第125話 峠を攻める!
「オラオラオラァ!」
急勾配を全速力で駆け下りて、立木を掴んで急旋回。その先の岩を跳び箱の要領で飛び越えて着地の衝撃をローリングで分散。すぐに立ち上がって急勾配を上り始める。アッハッハッハ、たまんねぇぜ! このスリル! パルクールってのはこうでなきゃ。
「これぞデスレースってな」
いきなりどうしたって? なに、ちょっと追いかけっこをしているだけさ。俺は逃げる側で鬼は大量のイノシシでな。これぞイノシシだらけの大運動会ってわけだ。ハハハハハ。笑えねぇ。
「こんなところでジ〇リ世界を体験したくなかった!」
もの〇け姫に出てくるイノシシの大群が襲って来る恐怖がよくわかるね。あいつら火に怯まないし仲間が死のうがお構いなしだ。ヤバすぎる。いくら鉄砲と爆弾があったといってもよく立ち向かったな。俺にはできねぇよ。
「いい加減諦めろって!」
俺は森林破壊なんてしてないじゃんか! ただの通りすがりのおっさんだぞ。俺が何したって言うんだ。何? 縄張りに入ってきた? それだけじゃん。気にすんなよ。あ、俺のプライベート空間に入らないで貰えますか? 回り込むのも、囲い込むのもやめてもらっていいですか?
俺はどうにかこの追いかけっこを終わらせるために思考を巡らせる。と、ここで俺は単純な事実に気が付いた。
「俺、飛べるじゃん」
周囲に逃げ道がない? いや、俺には空がある。某海賊漫画のコックもオカマから逃げるために空中へ逃げたんだ。俺も真似させてもらおう。
俺はなんちゃって舞空術で空を駆ける。眼下に森を望み、隙間からイノシシが川のようになって俺の跡を追っていた。そして、遠くの突き出た岩に四本の牙が生えた白く巨大なイノシシがいた。
「マジなやつじゃん」
気配探知するまでもなく強いとわかった。あれは戦う相手じゃない。下手しなくてもあのクソ鳥以上に強そうだ。幸い、俺を見るだけでそれ以上のことはしてくる様子はなく、俺は無事峠を越えることに成功したのだった。
「足ガックガクだわ」
山中を走り回り、舞空術で空を駆け続けた結果、俺の足には明確な疲労が溜まっていた。これまで半ば強行軍のように歩き続けてきた蓄積分の疲れも出たのかもしれない。これは次の宿屋で1日丸々休息に使った方がいいかもしれない。というわけで、国境を越えてすぐの街で宿泊だ。
「学術都市まで遠いなぁ」
俺の当初の予定だと10日くらいで到着する予定だったんだけどなぁ。この世界に正確な地図がないから旅の日程が変動しまくりでさあ大変。忠敬さんが出てきて測量してくんねぇかな。そしたら楽になるかもしれないのに。
「聞いた限りじゃこの隣の国に学術都市があるらしいが……果たして到達できるのか」
ちょっと心配になってきた。これからは寄る街ごとに資料室やら図書館やら探すのを止めた方がいいかもしれない。特に資料室は迷宮都市の資料室が特別多いようで、大半は同じ内容のものばかりだ。今更ながら目的地まで全力で向かう方が効率はいいと思う。
「3週間くらいか? アイナ、大丈夫かな」
俺がいきなりいなくなって大丈夫だろうか。本人は大丈夫と言っていたが心配になってくる。はぁ……、今更何を考えているんだろうな、俺は。
「いや、違うか」
俺はアイナを心配しているのではない。俺の行動がアイナを傷つけるとわかっているからこそ、心配を装うことで加害者から第三者にすり替わろうとしているに過ぎない。そうすれば自責の念に囚われることがないから。我ながら最低だな。
「それも何とかしなきゃな」
当てはないけど。とりあえず俺は俺の目的を達成しよう。でなければアイナのもとから去った意味がない。そろそろダンジョン攻略から屋敷に帰って来る頃だろう。道中を早く通過しなければならないな。決めたぞ。
「ペースアップして進もう。その前にこの足を休ませるか」
一日しっかり休んで疲れをとろう。しっかりした休みはパフォーマンスを飛躍的に向上させるという話だからな。そしたら学術都市までノンストップで突き進む。完璧。旅程は決めたからしっかりと休んで出発だ。
「盗賊の対処に慣れ始めた自分が怖い」
何故か盗賊との遭遇率の高い俺は慣れた手つきで盗賊を縛って連行する。その時一緒にいた冒険者に話をすると大爆笑だった。何かドデカい不幸が起きる前兆だろ、だってさ。しして、それを乗り越えると幸福があるらしい。何だそれ。
「何で魔物の群れに遭遇するかなぁ」
ゴブリンにガーゴイルに猪に盗賊にと、俺は群れに縁があるらしい。俺自身は圧倒的ソロだけどな。ん? 今度はどんな魔物に追いかけられているのかって? んー、タヌキっぽい化け物かな。全く可愛くないし。タヌキに追いかけられるとかぽん〇こかよ。今は令和だぞ。
「ようやく、到着か……」
こうして迷宮都市を出発して一月と少し、俺はようやく学術都市ラフマに到達した。
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