第149話 ボス戦前の準備確認だ

「おい、もう昼だぞ」


「……あと5分」


「3回目だ」


「……あと5日」




 2日も戦い続けていたんだぞ。5日くらい寝ても罰は当たらねぇよ。スヤァ……。ん? ガチャガチャとうるさいなぁ。




「死者の目覚め!」


「うわぁ!」




 中華鍋とおたまをガンガン打ち鳴らすんじゃありません! それは料理で使うものです! いや、これを教えたのは俺だけど。空中に浮かんでいるレヴィアタンにムカついてやりました。反省も後悔もしていません。……ごめん、今ちょっと後悔してる。




「起きたか」


「それで起きたらゾンビじゃね? 俺人間だから」


「ゾンビにしてやろう」


「謹んで遠慮するわ」




 こうして強引に叩き起こされた俺は移動するのも億劫なので、この場で装備を作ることに決定した。作業台を取り出して、素材を確認しながら装備を思い描く。ちなみに俺が踏破したダンジョンは冒険者組合が未確認のものばかりなのでこんなことができるのだ。




「さてさて、気杖は正統進化させるだけだが……防具をどうすっかね?」




 耐性系ははっきり言って必要ない。全耐性のスキルは持っているし、街中や移動時の平和な時に毒を服用したり、状態異常になる装備をつけたりしてスキルレベルを上げているからだ。レヴィアタンは「狂ってやがる」と言っていたが、これくらいは当然だよね?




「不意打ちの仕掛けは後付けで完了するし……、やっぱり緊急用の防御スキルとリジェネか。あとは純粋にステータスを高めるだけかな」




 無駄にいろいろ付けるより、シンプルに強くした方がいいだろうな。戦術や魔道具は柔軟に変更ができてもステータスはそうはいかない。ステータスの強弱は逆立ちしたって覆せないのだから。


 方針の決まった俺は思いついたレシピに沿って素材を作業台の上に乗せる。ベースは今の装備と白鎧だ。目を閉じて魔力を注ぎ、錬金術を発動する。




「ほう、綺麗なもんだな」


「よく言われる」




 アイナがそう言っていた。あぁ、いかんな。アイナのことを思い出すと多方面から罪悪感と嫌悪感が波状攻撃をしてくる。やめて! 俺のライフはもうゼロよ! と、完成だ。




「変化してねぇ」


「しているぞ。白いラインが入ったことにより全体のメリハリがついて、元の野暮ったさが軽減されている」


「何でそんなに饒舌なんだよ」




 コイツはファッション雑誌の編集者か。服なんて着られればそれでいいんだよ。そもそも地元にし〇むらしかなかったからファッションとか微塵もわかんねぇし。そもそもファッションなぞ、着ている人間がスタイル抜群の長身のイケメンなら格好良くなるんだよ。わかったかコンチクショウ。




「着心地は快適。スキルは……リジェネがパねぇ。緊急用のシールドは再充填可能。ステータスの上りも上々。修繕とかもオッケー」




 完璧。これ以上ないくらいの装備ができました。ま、これでも空飛ぶ即死トラップの素材で作った装備には負けるんだろうな。アレを倒すのが待ち遠しいぜ。


 俺はその他の装備も作り、魔道具や魔法陣なども量産しておいた。気が付けば翌朝になっているあたり、俺は変わらないらしい。




「こんなもんかねぇ」


「遅い。待ちくたびれたぞ」


「知ったことか」




 途中で空中に寝転がっていたコイツにどうのこうの言われる筋合いはない。俺は夜通し錬金術と魔法陣をフル活用して疲れてんだ。今から寝てもいいんだぞ。




「やめろ! オメーが寝ると起きねぇから」




 失敬な。目は覚めている。起きてないだけだ。何? 余計タチが悪いだと? あのまどろみが最高なんじゃないか。




「ま、昼夜逆転しても意味ないから、今日は移動に費やす。明日にはアレの住処に到着だ」




 アレの住処。そう、察しのいい皆さんは既にお気づきの事でしょう。我々が最初に転移してきたあの場所。全てが始まったあの地がアレの住処なのです。そんな危険な場所に放り込んだ神とかいう存在はマジで一回シバかれろ。




「本当にアレに挑むんだな?」


「当たり前だ」


「イイねー。あのバケモンに正面から喧嘩を売る馬鹿がいるとはな。楽しみだぜ」




 魔王からバケモン呼ばわりされるアレはそれだけ強い。レヴィアタン曰く、最強を自負する他の魔王が挑み、見事返り討ちにされたこともあるくらい強さらしい。アレはイレギュラーであり、生粋の強者である。それに正面から挑むのは正気の沙汰じゃないと笑われた。




「さてと、何はともあれ移動しますかね」




 挑むにしても、ますはアレの住処に向かわなければ意味がない。ということで、目的地に一瞬で行くにはどうしますか? そうですよね? ルーラを使うんですよ。……なんて言うと思ったか? 残念だったな。空間魔法とかの所謂チート魔法は使えないんだぞ。大人しく歩こう。




「つって走ってんじゃねーかよ」


「上半身は腕を組んで大人しくしているだろ?」


「走っている事実は変わんねーよ」




 おっと、焦点ずらしは不発だったか。しかし、この走り方はダメだな。走りにくい。さすれば両手を後ろに伸ばして前傾姿勢で走るか。これで俺も一端の忍者だな。




「走りにくいだろ」


「……うん」




 結局、腕を振って走るのが一番いいね。また一つ賢くなったよ。

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