第138話 物欲センサーは実在する

 コウモリ君は上位錬成を繰り返しコウモリみたいな羽の素材になった。それを鑑定すると、そこそこの品質でスキルが付いていた。その中でも不死と幻影はユニークスキルらしい。


 幻影は使えるな。気配探知でバレるけど、そこは工夫して何とかしよう。不死は要らねぇな。これを捨てて品質を高める方に振るか。他にも要らないのは捨てて……。




「オイ! ダンジョン制覇の報酬を受け取れよ!」


「あん? そんなのあるの?」


「ほれ、そこ。宝箱が出てきた」




 な、何でこんなところに宝箱が。確かに俺は確認したはず。ここには何もなかった。本当なんだ。信じてくれ! はい、遊びはここまで。宝箱を御開帳~。




「相変わらず騒々しい野郎だぜ」


「褒めんなよ」


「末期か」


「うっせぇわ」




 中身は武器と何かと何かと何か。うん。わからん。鑑定していこう。武器はスキル付きだが作れる。布っ切れはマントか。微妙。水が自然に湧いて出てくる壺とかの微妙系魔道具。で、この玉っころは……。




「覚醒の宝玉か。へぇ。……今出る?」




 その問題解決したばかりなんだけどなぁ。マジふざけんな。死ぬほど痛かったし、悪霊に憑りつかれるしで散々だったんだぞ。お前がもっと早く来てくれれば、俺はアイナたちと別れずに済んだのに……。クソがぁ……。




「しかも二個! 要らねぇ!」




 マジふざけんなよ! だぁぁぁあぁぁああぁぁぁ!




「ギャハハハ! オメー間が悪いなー! あー、面白」




 物欲センサー許すまじ。いつか必ず復讐する者が現れるぞ。そう、俺とかな!


 俺は無性に疲れてダンジョンから出た。最下層から一層まで直通の転移石も宝箱と同時に現れる親切設計でよかったと思う。夕日が目に沁みた。




「予定はずれたが目的地に到着っと」


「オメーは寄り道すべきじゃねーな」




 何を言うか。ちょっと気になったらホイホイついていっちゃうし、ちょっと方向音痴なだけなのに。ちょっとお茶目なおっさんの何が悪い。え? 人生も絶賛迷子だろって? フッ、人生皆悩み、迷うものなのさ。そこで苦労した分格好いい大人になるのだ。わかってないなぁ、君は。




「格好いい大人が子供を放逐なんざしねーよ」




 ぐぼぁ……。それを言われるとぐうの音も出ねぇ。アイナ、元気にしてるかな? いや、どの口が言うか。俺は心配する立場にいないのだけは確かか。……やめだやめ。俺は俺のことを考えよう。


 俺は遠くに見える大きな街に向けて歩き出した。レヴィアタンは精神世界に入って待機である。どうやってか視界は確保しているそうなのだが、これがまたうるさい原因だ。何かを発見すると脳内にレヴィアタンの声が響くのだから。




「冒険者の方ですか。よかった」


「何かあったのですか?」


『オイ! あれを見ろ! 屋台に行列があるぞ! 行ってみようぜ!』


「知らないのですか? 組合がスタンピードの発生を確認したらしく、数日前から招集がかかっているはずですが……」




 そうなの? ダンジョン攻略してたから知らなかったわ。てか、スタンピードかぁ。強い魔物いるかもしれないな。ちょっと気になる。あとレヴィアタンは黙ってろ。話に集中できない。




「近道をしようと森に入ったら迷いましてね。森を抜けるのに時間をかけ過ぎました」


「そうだったのですか」


『10日以上も迷子になるヤツがいるかよって言いたいが、オメーならなりそうだわ』


「組合にも顔を出す予定ですし、話を伺ってみます」




 迷子に関しては何も言えねぇ。地図は読めるが何分田舎者なんでね。都会だとマジで方向感覚失うわ。特にあの駅。現代のダンジョンだよ。何度迷子になったことか。未だに全貌がわかんねぇんだもん。


 街に入る門にいる兵士から聞いた情報を頼りに冒険者組合に顔を出す。まだ日が高いというのに、建物の中は人でごった返していた。




『うわぁ。帰ろうかな』


『家ないくせに何言ってんだか』


『家なき子、俺』


『おっさんだろーが』




 がやがやと煩い中、俺は受付嬢に話しかけてスタンピードの状況を教えてもらう。最初は俺を胡散臭い目で見ていた受付嬢も冒険者カードを見せたら真面目に話をしてくれた。ランクを上げていて正解だったようだ。




「大規模な魔物の群れがこの街に向かってきている、と。そして、2日後にはこの街に到達すると予想されるので、この街で迎撃するということですか」


「そうなります。既に村は2つ壊滅しました。かなり大きな戦いになると思われますので強い方は大歓迎です」




 緊急事態なので強い冒険者には良い宿屋や物資などが優先的に回されるらしく、宿を決めていない俺には丁度よかった。俺はこの戦いに参戦することに決める。戦場の持ち場などは追って通達されるため、俺は指定された宿屋に向かった。




「悪くねーな」


「ベッドは微妙か」


「オメーのが良すぎるだけだ」




 当たり前だ。俺のオフトゥンは俺謹製の特注モデルだからな。寝ることを妥協すると翌日の仕事が辛くてしょうがない。俺は学習したのだ。




「さぁて、ちょっくら錬金しましょうねっと」


「今のままでも問題ねーだろ」


「俺は、な。俺以外はたぶん違う」


「お優しいことで」


「これ以上寝覚めが悪くなるのは勘弁だ」




 ただでさえアイナたちのことで寝つきがクソ悪くなってんのに、これ以上睡眠時間が無くなったら堪ったものではない。何処に配属されるかは知らんが目に見える範囲は守れるようにしておこう。


 魔道具やらポーションやらを作り、スタンピードの作戦などを聞いて他の冒険者や兵士と顔合わせをしていたら、すぐにその日がやって来た。

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