第127話 どうせ悪い人生なら賭けに使おう

 俺は今、ヤバい事実に気が付いたかもしれん。あの度し難い探窟家は自分を実験台にしたはずだ。そして、魔力の色が違ってキメラ実験は失敗した。それならば、魔力の色を俺に合わせた素材と俺自身なら?




「ワンチャンあるな」




 最高の素材を作り、それと俺を素材にして新たな俺を作り出す。自分で言ってて何だが、最高に意味不明で狂ってるとしか思えない。だが、このクソみたいな現実を凌駕するにはそれくらいしないとどうにもならない。普通では変えることができないのだ。




「俺の持っている素材……。無駄にたくさん持っててよかったぜ」




 これを上位錬成して俺の魔力の色に合わせる。イケるか? ……イケるな。レシピが浮かんできたぞ。必要素材に自分の名前があるのは最高にトチ狂ってやがる。




「やること決まったなら行動だ。俺に残された時間は少ないぞ」




 まずは魔力の色を調べる魔道具を作るぞ。正確に測れないと死ぬから全力で作ろう。それを作ったら素材を上位錬成だ。魔力はこの旅で無駄に余ったをカートリッジに詰めてて正解だった。




「よし、どんどんやろう。ハッ、年度末職場かよ」




 今日は寝られないだろう。しかし、あの時と違って俺の目は希望に輝いているに違いない。だってこんな前向きに徹夜ができるんだもの。見せてやるぜ。会社員時代に培った徹夜術ってやつを! 24時間働けますか? 72時間働けます!


 その日は完徹で素材を錬成し続け、翌日は図書館で錬金術の本を読み漁る。俺と同じ事をしようとした人がいないか確認だ。




「サイコパスさんは享年78歳。死ぬ間際まで実験に心血を注いでいた、か……」




 どうやら己を素材にしたことはないようだ。他の資料や本にも自分自身を実験に使った情報はなし。つまり、俺がやろうとしていることは世界で初めての可能性大。どうなるかわからねぇってことだ。


 俺は図書館で前例の確認をし終えた後、ひたすら素材の錬成に時間を費やした。そうして2日ほど過ごし、俺は街の外に向かった。




「見つからない場所は……この辺でいいか」




 はっきり言って実験がどうなるかわからない。こういうのでよくあるパターンは自我を失って暴れまわるだけの存在になることだ。さすがの俺も無関係な人間を巻き込みたくないので、こうして街の外に出たわけだ。


 俺は崖に洞窟を作り、空気穴だけ残して入り口を塞ぐ。これで実験の最中に邪魔が入ることはないだろう。作業台を設置して実験準備をしていく。




「最終確認オーケー」




 素材と俺の魔力の色に違いはない。音や光を遮断して空気穴から外に漏れないようにもした。どれだけ魔力が必要なのか、そして、途中で俺が日和って実験を中断しないよう自動的に錬金術を使うように改造を施した作業台にカートリッジをありったけ乗せておいた。後は錬金するのみである。




「ふぅー……、緊張するなぁ」




 それはそうか。一世一代の大勝負だもの。文字通り命を賭けた大一番。否が応でも緊張するってもんよ。これで緊張しないやつはたぶんいない。いたとしたら、それはナチュラルサイコパスだよ。




「さてさて、俺はどうなることやら。死ぬか生きるか、はたまた化け物に成り下がるか。一体どれだろうねぇ?」




 どちらにしろ真人間から卒業だな。こういう時に使う言葉ってなんだ? あー、あれか。覚せい剤か何かのポスターにあった印象深い台詞。あの言葉考えた人は発想力が素晴らしいよ。今でも覚えてるもの。




「人間やめますか? もちろんYesだ」




 俺は錬金術を開始した。同時に全身が耐え難い激痛に蝕まれた。




「ガアアァァァアアアアァア!」




 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!


 俺は激痛でその場に蹲ることしかできなかった。肉が割け、骨が砕け、皮が捲れ、全身を焼かれるような壮絶な痛みの中、俺は必至に意識を繋いでいたが、それもほんのわずかな間だった。俺は実験の途中で意識が途絶えた。最後に目にした光景には誰かの姿を見たような気がした。




「……ん……。ここは……?」




 何だここは。知らない天井すら存在しない真っ黒な世界だ。俺は何してたんだっけ? あー、おぼろげながら浮かんできた。人間やめてる途中だったな。結局どうなったんだ? 真っ暗なら夜中か? ランタン点けてたはずなんだが。




「身体は動……あれ? 俺身体は?」




 身体の感覚が全く存在しない事に気が付いた俺は、恐る恐る視線を下に向ける。そこにはただ黒い空間があるだけだった。


 どどどど、どうなってんの!? 俺死んだ? にしては意識あるし不思議なんだよなぁ。となると、俺は今、魂だけで存在してるのか? この空間は精神世界的なサムシングか。




「ギャハハハ、大正解だ!」


「びゃあっ!」




 誰かいる!? どういう状況!?


 俺が声の方向に振り返ると、そこには真正の化け物がいた。全身ボロボロの包帯まみれの人型の何かだ。手足が異様に長く、包帯の隙間から見える地肌はやせ細っていて、痣のように黒紫色に染まっていた。口は割けており、見える歯は細長くすきっ歯だ。目はぎょろりとしていて不気味である。




「……誰、ですか?」


「オレサマは“嫉妬”を司る魔王。オメーが面白そうだから来た」




 ……は? ちょっと意味わかんないです。


 俺は思考を放棄した。

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