第157話 ダンジョンでの出来事を少し紹介するわ
そんなことがあった翌日、わたくしは空を飛んで階段を目指しました。何の問題もなくこの方法で攻略できるのですから、飛行スキルはダンジョンの天敵ではないでしょうか。魔物や罠の一切を無視できるのですから、少し卑怯かもしれませんわね。
「早く強い魔物と戦いたいものですわ」
『今の主以上の敵などそうはおらぬ』
「ダンジョンにもかしら?」
『このダンジョンの傾向を見るに、100層までは敵にもならぬだろう』
「このダンジョンは何層まであるのかしら?」
『それはわからぬ。だが、かつて耳にした記録では120層までは確認したそうだ。今ならもっと深くなっているであろう』
そうなのね。目下100層まではネームドとエリアボスを倒すだけにしましょうか。あ、宝箱も開けましょう。強い魔物や罠があるかもしれません。そんな話をしていたらあんなところに宝箱がありますわ。これぞ渡りに船というものでしょう。
わたくしはそびえ立つ氷山の山頂にポツリと置かれている宝箱に向かいます。山頂だけは平らになっていて如何にもな場所でした。
『我が罠の有無を確認して……』
「えい」
アイアンランスで宝箱を攻撃すれば何か反応があるでしょう。ないなら罠なんてないですわ。あ、中身が傷付かないように加減はしてますわよ。ほら、宝箱が動き出したわ。
「えい」
『……我は主を誤解していたようだ』
誤解って何かしら? わたくしは自分を説明したことなんてなくてよ? 勝手な思い込みで勘違いしないでくださる?
宝箱に擬態した魔物を倒しわたくしは攻略を再開し、そのままの勢いで70層のエリアボスに挑戦しました。70層のエリアボスはとても不細工なアザラシ顔のトドでした。巨体を活かした体当たりと氷上を滑ることで得た機動性。分厚い脂肪による防御力と氷魔法を使いこなす強敵です。普通なら。
「氷を溶かすのは卑怯ではないか? 主よ」
「何を言っているのよ。自分の得意な戦場に場を作り替えるのは常識よ」
神崎ならわたくしと同じことをしたでしょうね。そして、「氷の下に地面を作る方が悪い」と言うでしょう。もしくは、トドの滑る先に罠でも設置するかでしょう。ステータスで押し切るだけが戦闘ではないことをわたくしは学ばねばなりません。多くの戦い方を知り、対策を学んで初めて神崎と同じ土俵に立つことができるのですから。
「このような戦い方が基本とは……。神崎という男は油断ならぬな」
「当然よ。同じ条件なら神崎に勝てる気がしないもの」
神崎に勝つには戦術と戦略に即応しなければなりません。魔道具がない分、わたくしは不利な戦闘を強いられます。それらを対処しきって正面から勝たないといけないのです。対処を間違えば負け。非常にシビアな戦いになると予想できます。
「攻略を進めるわよ」
「心得た」
ルシファーは精神世界に戻り、わたくしは攻略を進めました。しかし、71層からのエリアは火山地帯らしく、頬を撫でる風は熱気を帯びています。事前情報なしでの攻略なので時間がとてもかかってしまいました。結局、72層までしか進めませんでした。
「ここまで進むと誰もいないのね」
「ここなら我が顕現しても問題なかろう」
ついに洞窟広場に野営の人がいなくなりました。多人数が寝泊まりできるだけの広さがある広場は一人だと余計に広く感じますわね。
「我がいるではないか」
「話し相手としては不十分よ」
「何!?」
知識はあっても雑談するには向かないわ。だってお話が面白くないもの。わたくしのお話は全肯定で終わってしまうし、少しは神崎を見習ってほしいものですわ。このつまらない日々を少しでも短縮する術を考えなくてはなりませんね。
わたくしはそんなことを考えながらその日は就寝しました。翌日からは同じように攻略の日々が続きます。
「こっちかしらね」
「なぜ主は階段の場所がわかるのだ?」
「単純なプロファイリングの結果よ」
これまでの攻略で得た知見は何も魔物と戦い方だけではなくてよ。これまでの攻略から洞窟広場と階段の位置関係はある程度パターン化できるわ。そこに上空から見た地形と階層の広さを加えると階段の位置はおおよそ見当つく。ただそれだけのことよ。
「お喋りもこれくらいにして進むわよ。無為な時間は必要ないもの」
わたくしのプロファイリング通り階段は比較的簡単に見つかり。攻略は順調に進みました。火山地帯のエリアボスは溶岩を泳ぐ巨大なダンゴムシでした。溶岩から出てきた合間を縫って攻撃する必要のある強敵です。普通なら。
「今度は氷漬けか」
「冷えたら固まる溶岩が悪いのよ」
ちなみにダンゴムシは固まった溶岩の中で身動きが取れなくなりました。つぶらな瞳は意外と可愛かったのですが口が可愛くなかったです。ちゃんと倒しましたが。
90層、100層のエリアボスはそれぞれ巨大なカニと巨大なトカゲでした。どちらも地形は特殊なものではなかったので普通に倒して終わりです。
「101層。大台ね」
「ここから魔物は一筋縄ではいかなくなる。気をつけよ」
ルシファーがそんなことを言いました。わたくしは素直に聞いておきます。なぜなら雰囲気がガラリと変わったことを肌で感じ取れたからです。このピリピリとするような感覚は初めて感じるものでした。少し不愉快な気分になります。
「洞窟広場は普通ですわね。転移石もありますし。それならばこの感覚は外から来るものでしょうか?」
洞窟広場の外は既視感ある風景でした。ダンジョンのエリアの一つにあったジャングルに酷似しています。ただし、あの時よりもより一層鬱蒼とした熱帯雨林のようなジャングルです。その中を白い綿毛の塊みたいなものがわたくしに向かってゆったりと流れて来ました。
「これは……」
警戒しつつも興味本位で手を伸ばそうとしたわたくしでしたが、ある一定範囲に綿毛が入った瞬間、ピリピリとする感覚が非常に大きくなりました。大慌てで手を引っ込め、シールドを張ります。そのすぐ後に目の前の綿毛がポフッと気の抜けた音を立てて破裂したのです。
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