第128話 突然の新キャラが湧いて出てきた
「オイ、思考を放棄するな」
え……。だって急に目の前に魔王を名乗る不審者が出てきたら無視して防犯ブザーを鳴らしながら交番とかに逃げ込むのがセオリーでしょ? 現状だとセオリー通りに動けないから考えるのをやめただけだよ。
「違うだろ! もっとこう、すごい驚くべき場面じゃねーの」
十分驚いたよ。変な声出たし。そもそも普通自分を魔王とか呼んじゃうヤツに関わりたい人間なんていないでしょ。俺はそういうの卒業したから。
「卒業した? あのナリでか?」
「アァ?」
アイナがデザインした装備が中二病だと? てめぇ、言って良いことと悪いことがあるのを知ってんのか? えぇ!?
「ギャハハハ、どれだけイキろうが、生首なんざ怖かねーよ」
え? 俺生首なの? あ、視界の隅に鼻が見えるぞ。魂から生首生えてきちゃったよ。でも何で?
「ここは精神世界。思い浮かべた姿になるだけだ」
「へー」
「……順応が早過ぎるだろ」
おー、体が生えた。手足も生えた。服も生えた。完璧。ていうかさぁ、何でコイツ俺の思考読んでんの? テレパシー? 覗き魔?
「そりゃーよ、オメーに俺が憑りついてるからさ」
「悪霊だったか」
「オイ、バカ! 塩を撒くな! 意味はねーがウザってーんだよ!」
コイツ、清めの塩が効かないだと? なんて強い悪霊だ。どうやったら除霊できるんだ。
「人の話を聞きやがれ!」
「お前人なの?」
「違うが? ……無言で塩を撒くな!」
人じゃないのか。じゃあ何なんだ。
「オレサマは魔王スキルとでも呼ぶべき存在。オレサマが身体を支配した人間は俗に魔王と呼ばれる」
「え……ええ!? 俺、支配されて魔王になるの!?」
それは御免被りたい。他人に迷惑かけるような人間になるのだけは心底嫌なんだ。だってあいつらと同じになるから。どうしようか? コイツ処す? 魔王に勝てるの? 無理だな。仕方ない。切腹するか。
「待て待て、早まるな。オメーを乗っ取ってねーよ」
「はあ? じゃあ何でここにいるんだよ」
「言っただろう? 面白そうだって。他人を妬み続けるのには飽き飽きしてんだよ」
コイツ曰く、嫉妬を司る魔王として他人を妬み続けてきたが、いい加減飽きていたそうだ。そんな中、俺という存在を見つけて興味が湧いたらしい。
「俺が面白い? 場をシラケさせることに定評がある俺が?」
「その面白さじゃねーよ。オレサマが興味を持ったのはオメー発想力と狂気だ」
「はぁ」
「錬金術と戦闘で見せた発想。そして、己に渦巻く激情を他人に向けない精神力。オメーならオレサマの嫉妬に染まらねーだろう。もしくは、すでに狂気に染まっているのかもしれねーな。ギャハハハ」
コイツから見ると俺はなんか高評価らしい。口調は兎も角、他人を見下すような声音は一切含まれていないのはわかった。
「オメーに憑りついていけば、いつもと違った世界が見えるかもしれねー。だからオメーと一緒にいることに決めた」
「断っていいですか?」
「オメーに拒否権なんざねーよ」
「最低だな」
「ギャハハハ、よろしくな!」
う、嬉しくねぇ。一緒に過ごすなら美女がいいなぁ。少なくともこんな化け物ではない。あ、でもアイナが横にいた時、俺は本心を伝えることなんてなかったか。正面から言い合える分、コイツの方が気軽かもしれない。
「どうにもならねぇか」
「ならねーな。諦めろ」
「はぁ……」
折角一人になったのに、また他人と団体行動か。面倒だなぁ。ま、俺の思考を読み取れるんだから取り繕う必要がないのは救いか。隠しごとができないのは残念だが。
「話もまとまったから現実に戻るぜ」
「どうやって?」
「こうやって」
俺は意味が分からないままいると、真っ暗だった世界が光に包まれる。そして、目を開けると俺は作業台の上でぶっ倒れていた。
「あ……?」
「目が覚めたか?」
「夢であって欲しかったと切に思うぜ」
「ギャハハハ、それだけ口が動くなら問題ねーな」
コイツ、嫌味が通じないだと……。てか、コイツ現実世界にもちゃんといるんだな。精神世界上の存在かと思ったけど違うみたいだ。改めて見るとデカいな。2メートルはある。羨ましい。身長くれよ。
「オレサマに嫉妬するヤツは初めて見たぞ」
「その自信満々なところも欲しいな」
「オメー最高だ! オレサマの嫉妬に染まる余地のねーほど元から狂ってやがる」
「さいですか」
それじゃまるで俺が嫉妬に狂った変人みたいじゃないですかー。やだー。俺はそこら辺にいるしがないおっさんですよ。しかし、そんなことはどうでもいいだよ。俺はやるべきことがある。
「何する気だ?」
「ステータス確認」
それが一番大事。コイツのこととかでちょっと脇道にそれたけど、本来の目的はレベル上限を上げることだ。実験が成功しているならステータスに変動があるはずだ。あってほしい。ないなら絶望に沈んで魔王になるやもしれん。
俺は無意識に震えながらステータスを確認した。そして、そこに写された事実に色々な意味で絶句するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます