第126話 答えが欲しい

「でけぇ……」




 いやー、びっくりだわ。俺の通ってた大学の図書館よりもはるかに大きいぞ。建物はなんか芸術チックですごいし、中は埃一つなくて、魔道具によって温度と湿度が完璧に管理されている。研究者っぽい人がたくさん熱心に読書をしていて、嫌でもテスト前の大学みたいな気分になったぜ。




「やべぇ。本が多すぎて目当ての資料がわからん」




 どうする? 受付に聞くか? 見も知らぬ他人にレベル上限のことを知られたくないが、背に腹は代えられんな。恥を忍んで聞こう。これは効率を求めなければならない事案だ。ということでそこの仙人みたいな髭のご老人。教えてくれ。




「ほうほう。レベル上限かのう」


「ええ、関連する資料などはありますでしょうか?」


「それはあるが……お前さんの望む答えはないと思うがのう」




 つまりレベル上限を上げる方法はわかってないんですね。わかってたけどちょっと辛い。ま、まあヒントが得られる可能性だってあるし? そもそも簡単に見つかると思ってないし? 計画に変更はナシだ。




「ここじゃよ」


「ありがとうございます」


「……それではのう」




 仙人ありがとよ。こんな端の方にある中途半端な位置の本棚とか簡単に見つけられなかったわ。さて、どれどれ……ふーん。ほうほう。


 レベル上限に関する資料は少なく、昼過ぎには全て読み終わってしまった。同時に俺は肩を落とす。




「受付のおっさんの言ってたことしか載ってねぇ」




 事例の数は遥かに多いものの、その種類は受付のおっさんの言っていた3つしかなかった。しかも、条件はどれも不明。他の方法を試したが、どれも結果は失敗に終わったという報告書の束ばかりだった。魔道具で覚醒の宝玉を錬金術で作ろうとした人もいたそうだが結局失敗したらしい。事実上のお手上げである。




「はぁ……、終わった」




 これで俺の尽くせる手段はとった。完全に八方塞がり。どうしようもない。結構頑張ったと思ったんだけどなぁ。死にかけるくらいの努力はしたけど、これでどうにもならないなら俺にはどうしようもないよ。あーあ、人生って残酷だねぇ。




「帰るか」




 今日はもう寝よう。明日からどうしよう。適当に放浪でもしようかな。ま、どうでもいいか。明日は明日の風が吹くさ。


 帰ろうと視線を移した俺の視界に目を引く紙束があった。




「あ……」




 少し離れた本棚に錬金術の資料があるな。しかも、覚醒の宝玉を作ろうとした人の著だ。どうせ暇だし読むか。


 俺は本棚から少しだけ顔を覗かせていた資料を手に取った。俺より錬金術に精通した人物だったのだろう。俺の知らない魔道具やアイテムなどの作り方やコツが載っていた。そして、その中に一際興味をそそられる情報があった。




「キメラ創造……。何て悪魔的な」




 人工的に魔物を創る計画か。生命の冒涜と言えばそうだが、ファンタジーの悪役なら鉄板で使う技術だな。しかも、かなり詳しく研究してるし。この人実はかなりヤバい人だったんじゃなかろうか。




「別種の合成、失敗。同種の合成、失敗。魔物と各素材の合成、失敗……」




 失敗ばかりだなぁ。失敗は成功の基というから当然か。失敗からより多くの学びを得られる人間が天才なんだろう。この人はたぶん天才の類だ。一回目の失敗から仮説を立ててるけど、ほとんどが後の実験データに当てはまってる。




「魔物、人間、素材、その他全ては微妙に異なる魔力を内包していると考えられる。異なる魔力は混ざり合うことなく反発し合うため、合成は失敗に終わると考えられる、か」




 へー、そうなんだ。魔力って個人ごとに違う血液型って感じか。だから他人に輸血はできませんってことなのかね? 知らんけど。あ、魔力を識別できる魔道具か。これなら俺でも作れそうだ。で、それで計測した結果は考察の通りと。この人すげーな。




「次は魔力の“色”を合わせる実験? 素材は上位錬成を繰り返せばその本人の色となる。魔物は全身から血を吹き出し死ぬ。……こわ」




 魔力の違いを“色”と表現するあたりセンスあると思うよ。てか、魔物を上位錬成すると死ぬのか。素材は問題ないから生きてる魔物はダメなんだな。この人事もなげに書いてるけど、生きた魔物で実験しまくってるよね。サイコパスかよ。




「上位錬成で錬成した素材で作った武器は錬成者の魔力消費を抑える。マジで?」




 はー、だから戦闘では魔力切れになりにくいのか、俺は。基本上位錬成で作った素材が混じってるからな。錬金術では簡単に魔力切れになるからおかしいと思ってたんだよ。……本当だよ?




「お前さん、まだいたのか。閉館時間じゃ」


「あ、そうですか。わかりました」




 気が付けばずっと読んでいたな。ちょっと楽しかった。やさぐれた俺の心が少しだけ救われた気がするよ。


 仙人に連れられて図書館を後にした。適当に晩飯を食べて宿に戻りベッドに転がる。




「もう少し錬金術の本でも読むか。どうせ暇だし」




 とても嬉しくないことに時間はたっぷりある。読書に明け暮れるのも悪くない。そうすれば他のことを考えずに済むから。




「しかし、錬金術って奥深いんだなぁ。キメラ実験とかヤバいけど面白かったし、魔力の色とか新発見だわ」




 魔力の色が同じにできたらあのサイコパスさんならキメラ作ってたんだろうなぁ。どんな見た目だろ? やっぱり度し難い探窟家と同じなのかな? あの仮面付けてるのか。そして、たくさんいて……。




「待てよ?」




 俺に悪魔の天啓が舞い降りた。

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