第4章 最初で最後の大喧嘩

第136話 最初は目標を決めるものだ

「オイ」




 あ? 何だこの野郎。しけたツラしやがって。何かつまみ寄越せや。




「他人に絡むな」




 は? お前がそれを言うのかよ。勝手に俺に憑りついたのは誰だったかなぁ? 俺がお前にウザ絡みするのは、所謂お礼参りってやつ? 知らんけど。




「オメー、酒飲むと面倒なんだな。二度と飲むんじゃねーよ」


「断る!」




 断る! こうもしないとお前が言った理性は保てないんだよ。しかも、俺は普段一人の時しか自棄酒はしねぇって決めてんだ。つまり、憑りついているお前が悪い。




「あー! 面倒だ! 大人しくしろってんだよ!」




 ずっと俺にウザ絡みされていたレヴィアタンはついに行動に出た。何やら魔法を使うようだが……。あれぇ? 何だか眠くなってきたぞ? お休みぃ。


 翌日、目が覚めるといつも通りの二日酔いはなく、スッキリとした寝覚めで身体も軽くて調子がいい気がした。




「起きたか」


「おかげさまでな」


「覚えてんのか?」


「そりゃあくっきりはっきりと」




 俺がレヴィアタンにウザ絡みされて大変だったなぁ。歴代の憑りつかれた人も、さぞ大変だったのだろう。おいたわしや……。




「記憶を改竄してんじゃねーよ!」


「そんなのはどうでもいいんだよ」


「どうでもよくねー!」


「で、次の行き先だが……」


「聞いてねーし」


「適当にぶらついて強い魔物を叩き潰して素材を追い剥ぎしようぜ作戦だ」


「そーかよ」




 ま、つまるところ俺の強化素材を探すのだ。ていうか、もうそのために動いてるけど。魔物討伐の報告後、酒と食材を大量に買い込んで学術都市を出たのだ。間違ってもアイナたちと出会わないためにな。中途半端な時間に出たから野営地にも到着できず、適当な木の下で自棄酒をしていたのさ。レヴィアタンは夜番だ。魔王って寝ないんだぜ? 超便利。




「行く当てはあんのかよ?」


「あるわけねぇだろ。適当に探すんだよ。寄った冒険者組合で依頼が出されている魔物とかなら強いのもいるだろ」




 後はダンジョンくらいか。あの迷宮都市には戻れないし、他のダンジョンでも探そうかねぇ。というわけで目的は決まった。後は足を動かすだけだ。


 俺は野営の片づけをして立ち上がった。道なりに進めば次の街に到着するだろう。そこで情報収集だ。強くなったおかげでスタミナも付いたらしく、走って進んでもほとんど疲れることなく次の街に到着できた。




「依頼……依頼……」


『おもしれーものはなさそーだな』


「俺の冒険者ランクが低いからなぁ」




 俺の冒険者ランクはDだ。生きていくだけなら十分だが、強い魔物と戦うにはランクが足りない。今の俺を更に強化するには中途半端な品質では駄目なのだ。


 こりゃあランク上げが必要か……。面倒な。黙って倒しに行っちゃうか。でも、そうなると依頼を受けた人とか組合に迷惑になるかもしれない。かと言って勝手に魔物を倒して報告すると目立つな。それは嫌だわ。じゃ、決定。




「すいません。ランクを上げたいのですが」




 受付嬢に声をかけてランク上げの試験を受ける。試験官の組合員と戦って実力が認められたらランクアップらしい。俺は受付のおっさんの権力で上げてもらったから正式なのは知らないのだ。


 はいはい。戦うのね。で、その人が試験官? オッケー。瞬殺だわ。いや、誓って害のない人は殺しませんけど。で、Cランクになれますかね、俺は。……問題ない? そりゃどうも。




「楽勝だったな」


「オメーのステータスなら負ける方が難しいんだよ。それより何でランクを一つしか上げねーんだ? 受付のねーちゃんがなんか言ってたが?」


「そんなこともわからねぇのか、まったく。目立つからに決まってんだろ」


「ハァ?」




 一回でランクをたくさん上げちまうと目立つ。目立つくらいなら無許可で魔物を倒して持ってくる方が楽じゃん。でも、俺は視線の集中砲火が大っ嫌いなんだよね。だから地味にランクを上げたいのさ。




「オメーの目つきと髪で馬鹿みたいに目立ってんだろ」


「それはそれ。これはこれ。次の街でランクアップを目指すぞ」




 問題はBランク以上の試験は大きい街の組合でないと試験官がいない可能性があるらしいことだ。ま、いい感じの依頼がなければさっさと街を出るのでそこまで問題ではないだろう。




「明日にはこの街を出るから俺はもう寝る」


「今日は自棄酒しねーのか?」


「してほしいのか?」


「要らねー!」




 なんだ。残念。お休みー。


 そんな俺の予定は当然の如く上手くいくはずもなかった。学術都市がこの周囲で一番大きな街であり、離れれば離れるほど街は小さくなっていく。そうなると、当然冒険者組合の規模も小さくなり、試験官をできる人間がいなかった。




「予定通りだ」


「強がんじゃねーよ」


「人生上手くいかねぇなぁ。いつも通りっちゃいつも通りだが」




 上手くいかないなんて慣れている。寧ろ、上手くいかないのがデフォルトなのが俺の人生さ。人生いつも下り坂。上がり調子にはならないね。つまりいつも通りってわけよ。




「ちょっと同情してやるぜ」


「同情するなら金をくれ!」


「オメー金はあんだろーが」


「うわっ……」


「なんだってんだよー!」




 この有名な言葉を知らねぇのかよ。信じらんねぇ。かく言う俺もドラマまったく見ないので知りません。これってドラマの言葉だよね? マジで知らねぇ。

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