第124話口は禍の元と知る
「あの時の自分を殴りたい……」
あんなこと口走るんじゃなかった。マジで。あの余計な一言でフラグが立ったんだろう。俺も立派なフラグ建築士じゃん。この方面なら世界とれんじゃね? いらねぇけど。え? 状況説明しろだって? 端的に言うと魔物の群れに追われている。……ん? そこはボケろって? そんな場合じゃないんだよ。
「ぬるぁ!?」
拳大の石が豪速球で飛んできたよ!? この世界の魔物ってパワハラ上司並にもの投げてくるじゃん。もっと物と人を大切にしようぜ? でないと他人に被害が出るんだぞ?
「こなくそッ!」
3体殺せたか。やっぱり地面から生えてくる多数のストーンランスは凶悪だな。しかも鬱蒼とした森の中で視界が悪いなら尚更だ。だが、まだまだいやがる。かれこれ30体くらい倒したはずだが一向に減った気がしない。もしやまた四つ腕ガーゴイルみたいなのがいる? 1体だけ強い気配がするがコイツが犯人だろうか?
「サルだかチンパンジーだか知らんが、人間様ってやつの恐ろしさを見せてやる」
同じ? 霊長類として格の違いを見せてやろう。伊達に走り回って逃げていたわけじゃないんだぞ。コソコソ隠れよってからに。炙り出してやるよ。炎だけにな。
「人間だけが火を使う。お前ら野生動物にはできない芸当だろ?」
尚、魔物は野生動物でないとする。証明完了だ。あちこちから甲高い悲鳴のような雄叫びが聞こえてくるぞ。みるみる数が減っていくではないか。人間の絶滅力は世界一ィィィィ! ……マジで冗談抜きでそう思うよ。
「このままじゃ山火事になる? そこはこの俺、抜かりなし」
スクロール起動! スコールもびっくりの水が森を潤す! これで完璧。そもそも生木は燃えにくいし、これで十分消火できるはずだ。で、1体だけ残った強い気配の魔物君はどうするのかね? あ、逃げる気? 別にいいけど、そっちに逃げない方がいいと思うなぁ。そこは俺が逃げ回った場所だよ? 何もないわけないじゃん。
「討伐完了っと。どこがDランク向けの依頼だよ。詐欺だよ、詐欺」
どうやら数が減らないと感じていたのはそもそもの数が多かったかららしい。一安心だ。で、この群れを率いていた犯人はこの白い……サル? だったようだ。ゴリラはシルバーバックとかいう高齢の個体が率いるとか聞いたことあるけど、これもそれなのかね? ま、いいや。さっさと報告に戻りますかね。
「……本当に倒したんですか?」
「倒してなければここに持ってこられませんが?」
そんなに唖然としないで早く仕事してよ。依頼達成の報酬と大量の魔物の買取料金下さいな。あ、白いサルは俺が貰うから気にしないで。よっし、素材ゲット。
そもそも、何で俺がこんな依頼を受けているのかというと、寂れた田舎町の冒険者組合でずっと残っていた依頼を懇願されたのだ。報酬を3倍にするからと言われて金に目が眩んで今に至る。報酬をキッチリ貰った後、この街の宿屋で一泊だ。
「疲れたぁ。面倒な依頼なんて受けるんじゃなかったぜ」
フラグを建築してから盗賊に襲われること3回、魔物に襲われること11回、睨まれたと因縁をつけられること多数。散々だ。別に道なき道を突き進んだわけでもなく、整備された街道を外れることなく進んだんだよ? ちょっと危険すぎやしませんか。もっと平和に生きようぜ。
「ここから北東に進んで国境を越えて……遠いなぁ」
地球の移動手段が如何に優れていたかよくわかるね。日本国内なら数時間で端から端まで移動できるんだもの。飛行機乗ったことないけど。学校の修学旅行は夢の国だったからな。一緒に回る友達がいないっていう現実を考えなければ間違いなく夢の国だった。
翌日、俺は日の出と共に出発する。朝飯は食べたくないし、自炊も大学時代にやってたから問題ない。ていうか、この世界の料理レベルが低くて基本自炊の方が美味いという衝撃。ちょっとシェフの料理が恋しく思ったのは本当だ。
「山ぁ」
俺の進行方向に広がる山脈。そこを越えると別の国らしい。国境線は正確に引かれていないので、国境線上で反復横跳びするという万人の夢は果たせそうにない。残念だ。
「しっかし、人いねぇな。迂回ルートに行ったのか?」
実はこのルート、あまりお勧めできないそうだ。隣国への最短ルートであるものの、道が細くて険しいため行商人は通らない。更に迂回ルートと違って整備が行き届いておらず、魔物の遭遇率が高い。普通なら時間はかかる代わりに安全な迂回ルートを選ぶものらしい。しかし、俺には先を急ぐ理由がある。
「ダンジョン攻略の進みは知らんが、足手まといがいないなら早いだろうしな」
アイナは言わずもがな。加えて爽やか君なら理由も話さず出て行った人間を放っておくはずがない。そんな気がする。個人的には自らの意思で立ち去った者は追わない方がいいと思う。冷静に放置されたらそれはそれで悲しいものがあるけど。かまってちゃんか! というツッコミは要りません。クーリングオフで。
俺は歩き出した。何とかなるだろうと思いながら。そして、その思いはあっけなく砕け散ることになる。俺のフラグはまだまだ続くようだ。
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