第121話 酔っても記憶が残るタイプ
「あったま痛ぇ……」
ガンガン頭痛がする。飲み過ぎた。しかもいくら誰も見てないからって変に酔っ払っちまった。ストレスかなぁ。何だよ、世界コンビニ七不思議って。恥ずかしい……。
「今は……夜中か……。午前中から飲んでたもんなぁ」
俺は自分の行いを顧みて呆れ果てた。だが、おかげで少しだけ気分が楽になった。これだから酒はやめらんねぇのよ。とりあえずトイレ行って、酔いを醒ましてから……。漏れそうだからトイレ行こっと。
俺は夜が明けるまで静かに水を飲みながら思考の渦に引き込まれていた。見てみないフリをするのもいいが、残念ながら時間が解決してくれる問題でもない。
「潮時、かな」
そもそもこんなに辛いと感じるのは、俺の上位互換がわらわら闊歩するここにいるからだ。ここに転移した当初は一人で生き抜くことを前提で考えていた。アイナが来てその前提は凍結されたが、アイナがこの調子で独り立ちできそうなら当初に立ち返ってみるのもいいかもしれない。むしろ、その方が互いのためになる。そうに違いない。
「となると、当面の目的は俺のレベル上限か。いい加減何か手掛かりが欲しいところだが……。不幸の星のもとに産まれた俺では望み薄だな。異世界観光にでも洒落込みますかね」
ここまで手掛かりなし。圧倒的格上を単独撃破しても、ダンジョン内の宝箱を漁ってみてもそれに類するものはなかった。これはそんな都合のいいものはないという神の天啓かな? ハハッ、滅びろ。
頭痛が引いた昼過ぎ、俺は冒険者ギルドに向かう。目的地は資料室だ。もちろんレベル上限の資料を探しにきた……わけではない。周辺地域の地図を探しにきたのだ。思い立ったが吉日。旅に出る準備をしようと思ったわけだ。
「また資料室か?」
「ええ」
「……俺も行こう」
え? 受付のおっさんも? あらやだ、これが逢引き……? 俺はノンケなんだよなぁ。女に縁がないのは事実だけど。で、おっさんは何しに資料室へ?
「お前さん、レベル上限だろ?」
ア? だから何だよ? 俺はここ最近それで心がささくれ立ってんだ。他人がずけずけ踏み込んでいいもんじゃねぇんだよ。
「図星か。そんな睨むなよ。お前の苦労は嫌ほどわかる。俺もだからな」
「……あなたもそうなんですか?」
マジかよ。こんなところにナカーマが。灯台下暗しってこのことかぁ。とういうか、こんなところに同じ悩みを持つ人がいるとか、この世界はレベル上限の問題って意外と溢れてそう。
「そうだ。何となく同じニオイがしたからな」
「そうでしたか。……それで、ご用件は何でしょう? まさか揶揄うためではないでしょう?」
わざわざ声をかけてきたんだ。否応なく期待してしまう。おっさんが話し始めるまでの数秒すら、ひたすらに長く感じた。
「お前さんの望む答えはないぞ。だが、代わりにヒントは出せる」
どういうことだ? 二日酔いの鈍い頭には少々荷が重い。あーっと、つまりレベル上限を上げる方法に明確な方法はないけど、手掛かりはあるってことかな? ほうほう、詳しく。
「レベル上限を上げる可能性はある」
「どのような?」
「1つ目はアイテムがあるって話だ」
ダンジョンで非常に稀な確率で手に入る覚醒の宝玉というアイテムならレベル上限を上げることが可能らしい。しかし、難易度の高いダンジョンの奥深くでしか発見例がないことと、覚醒の宝玉は貴族などに売ると一生遊んで暮らせるほどの金額で売れるらしい。
「2つ目は神に認められることだ」
「……は?」
はっ! いかんいかん、素が出てしまった。神ってあの神? 最近、悪態をついたばかりな気がするような……。
「そんな反応は当たり前だ。俺も最初はそうだった」
ここから遠く離れた国に神に認められた人がいるらしい。その人はただひたすらに国を守り続けた結果、神に認められてレベル上限が上がったそうだ。神に認められる条件こそ不明だが、実現した人間が実在するのは希望が持てる。
「それと3つ目だが……勇者になるとレベル上限が上がる可能性がある」
「勇者?」
「ああ。世界に魔王が生まれると何処からともなく現れる存在だ」
勇者に魔王とな。異世界テンプレツートップが現れたぞ。こういうところは全力でファンタジーしてるんだよなぁ、この世界。で、それがどう関係するのよ。
おっさんが色んな国で集めた話から推測したことだが、別段際立つ能力のなかった村娘が勇者になった途端、八面六臂の活躍をするようになったらしい。もしかすると、そこにレベル上限を上げるヒントがあるのではないか、という話だった。
「これが俺の集めた情報の全てさ。役に立てたか?」
「ええ、とても」
「それならよかったぜ」
眉唾物の話もあったが、様々な国を行き来して手に入れた情報だ。同じことをする労力を考えたら有益以外の何物でもない。
「ありがとうございます」
「いいってことよ」
「あぁ、一つご質問をさせていただいても?」
「いいぜ?」
「何故、私に教えて下さったんですか?」
「悩める若者に道を示すのもおっさんの役目さ」
なにそれ。格好良すぎ。こんな格好いいおっさんが近くにいたのに気が付かなかったのか、俺ってやつは。おっさん、あんた輝いて見えるよ。
その後、俺は周辺の地図や情報などを聞き出し、ついでに暇つぶしで資料を読み漁った。おっさんも受け付けは暇らしく、随分と長く話し込んだ。こんなに心許して話し込んだのは久方ぶりだった。
「ありがとうございました」
「なぁに、俺も楽しかったぜ。これから頑張れよ」
「ええ」
こんな面白い出会いがあるなら俺の人生捨てたもんじゃないかもな。少しだけ神様ってやつを信じてもいいかもしれない。
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