第155話 いつから第二形態がボスの特権だと錯覚していた?
光球が大きくなっていくなぁ。こういう時、何て言うんだっけ? わりぃ、俺死んだ。よし、オッケーだ。
『オイ』
「何だ?」
『この状況を解決できる案がある』
な、なんだってー! 今から入れる保険があるんですか!? じゃない。早く教えてくれ。でないと死んでしまう。マジで。
『“人魔一体”というスキルがある』
「それを使えば勝てるんだな?」
『ああ、たぶんな。だが、失敗すればオメーは人間性を失い歴史上の魔王と同じ道をたどる』
はーん、嫉妬に狂って暴れ回る魔王になるわけね。そう。
「今更そんなことで俺が躊躇うと思ってんのかよ?」
身体を失って死ぬか、精神的に死ぬかの些細な違いしかない。それに、もし俺が狂った魔王になってもアイナなら倒せるだろう。それに、俺は狂わない自信がある。何故かは知らんがな。
『ギャハハハ! オメーならそう言うと思ったぜ』
「笑ってないで早くしてくれーっ!」
『いくぞ』
今にも放たれそうなブレスを前に俺は声を荒げる。それを笑いながらレヴィアタンが掛け声を発した。そして、ほんの僅かの時間をおいて、俺のいた空間をブレスが走り抜けた。
「あっぶねぇなぁ」
引きちぎった触手を回収しながらその光景を見下ろして俺はそう呟いた。貫通していた部分はみるみるうちに塞がっていき、あっという間に完治してしまう。恐ろしい回復力だ。
『気分はどうだ?』
「最高に最低だ。お前がうんざりする気持ちがよくわかったぜ」
今の俺の視界はひどいものである。色がついているはずなのにセピア色に色褪せて見えていて、無性に神経を逆撫でしてくる。これがずっと続くと考えると辟易してしまう。
『安心しろ。解除はできる』
「なんと便利なスキルなのでしょう!」
『長時間の使用で精神汚染が広がるぞ』
え? 何そのワード。超怖い。SAN値を削って戦っている感じなのか。ピンチだな。精神汚染は解除して時間経過で治る? 充電式SAN値だったか。どちらせよ早期決着が望ましいと。
俺は気杖を握り直す。身体がとても軽い。ステータスをじっくり見る暇はないが、下方に見えるムカデワニが矮小な存在に見えるくらいにはステータスが爆増している。今ならあのブレスの直撃なんて屁でもないだろう。
「さて、腕試しといこうか」
俺は上空のシールドを蹴った。それだけでシールドが壊れたが気にしない。まずはステータスチェックのジャブからだ。軽く左ストレートを上顎に打ち込んでみる。するとどうだろうか。ムカデワニの甲殻は砕け、物凄い勢いで地面に叩きつけられた。
……ヤバない? 「私の戦闘力は53万です」がリアルにできそうだ。それは兎も角、ムカデワニもボロボロだなぁ。喉元は破裂した肉片がぶら下がっているし、自分のブレスで胴体の一部が抉られているし、尻尾の方はあらぬ方向にひん曲がってんじゃん。あれか? 俺を地面に叩きつけた時に潰れたのか? よく死なねぇな。
「どうなってんだ? ゾンビにでもなったのか?」
『違う。気配探知で探ってみろ』
レヴィアタンに言われるがままムカデワニの気配を細心の注意を払って探ってみる。凶悪な気配を放つムカデワニの陰に隠れてもう一つ気配が蠢いていた。
「あの触手は別の魔物なのか?」
『たぶんな』
「となると寄生虫みたいな感じか」
ハリガネムシみたいなもんか。こわ。ていうか、ムカデワニは身体を乗っ取られているっぽい? 苦しそうな声はそれが原因か。もしそうなら辻褄は合うな。自分の肉体じゃないから手荒に使うのも納得だ。
「どちらにしろ倒すことには変わらねぇ」
『やっちまいな』
俺は気杖に過剰な魔力を込める。100%壊れるだろうが、この一撃で決めるから無問題。上空で加速をつけてムカデワニに正面から立ち向かう。ムカデワニも俺の動きから回避が無意味と悟ったのか、最大威力のブレスで対抗するようだ。
「決着を付けようぜぇ!」
「アアァァァァアアアァァァアァァ!!!」
この咆哮は本来のムカデワニだな。触手から身体の制御権を奪い返したか。いい覚悟だ。だが、悪いが勝たせてもらう。
地面から光の奔流が立ち昇った。俺は光の激流を真っ二つにしながら全力で逆らって進む。そして、俺とムカデワニが交差した。ひしゃげて魔力刃を形成できなくなった気杖を片手に俺は地面に降り立つ。遅れて左右にぱっくりと割れたムカデワニの頭部が落下した。
「勝った……。勝ったぞ……!」
『オメーはよくやったよ。オレサマが心から褒めてやる』
気配探知でムカデワニと寄生虫の両方とも死んだことを確認して俺は勝鬨を上げた。紆余曲折あったが、俺は圧倒的強者に勝ったのだ。
『人魔一体を解除するぞ』
「おう。……うっ……」
人魔一体を解除した途端、身体に馬鹿みたいな疲労感がのしかかってきた。視界はクリアなのに、この異様な疲労感。まるで二徹した年末の仕事納めが終わった瞬間みたいだ。うげぇ。
この状態では長くはもたないと判断した俺は素早くムカデワニをマジックバッグにしまうと拠点に急ぐ。身体を綺麗にしてベッドに横たわった瞬間、俺は気絶するように意識を手放した。
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