第123話 ちょっとした寄り道が醍醐味
空が青いなぁ。ふんわりと頬を撫でる風が心地いぜ。あぁ、まどろみが襲って来る。このまま睡魔に抗うことなく寝落ちたら最高だろうなぁ。
「おーい、神崎。あれ王都ラングディーテじゃ」
「……ほう、あれが……」
あぁ、折角の眠気が空に吸い込まれていく。その先に迷宮都市よりもはるかに巨大な街が見え、その中央にサグラダ・ファミリアも真っ青な城がそびえ立っている。サグラダ・ファミリアがそもそも城なのかは知らないけど。
「壮観じゃろ?」
「ええ、驚き過ぎて言葉が出ませんでした」
「はっはっは、初めて見たもんは皆そう言うんじゃて」
ちょっと異世界の建築技術を嘗めてた。てか、よく作ったな。あんなにデカいとか滅茶苦茶大変だったんじゃなかろうか。……え? 今の声は誰だって? 魔物に襲われていた行商人の爺さん。ゴブリン相手なら俺だって無双できるさ。気持ちよかった。
「さすが王都。人も多い」
「儂も始めてみた時は腰を抜かしたもんじゃ。さて、助けてくれてありがとよ」
「いえいえ、こちらも楽をさせていただきました。お話も興味深いもので楽しかったです」
いろいろな国や村を回っている爺さんは物知りだった。その中にあの忌々しい空飛ぶ即死トラップらしき話もあった。記録に残っているだけで4か国襲っているやべーやつだった。逃げて大正解だよ。
「達者でな」
「お元気で」
爺さんと別れた俺はその足で冒険者組合に向かう。金は十分あるが、それでも一応換金するためと資料室で情報収集するためだ。
あ、そうそう。この度、俺はランクがDになりました。おっさんの職権乱用によりFからいきなり引き上げてもらえました。そんなことしていいのかは知らないが、おっさんがいいなら問題なかろう。これで俺もDランクおじさんに格上げだぜ。
「オイ、そこの若いの。ちょっとツラ貸せよ」
俺が換金するためにカウンターに並んでいるとそう声をかけられた。隣が。俺の隣にいた如何にも初心者な格好をした若い男が悪人面のムキムキマッチョに絡まれた。
いやね? 知ってたよ? 俺若くないし。おい、誰が枯れたおっさんじゃ。ピッチピチのアラサーだからな? そんなことはどうでもいいんだよ。それよりもこれは、数々の作者に使い回されたテンプレでは? 若い男が実は超強くて悪人面をボコして帰って来るヤツか!? それをこの目で見られるのか!?
「剣にガタが来てるぞ。直ぐに変えた方がいい」
「あ、いえ、お金が……」
「金がねぇ? ったくよぉ。俺のお古だがやるよ」
「あ、ありがとうございます!」
違ーう! 違う違う違う! そうじゃないでしょ。何でそんな悪人面なのに善行してんの? おかしいでしょ! もっと役になり切ってよ! 何でこの世界は微妙にテンプレを外してくるかなぁ。
結局、冒険者組合のテンプレは発生することはなかった。資料室も迷宮都市と大差なくて非常に残念だった。その日は適当な宿屋に泊まり、王都にも図書館があるらしいので行ってみることにした。
「入場料と保証金がいるのか。帰りに保証金は返ってくるらしいけど高いな」
本は貴重品っぽいし、図書館の維持とかにも金が要るのはわかるから払ったけど、それでも小金貨2枚はぼったくりだろ。これは何日もかけて長居できんな。学術都市でも同じような料金システムなんだろうから、本命のためになるべく節約しよっと。
本と本棚が鎖で繋がった図書館で俺は閉館時間まで本を読み耽った。それも5日間も。冒険者組合の資料室と比較にならない程の量があったが、大半は俺の欲しい情報ではなかったのでほとんど読み飛ばした。逆に言えば、それだけハイペースで読み漁っても5日かかったわけだ。
「収穫なし。魔法陣とか錬金術の本はあったが……どれも既知の事実とはな。恐れ入ったぜ。はぁ……」
ちょっとショック。俺の淡い希望は砕け散った。俺よ、ケツイを力に変えるんだ。……マジあの化け物花許さねぇかんな。俺の純粋な心を弄びやがって。おかげで大きな花が一時期ちょっと怖くなったんだぞ。
俺は王都に背を向けて歩き出す。本当はもっと色々なところを観光したかったのだが、如何せん時間がない。俺の予想ではアイナたちがダンジョンから戻り、俺が出て行ったことを知れば必ず探しに来るだろう。物理的距離があるとはいえ、あのアイナがいるのだ。俺の居場所なんてすぐに読まれるに違いない。
「学術都市に行くには……まだまだかかりそうだなぁ。国を跨いでの移動だし」
国境を越えるのか。……あ、もしかしてこれはチャンスなのでは? 国境線上で右半身と左半身で違う国にいるっていうやつ。一回やってみたかったんだよねー。日本から出たことないおっさんだから、ちょっとテンション上がるじゃん。自慢話くらいにはなるよね? 問題は自慢する相手がいないってことなんだけど。
「こうして彼は歩き出した。彼の行く道は平淡なものではなく、幾多の苦難が待ち受けていることを彼はまだ知らない。……こんな感じのナレーションをバックに物語が始まる感じだと格好よくない?」
こんな馬鹿なナレーションを付けた今の俺を、近い未来の俺は相当恨んだそうな。
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