第140話 魔物よりもモンスターしてるよ
「こちらです」
「これは……酷いですね」
兵士に案内された門に到着すると、多くの怪我人や救護の人がいた。こちらの戦いは激戦らしい。兵士の詰め所らしき場所に案内されて、この方面の指揮官様とご対面だ。
「ボルファッグ様、増援が来ました」
「ようやくか。まったく。冒険者風情が私を待たせるな」
うわぁ。よく創作にいるクソ貴族が来たわ。丸々と太った身体に俺を見下す目。装飾過多で実用性のない鎧。チョビ髭を見習えよ。
「この一人だけか? ヴァンドール家め。こんなの一人で戦況を変えられるわけなかろう。目が腐っておるわ」
俺の目が腐りそうだよ。こんなのが上とか嫌すぎる。だが、戦況を一人で変えられるわけないって意見には同意だけど。普通は無理だから、普通は。
「いつまでボサッっと立っておる。早く戦場に向かえ! ノロマ!」
あー、ムカつく。誰がノロマか。お前よりは早く走れるわ。さっさと出て行こう。気分が悪い。
「クックック、弱そうな冒険者一人か。あのようなものを派遣したヴァンドール家の評判を落とすよい機会だ。責任を擦り付けるには丁度いい」
閉まった扉の向こうからそんな声が聞こえた。誰もいないからと言って、誰も聞いていないとは限らないんだなぁ、これが。そして、俺って陰謀に巻き込まれてる? よし、壊そう。俺を巻き込んだことを後悔するといい。
俺は詰め所から出て戦場に降り立つ。指揮官がまともに機能しておらず前線は半壊。ほとんど個々で戦っているようだ。これでは被害が増すばかりだろう。
「前線の再構築と負傷者の救護、魔物の殲滅と忙しい。仕方ない。俺が3人分になろう」
黒と白のゴリラでも生み出すのか? それともゴーレムでも作ったのか? 答えはノーだ。もっと単純に考えろ。俺が3倍働けばいい。つまり、赤くなれば解決だ。行くぞ!
俺は初めて全力で駆けた。残像を生み出しながら孤立している兵士や冒険者の援護に向かう。瞬く間に魔物を倒し、怪我人をスクロールで治してこう告げる。
「ヴァンドール様の増援だ。立てるな?」
こうしておけばチョビ髭の増援で助かったと皆思い込むだろう。そしたら後はチョビ髭がどうにかするだろう。いくらあの贅肉団子が権力を持っていようと、これだけの兵士と冒険者を敵にして生き残れるとは思えない。知らんけど。
俺が前線の魔物の大半を仕留める頃には前線は再構築されていた。残った魔物もキッチリと倒せているので問題なさそうだ。
「やっとお出ましか?」
ついにボスの強敵が動き出した。がっしりとした身体つきの人型のヤギだ。骨ばった羽もある。全長は5メートルくらい。しかも、キマイラっぽい魔物を2体も引き連れて。
確かヤギって海外で悪魔の象徴だっけか。それが化け物を率いてたら、そら悪魔ですわ。マジ悪魔。おいレヴィアタン。お友達だぞ。
『オレサマに家畜の知り合いなんざいねーよ』
「お前にとってあれは家畜なのか……」
あんなの厩舎にたくさんいたらびっくりだよ。もはや飼っているその人が魔王だわ。あ、コイツ魔王だった。
「さて、俺の強さの確認に付き合ってもらうぞ」
まずはキマイラの攻撃ね。あのクソ鳥と同格くらいの強さといったところか。なんて都合がいいんだ。キマイラは前足を振り上げて、叩きつける。しかし、俺にはダメージを与えられない。地味に肉球がぷにぷにしてるよ。生意気な。鉤爪の直撃も痛くないな。皮膚も切れてない。
「お、尻尾がヘビなのね」
どういう身体の構造してんだろうね? 前にライオン頭、尻尾にヘビ頭、背中にヤギ頭って大渋滞だよ。あ、ヘビ頭が噛みついてきた。
「さすがに丸呑みは勘弁だわ」
俺はヘビ頭の大顎を両手で掴み、そのまま上下に引き裂いた。悲鳴を上げたキマイラはライオン頭から炎を吐き出す。ヤギ頭も魔法で応戦するが、それでも俺はノーダメージだった。
「ふむ、物理、魔法ともに効かないか。本格的に化け物になった気がする」
俺がのんびりとしている間もキマイラ2体の猛攻が降りかかっているのだ。それを棒立ちの俺が受け止めている姿は、傍から見ると摩訶不思議な光景だろう。
「いい加減鬱陶しいな」
俺は片方を拳で叩き潰し、もう片方を武器で両断した。いとも簡単にやられたキマイラ2体を見て、ヤギ悪魔は一歩後ろに下がった。その目からは恐怖が見て取れる。
「逃がさねぇよ」
全力で空を飛んで逃げようとするヤギ悪魔の目前に先回りし、その頭に全力で拳を叩き込んだ。頭蓋骨が割れ、頭がひしゃげて潰れたヤギ悪魔は絶命した。
強くなったな、俺。達成感ゼロだけど。何でだ?
『そりゃー、オメーが格下を狩って喜ぶ人間じゃねーからだろ』
「強くなっても虚しいんだな」
『ギャハハハ! オメーには目標がねーからな。強くなる意味がねーんだよ』
確かに。俺はレベル上限を上げることが目標だった。その目標を達成した今の俺には目標がない。達成感がないのはそもそも目標を決めていないからなのは納得だ。
「目標を考えないとな」
『果たして今のオメーに目標なんてあるのかな?』
「ないと虚しさが続くだけだ」
俺は虚しさを抱えながら、残りの魔物を殲滅していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます