第141話 目標ってなんだろう

「疲れたぞ……。何で戦闘より戦闘後の方が疲れるんだ」


「それはオメーが人間関係を疎ましく思っているからだろーが」


「面倒じゃん。人間関係って」


「オレサマは人間じゃねーから知らねーな」




 この腐れ魔王が。魔王だからって傍若無人に振舞うんじゃねぇよ。何様のつもりだ。




「オレサマ」


「山田君、座布団3枚持ってってー」


「ザブトンってなんだ?」




 クソがぁ。鉄板ネタが通じねぇとかマジつまらねぇんだが。てか、この世界に座布団ないのか? いや、コイツ意外と知らないことあるし、ワンチャンあるかもしれん。座布団があれば和風の国があるかもしれない。和風の国があれば醤油があるかもしれない。醤油があれば桶屋があるかもしれない。つまり、桶屋が儲かるのだ。




「意味わかんねーよ」


「気にするな」




 あー、余計に疲れたぁ。あ、ちなみに今がどういう状況なのか説明すると、ざっくりと戦闘を終えた俺は負傷者を癒して回って、その度に「ヴァンドール様の増援だ」を繰り返していた。で、そのヴァンドール様と冒険者組合の長の2人に呼び出されて色々あった。最終的に俺はAランクに昇格すること、ヤギ悪魔とキマイラの素材を全て貰うこと、大量の報酬を貰うことになった。




「もっと欲張っても罰は当たらねーよ」


「身の程を知ってんだよ」


「かー! 御立派だねー」




 大量の要らない素材とか売るだけだし、魔石も正直ダンジョンでたくさん集まったからそこまで必要ではない。貴族関連の話は面倒だから全て断った。あの贅肉団子は戦線崩壊の責任を問われるそうだ。そして、チョビ髭はこの街の英雄になったよ。




「人の噂って怖いねぇ」




 なにせ俺の名前は一言も言ってないからな。噂に尾ひれがついてチョビ髭が獅子奮迅の大活躍したことになったよ。俺が担ぎ上げられなくてよかった。




「で、これからどうするんだ?」


「報酬の受け取りは明日だから、その後すぐに旅立つ。噂がどうなるか見ていたい気もするが、俺が巻き込まれそうだから逃げるわ」


「巻き込まれるの何も、オメーがあの貴族を巻き込んだんだろーが」


「はて? 何のことだか」




 俺はチョビ髭の要請を受けただけ。そして、嘘は言ってない。ちょっと事実を言わなかっただけだ。




「この街を出たら真面目に目標を考えるぞ」


「頑張れ」


「お前も考えるんだよ」


「面倒くせー」


「俺に憑りついた罰だ」




 そして翌日、俺は冒険者組合で素材と魔石と金を受け取り、昇格してから速攻で街を出た。今にも話しかけてきそうな冒険者たちや面倒くさそうな貴族たちが街中の至る所で待ち構えていたが全てスルーした。




「コソコソ隠れなくても誰もオメーを止められねーよ」


「これが一番早く外に出られて合理的だ」


「それは一理ある」




 さて、街を出たことだし目標について考えようか。目先の目標であるAランクになることは達成できた。次の目標だ。




「目標……したいこと……なくね?」


「知るかよ」




 この世界を観光するっていうのなら現在進行形でしている最中だし、かと言って他にすることがない。有名人になるのも、支配者になるのも興味がない。スローライフは……いつでもできるな。




「強くなるのは?」


「時間をかければ達成可能なものを目標と呼ぶのか?」




 レヴィアタンが言ったように強くなるための行動はしている。だが、それは時間がかかるがそのうち達成可能なもので目標ではないと思う。目標っていうのは何て言うか、こう、努力してようやく達成可能なものだと思うんだ。そういう意味での目標は見つからない。




「わからねーな。今のオメーは強くなるために行動を起こしている。それは努力にならねーのか?」


「帰る場所もなければ、一ヶ所にいてはこの世界は飽きる。結果として動いているに過ぎない」


「何となくオメーの努力の指標が高いことはわかった。で、オメーのことだから努力してもその目標に届かず勝手に落ち込むんだろ?」




 う……、何てことを言うのだ、コイツは。いや、現実的な目標を立てない俺が悪いのか。そもそも現実的な目標ってわからないんだよね。周囲に流されて大学まで行ったし、適当に就職した。失敗だったけど。社会に出てからは目の前の仕事に忙殺されて目標とか決める暇なかったもの。その日一日を乗り越えることだけで精一杯さ。




「能力がねーヤツが無駄な努力をした結果がオメーか」


「やかましいわ」


「オイオイ、オレサマは感謝してんだぜ? オメーがいたからこのクソッたれな世界をもう一度見たいと思ったんだからな」


「なら誠意を示せよ」




 うん。俺には目標が決められねぇわ。だから決めてくれよ。他人に決められた目標って会社の営業目標みたいで嫌だが、レヴィアタンが決めるならいい塩梅で決めてくれるだろう。あと面倒だし。




「最後が本音だろ。ったく、しゃーねーな。あー、そうだなー、オメーはあのガキが記憶の封印を破って来ると思ってんだろ?」


「ああ、そうだが?」


「オメーの期待するガキが来たとして、オメーはどうするつもりだ?」




 どうするって……どうしよう。アイナのためを思うなら叱って爽やか君たちのところに帰るように言うか? 言って聞くような子ならそもそも来ないな。アイナなら怒りそうだ。「わたくしがその程度で諦めると思ったの?」とか言いそう。




「で、オメーとガキの意見はぶつかるわけだ。当然、その後は意地のぶつかり合い。勝った方が正義さ」


「そらそうだな。俺がアイナと戦うことになるのか。……戦うのか、アイナと」




 勝てる、俺? 前回は魔王スキルとステータスの暴力で解決したようなものだが、次は違う。アイナは失敗から学べる子だ。俺に勝つために最善手を最高効率で打つだろう。本気になったアイナに俺が勝てるのか? 少なくとも今のペースではヤバいと思う。




「レヴィアタン」


「何だ?」


「決まった」


「ほう?」


「強くなる」


「オレサマが言ったのと変わらねーじゃねーかよ」


「違う」




 こんなカメの歩みみたいなペースではない。本気で走るウサギにカメが勝つための速さだ。




「無理だろ」


「普通は、な」


「……ギャハハハ! やっぱりオメーは狂ってんぞ!」




 さて、俺が唯一勝っている狂気で挑もうか。

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