第150話 おや? このクソッたれな気配は……

「到着っと」


「なんだこの谷は?」


「何って谷だろ。もしくは渓谷」


「ちげーよ。こんなところに谷なんてなかったはずだ」




 え? そうなの? もしかするとあれかな? 俺たちが逃げないように神が作ったんじゃね? 知らんけど。




「……あり得る」


「マジか。性格悪いな神って」




 三方を高い山脈に囲まれ、唯一の脱出できそうな方向は渓谷がある。正に陸の孤島と呼ぶに相応しい場所だ。サバイバルデスマッチをさせる会場としてはまずまずといったところだろう。




「オメーらどうやってここを越えたんだよ」


「簡易的な橋を架けた」


「……は?」




 お? レヴィアタンがフリーズしたぞ。そんなに非常識なことしてないと思うけど。制限なしのマジックバッグなんてぶっ壊れアイテムを置いておく方が悪い。つまり俺は無罪だ。裁判所から出てきて無罪と書かれた紙をバッと広げたい気分だね。


 俺からその時の話を聞いたレヴィアタンはゲラゲラと笑い転げた。




「ギャハハハ! オメーそんなことしたのか! ギャハハハ! そりゃー、あの神もびっくり仰天だろーよ」


「ざまぁないぜ」




 神に一泡吹かせられたのなら俺の斬新で画期的なアイデアも悪くないと思う。ま、神の手から逃れたと思ったら、自分の意思で舞い戻ってくるんだから俺も大概どうかしてるかもしれんな。




「今日はここで野営だな」


「気をつけろよ? アレが飛んでくるかもしれねーぜ?」




 それは知っている。夜に光を外に出さなければ襲ってくる確率はかなり低いと思われるのは実戦済みだ。




「ゴホン。……ここをキャンプ地とする!」


「……あー……」




 ツッコミを諦めた!? 馬鹿な。レヴィアタンの存在価値がなくなるんだぞ? まさかお前、消えるのか?




「消えねーよ!」


「なんだ消えないのか」




 塩を撒いても退散しない悪霊だからな。そう簡単に成仏しないか。




「なにちょっと残念そうなんだよ」


「なに、気にするな。晩飯食おうぜ、晩飯」


「釈然としねーがメシは食う」




 俺はいつもの野営セットにプラスして、光が外に漏れないように細工しながら野営の準備を整えた。食料は大量に買い込み、事前に料理を適当に作っている。マジックバッグから取り出せば、いつでもできたてのメシが食べられるという寸法だ。ちなみにレヴィアタンは食事不要なはずだが、娯楽の一部としてメシを食べている。トイレはしていない。不思議な生態だ。


 俺はゆっくりと睡眠をとって翌日に備える。徹夜したおかげで俺にしてはすんなりと寝入ることができた。




「珍しい。起きたか」


「こういう時は起きちまうんだよ」




 翌日の予定を意識すると目が冴えるんだよ。社畜の悲しき習性は抜けきらないものだな。


 俺は朝飯を食べて片付けをしてから出発した。渓谷を舞空術で渡り、向こう岸に着地して歩く。アレはこの地域全体が住処であり、正確な位置がわからない。まずはアレの居場所を探すことが先決だ。時刻次第でそのまま戦闘。夜が近ければ一時撤退して出直す予定だ。




「……ん?」




 気配探知に何かいるな。この気配は、この腐ったような嫌悪感を放つ気配はあいつだが……。俺がキッチリ殺したはずなのになんで動いてるの? 




「知り合いか?」


「やめろよ。あんなのと顔見知りとか反吐が出る」


「ひでー言い草だな」




 あのクソ下衆と顔見知りとか最悪だわ。ま、いいや。生きているならもう一度殺すまで。二度と蘇られないくらいに掻っ捌いてくれるわ。ついでに引き連れている彼らも丁重に葬らなければ。


 俺は懐かしき拠点に向かう。木の影からこっそりと観察をするとなぜ動いているかが理解できた。




「なるほど、ゾンビか。死体放置したままだったからなぁ」




 身体に穴が開いていたり、欠損していたりするのが痛々しい。彼らは丁寧に火葬しよう。あの時はできなかった俺の責任もあると思うし。ついでにアレが来たらぶっ潰そう。


 気配探知にはそんなゾンビの気配が多数うろついている。確実に他の魔物や動物のゾンビも従えているのだろう。今の俺なら多少数が多かろうが関係ないが、念には念を入れて数を減らしておくことにする。




「オペレーション・メテオを発動」


「あ?」


「作戦名に意味はない」


「は?」


「殲滅だオラァ!」




 とりあえず目の前にいたゾンビの首を落とす。次に近くにいたゾンビの首を落とす。そんでもってちょっと離れたところにいたゾンビの首を落とす。何やら近づいてきたゾンビの首を落とす。こんな感じでどんどん殲滅していった。




「ようやく出張ってきたか」




 手下をけしかけるところは変わってねぇなぁ。もう7、8割くらい殲滅しちゃったよ? どうやって俺に勝つつもりなんだろうねぇ? えぇ! 摺木さんよぉ!




「お、おま……お……」




 ボロボロの服を着ながら、心臓に穴が開いているのに動いているとか気味悪いな。しかも何か喋ろうとしてるし。


 俺を見て何やらごもごもと口を動かす摺木ゾンビを俺は一度気杖でぶっ叩いた。俺の中でこいつだけは痛めつけても問題ないのでセーフだ。何がセーフなのかは知らないけれど。




「お前は後で相手をしてやる」




 摺木のスキルは洗脳系。そして、洗脳した相手が多いとステータスが上がるような特徴があったはずだ。正確なのは本人にしかわからないが、確かそんな感じだったはず。だから周りの手下を葬っていく。


 摺木ゾンビが逃げないように適度に殴り飛ばして初期位置に戻しながら戦うこと十数分。摺木の手下のゾンビを殲滅し終えた俺は、必死に逃げようとしている摺木ゾンビの前に立ちはだかった。

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