第151話 ようやく本題に入れるぞ

「こんなもんか」


「オメーの裏の顔を見た気がするぜ」


「気がするだけだ」




 ちょっとみじん切りにしたくらいで何を言ってんだろうなレヴィアタンは。こいつはこんな軽い罰じゃ許されない下衆だぞ。時代が許すなら拷問にかけても何ら問題ないくらいだ。




「たまにいるどうしようもない人間ってヤツか」


「そうそう。そんな感じ」




 そういうゴミみたいなヤツに限って中途半端に頭が回って世渡りが上手いから面倒なんだ。そんなヤツを見ていると真面目に生きるのが馬鹿らしくなるぜ。


 俺はそんなことを言いながらレヴィアタンと共に手下のゾンビを一ヶ所にまとめる。彼らは丁重に火葬する予定だ。ゴミゾンビは別で消毒する。




「死んだら誰もが死体だろうに。分ける意味がわからねー」


「死んだら全部許されるとでも? 死んでも功罪は残るさ」


「そんなもんかねー」




 そんなもんだよ。死ねば皆仏とか言うけど俺はそうは思わない。下衆が大往生とか許せんよな。そいつのせいではるかに多くの人が不幸になってんのに。ま、他人に理解してもらおうとか微塵も思わないからどうでもいいけど。




「せめて彼らの来世が幸福なものでありますように」


「偽善だな」


「好きに言えばいいさ」




 人を殺しておいて来世の幸福を願い口に出すとか、確かに偽善者っぽいな。ま、下衆よりはよっぽどいいし、聖者よりも俺っぽくてマシかな。


 俺は火葬を終えて、残った骨は埋めておいた。それっぽい簡素な墓標を建てて終了だ。アレの襲撃はなく、探しにいかなければならないが、それでよかったと思う。




「よし、午後からはアレを探すぞ。心当たりはないか?」


「ない」


「使えねぇな」




 ねぐらの位置とか知らないのかよ。使えねぇなこの魔王。仕方ない。刑事ドラマよろしく足で探すしかないか。気配探知がある分かなり楽ができるのが救いかな。


 俺たちは山脈をぐるりと回ることにした。しかし、これが大変だった。




「魔物はいるわ、足場は悪いわで探しにくくてたまらんな」


「アレが暴れた跡だろうな」


「ぺんぺん草一つ生えてないじゃん」




 鬱蒼とした木々の中に大きなクレーターがぽっかりと口を開けている。地面がむき出しになっていて、クレーターの底には水が溜まっていた。比較的新しいクレーターらしく、これからここは湖にでもなるのだろう。




「これと戦うのか……」


「引き返すなら今の内だぜ?」


「馬鹿言え。俺は勝ちに来たんだ」




 ここで逃げ出したらアイナに勝つなんて夢のまた夢。アレの討伐は通過点でしかない。絶対に勝つ。


 こうして探し始めること数時間。俺は怪しい洞窟を発見した。山の中腹に空いた巨大な洞窟があった。気配探知には何も引っ掛からなかったが、異様な雰囲気を漂わせていた。




「これがアレの住処か?」




 アレは複数の住処があるのか? これだけ広い住処なら何個も住処があっても驚かないが。まあいい。位置だけ覚えておこう。ついでに中を確認だ。何かあるかもしれない。




「何もないやないかい!」


「そらそうだろ」




 そらそうじゃないよ! 巨大な強敵が住処だよ? 金銀財宝がザックザクなのが普通だよね? もしくは最強装備とか古代遺跡があるとかが度定番じゃん。なんで何もないの? ファンタジー世界ならテンプレを守れよ!




「オメーが何をそんなに怒ってんのか理解出来ねーが、アレの探索を進めねーのかよ?」


「……進める」




 覚えてろよ、あの空飛ぶ即死トラップめ。俺を落胆させた罪を償わせてやるからな。


 俺はアレの住処にいろいろと細工を施して探索を再開した。日が落ちる前にもう一つ住処を発見したが、そこも空振りに終わった。




「……帰るか」


「そうだな」




 俺たちは拠点に戻ることにした。夜でも探索は可能だが、それでも昼間より気配探知に頼ることになる。視界に頼れない戦闘は少し不利だ。それに、今から戦闘になると俺の疲れが少し溜まった状態で戦うことになる。勝率を少しでも高めるために戦略的撤退が賢い判断なのだ。




「相変わらずメシはウメーな」


「これで美味いならシェフの作った飯なんて食ったら腰ぬかすぞ」




 一流の料理人が作った飯はマジで美味い。そらいいところの食事処はいい値段がするわけだわ。クソ面倒な接待で味のしなくなった高級料理なら食べたことあるけど、飯くらい気楽に食べたいものだ。その点、コンビニで買った飯を一人で食うのは気楽だったなぁ。


 翌日、俺たちは昨日見つけた住処から探索をスタートしようとしたら、その住処に凄まじい気配を感じた。




「昨日のうちにここまで来たのか。夜行性か?」


「アレの習性なんて誰も知らねーよ。しかし、どうする?」


「そりゃあもちろんやるに決まってんだろ」


「死ぬかもしれねーぜ?」


「死んだら死んだでいいんだよ。別に生きることに執着ないし」




 今は伸びしろがあるから全力で頑張っているけれど、人生の大半が大して面白くもなかった俺に生の執着はない。だから自分の命とかどうでもよくて、死に対して恐怖心とかないんだろうな。だから簡単に生き物を殺せるし、自分の生命の危機も簡単に受け入れる。




「ギャハハハ! オメーならやれるさ。オレサマが憑いてるしな!」


「ハッハッハ! 不安しかねぇぜ!」




 最後になるかもしれない冗談を言い合って爆笑する。ひとしきり笑い飛ばすと、開戦の狼煙を上げる。


 さて、盛大に戦いを始めようか。

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