問題ないね?」
「ええ、攻撃は自前で何とでもなるもの」
わたくしに足りないもの。それはまともにダメージを受けたりしないが故に、防御寄りのスキルが育たないことです。それは外部から補填することにしました。
「はい、柄ちゃんは最大まで強化しておいたよ。みーちゃんは無理だったけど」
柄ちゃんもわたくしの全力に耐えきれるように改良してくださいました。みーちゃんは変わらずです。この剣は異常なほど高品質なので、改良できないと言われました。他にも様々な魔道具やポーション、スクロールを渡されて準備万端です。
「忘れ物だ。神崎によろしく言っておいてくれ」
榊原さんから大量の料理を渡されました。神崎の分も作ってくださったようです。
「ありがとうございます」
「なぁに、気にするなよ。見送りに豪勢な料理をって九城に言われたんだが断った。美味いご飯が食いたくなったら何時でも戻ってきな」
「わかったわ。それじゃ、行ってくるわね」
皆さんに見送られて、わたくしは神崎と決着を付けに向かうのでした。
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