第137話 我、単独にてダンジョンを攻略す

 あぁ、一体どれほどの月日が流れたのだろうか。最後に日の光を見たのはいつだ? 他人の顔を見たのは? 会話したのは? このままこの地底の牢獄で一生を過ごすのか。おぉ、何と恐ろしきことだ。どうか私のゆく道を照らしたまえ。




「何やってんだオメー」


「太陽礼拝」


「太陽なんて見えねーぞ?」


「おぉ、何と心の貧しいことを。おぞましや……」


「おぞましいのはテメーの口調だ」




 え? 俺とレヴィアタンに何が起こったか? 知りたい? 仕方ないなぁ。長くなるけど教えてあげよう。どれほど太陽が素晴らしいかを! おっと、逃がさないからね? 聞きたいと言ったんだからちゃんと聞こうね?




「ついに頭がおかしくなったか」


「俺はいつだって正常だが?」


「手遅れか」




 手遅れ? 俺は現状を確認しようとしているだけなのにねぇ? しかも、他人に教えるという行為は非常に重要なのだよ。単なるインプットより数倍身につくから。これ重要。


 俺は立ち寄った街でBランクに昇格した。その後、次の街に行くための街道をショートカットしようと山に登った。そして、手つかずの山奥に人知れず存在したダンジョンに足を踏み入れたわけだ。現在は攻略中。10日も太陽を見ていない。




「わかったか?」


「嫌というほどな」


「しっかし、ずっと洞窟とかバリエーションがなさすぎる。迷宮都市を見習うべきだと思わねぇか?」


「ダンジョンにしてはクソつまらねーとは思うな。ダンジョンマスターの底が知れるぜ」




 ……ダンジョンマスターいるってよ。世界の裏側を知っちゃったぜ。大丈夫? 俺、消されたりしない?




「しねーよ。ダンジョンマスターに会ったことのある人間だってたまにいるくらいだ。ほとんどは嘘つき扱いされるがな」




 嫌に現実的だな。俺は会っても黙っておこう。嘘つき呼ばわりはされたくないし。あんなのは二度と味わいたくない。




「そろそろ最下層に到着しないかなぁ」


「到着するには動くしかねーぞ」


「それもそうか」




 俺、動きます。朝食の代わりの小劇場は楽しんでいただけましたでしょうか? ……本格的に意味が分かんねぇな。やっぱ太陽光を浴びてビタミンDを作らねば。


 そんなことを思いながら55層に到達した俺は、これまでとは明らかに違う豪奢な扉を発見した。一本道で隠し通路の類はないことも確認済みだ。




「最下層だなこりゃー」


「ラスボスか」




 いよいよって感じだ。ちょっと楽しみ。このダンジョンの魔物はゾンビとかスケルトンとか吸血鬼とかだった。つまりそういう輩がいる可能性が高い。




「悪趣味な扉だぜ」


「洞窟にこれとかセンスないよな」


「オメー以上にダサいな」


「お前の見た目よりも醜悪な精神の持ち主だろう」


「魔物もザコかった」


「程度が知れる」


「可愛そうになってきたぜ」


「同情しそう」


『早く入れ! お前ら!』




 お? 何かダンジョンに声が響いたぞ。こんな機能があるんだな。町内放送みたいだ。面白いなぁ。あ、扉が開いた。自動ドアかな? 仕方ない。入ろう。




「よく来たな! ここまで到達したのはお前たちが初めてだ。褒めてやる。だが、残念だったな。お前たちの命日は今日、この瞬間だ!」




 何かてっぺん禿げの老人が一方的な口上を述べて襲い掛かっていたぞ? 仕方ないから正当防衛しようか。よいしょ。




「ゴフッ……」




 手加減したんだけど、死んでないよね? メキョッって音したけど。老人をサンドバッグにするおっさんとかドン引きだよ。あ、立った。よかった、生きてる。




「な、中々やるではないか……! だが、我はトゥルーヴァンパイア。不死である!」




 な、なんだってー! 死ねないなんて可哀そうすぎる。俺だったら絶望するね。




「なぁ、アイツって魔物なの? 言葉を話すけど」


「言葉を話す魔物も偶にいる。アイツは間違いなく魔物だ。知能は高いか低いか判断に困るが」


「あ、魔物なのね」




 よかった。殺しても良心の呵責はなさそうだ。そもそも俺を殺そうとした時点で敵だが。




「余裕ぶっていられるのも今だけだ!」




 ワァオ。大量のコウモリになったぞ。マジで吸血鬼じゃん。スゲー。でもさ、俺の一番得意な戦いは対雑魚用の物量戦だぜ? 


 俺はマジックバックから野球ボールくらいの球体を取り出す。あの四つ腕ガーゴイルを炙り出した魔道具の改良版だ。火球を増量し、内蔵のカートリッジで長時間使用可能になったのだ。




「レヴィアタン、隠れてな」


「オレサマにダメージ入るほど強くねーが、大人しく従っておこう」




 前回は自身に魔法が飛んでこないように気を付ける必要があったが、今はステータスの暴力で解決済みだ。俺ごとショータイムといこうじゃないか、コウモリ君。


 豪華絢爛な部屋を覆いつくさんばかりの火球が乱舞した。たった数秒の花火大会ではあったが、コウモリの大半を焼き尽くすには十分だった。




「や、やってくれたな……! お前は殺さず拷問し続けてやる……!」




 へぇ、まだ無駄口叩く余裕があるんだ。不死だから自分の生命の危機に鈍感なのかね? ま、いいや。この茶番も終わらせよう。


 コウモリ君は見た目とは程遠い身のこなしで俺に接近してきた。そのまま俺に殴りかかろうとした繰り出したコウモリ君の拳は俺の身体を貫く。




「幻影か」


「今更気がついても遅いわ!」




 俺の背後からコウモリ君の声がした。俺の目の前にいる幻影をデコイにして、本体は姿を隠し背後に回ったのだ。姿が見えなかったのも含めて何かのスキルだろう。便利そうなスキルなのでユニークスキルの類だろうか? そんな推測をしている俺の首筋にコウモリ君は鋭い犬歯を突き立てた。




「か、硬い……! どうなってんだ!」


「悪いが終わらせよう」




 困惑しているコウモリ君の顔面を掴み、ステータスに物言わせて背後から引きはがす。そして、正面に用意した作業台に叩きつけた。




「何をする!」


「錬成」


「れん……!」




 そこまでしかコウモリ君は話すことができなかった。俺の莫大な魔力がコウモリ君を駆け巡ったからだ。短い断末魔を上げたコウモリ君は物言わぬ素材になり果てた。




「どうよ。俺の即死技」


「えげつねーな。格下にしか使えねーけど」




 魔王にえげつないと言わしめる威力。悪くない。

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