第161話 愉快な冒険にも終わりはあります

 121層からは大量に天使の魔物が出てきました。浮島から浮島へと飛んだ瞬間や着地の瞬間に矢を射ってきたり、こちらの手が届かないところから一方的に攻撃してきたりと中々意地悪な魔物でした。




「大物もいるのですね」




 途中から大人サイズの天使も出現し始め、その魔物は剣で攻撃してきました。足場の悪い中、一方的に切りかかられて、足を止めると後方から矢が飛んでくる。魔物自体もこれまでよりも強くなっていてとても楽しめました。




「地形と数的不利、戦術を組み合わせるとここまで大変なのですね。訓練としては十分です」




 しかし、それも少しの間だけでした。攻撃パターンがいつも同じで慣れてしまえば片手間で処理できてしまう程度の代物では成長が見込めないと判断したわたくしは次のエリアを目指しました。




「戦闘に数は大切ですが、もう少し鍛えてから来てくださいませ」




 エリアボスの巨大な天使と無数の取り巻きたちを切り伏せて次のエリアに足を踏み入れました。そこは広大な地下空間と形容すべきエリアでした。光源と呼べるものは不気味な植物が放つ微かな光だけで、大半は漆黒の世界が広がっています。




「地下世界、とでも呼びましょうか」


「この視界ではこれまでのような戦いはできぬぞ」


「ちょうどいいわ。この際だから目を瞑って攻略でもしてみようかしら?」


「甘く見過ぎだ」




 ルシファーに小言を言われてしまいました。この空間に慣れていない間は普通に戦いましょう。気配探知でこちらに近づいてくる魔物がいますから腕試しです。




「う……」




 何ですか、あの魔物は? 半分溶けたナメクジみたいですが、正直言って気持ち悪いです。近寄りたくありません。だから近寄ってこないでください。




「なぜ凍らせた?」


「あれを切りたくありませんし、近づきたくありません」




 好き嫌いはよくないといいますが、あの魔物は例外です。あれを柄ちゃんやみーちゃんで切りたくありません。嫌なものは嫌なのです。


 そんなことがありながらわたくしは攻略を進めました。視界の悪さとナメクジを切りたくない一心で気配探知の精度が大きく上がったので結果オーライです。そしてもう一つ、使い勝手のいいスキルを覚えました。




「魔力眼とは面白い」


「珍しいの?」


「うむ。魔眼の一種で魔力の流れを見ることができる。鍛えた魔力眼の持ち主は魔法使いの天敵と言われることもある。魔力の流れを知れば魔法を使う前兆を知ることに繋がるからだ」




 中々便利そうです。しっかりと使いこなしましょう。何かの役に立つかもしれませんわ。


 魔力を見る練習をしていると面白いことに気が付きました。魔力の流れだけでなく、生物の纏う魔力も見て取れるのです。視界の悪い中でも正確に相手の位置がわかるのは大きなアドバンテージとなるでしょう。これで暗闇も怖くありません。




「うふふ、強い魔物もいるようですわ」




 人型のヤギがわたくしの前に立ちふさがりました。手には槍や斧を持っています。連携と他の魔物を操るような力も持っているようですので戦い甲斐がありました。全部倒して経験値になってもらいましょう。




「140層のエリアボスはヤギの親玉ですか。飽きたのですが……」




 それぞれの階層の強敵を全て倒したのですが、どれもヤギばかりでした。悪魔の象徴と言われるヤギと地底世界は地獄をモチーフにしているのでしょうか? それにしては優しいようにも思いますが……いえ、あのナメクジの群れに追いかけられたのは地獄でした。ここは地獄に相応しいと思いますわ。


 気が付けばヤギの親玉は倒れていました。単純に強いだけの魔物でしたので苦戦はしませんでしたので印象が薄いです。そこから149層までは強化されたエリアボスとの再戦が連続して続きました。復習と思って戦ったのですが、相手になりませんでした。




「主が強くなったのだ」


「そうかしら? そこまで強くなった感覚はないのだけれど」


「傲慢足りえる才能を持つ主だからこそ言える言葉だな」




 傲慢、ね。わたくしにとっては普通なのだけれど他者にとっては違うのでしょう。でも、わたくしにはわかりません。持たざる者の苦しみが。いいえ、違いますわね。世間一般でいうところの家族愛は欠片も持っていません。この世の多くの人が持っているものをわたくしは知らないのです。そういう意味で苦しみは理解しているつもりです。




「理解した“つもり”というのも傲慢なのだ。この世の誰しもが他人を完全に理解することなどできはしない。傲慢はあらゆる方面で最大の孤高である」


「……確かにその通りね。でも、それなら嫉妬も同じでしょう? あらゆる方面で最低の孤高。対極であるが故にある種の同類よ」




 物事の最高と最低。それが傲慢と嫉妬の関係。反発しながらも惹かれ合うという相反する性質を持った関係。ドラマチックね。




「……我は神崎という人間にあったことはないが、主の一方的な執着ではないか?」


「違うわ」




 何を言っているのかしら、この黒鎧は。一度鋳造し直した方がいいかもしれませんわね。ルシファーの微塵も面白くない冗談はさておき、そろそろ進みましょうか。

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