第117話 俺の戦略は他人任せ
「ほらほら、こっちだよ~? 捕まえてごらん?」
現在、俺は四つ腕ガーゴイルと追いかけっこをしている。もしこれが、男女が砂浜でにこやかに追いかけっこをしてたらラブラブリア充なんだろうな。そんなの爆発してしまえばいい。俺なんて可愛いさの欠片もない石製の化け物と生死をかけた追いかけっこしてるんだぞ。嬉しくねぇ。
俺は召喚されたガーゴイルを倒しながら、ついでに四つ腕ガーゴイルが消えないように牽制も兼ねて魔道具で攻撃する。魔力は適宜カートリッジから補給しているので問題ないとはいえ、一回の攻撃で多少なり魔力を持ってく魔道具を連射するのは大変なのだ。
「そろそろ疲れてきたぞ……。ハァ……」
ヤバいわ。集中力が切れてきた。このままだと何処かでミスしそう。っと危ねぇ! 言った傍から爪が掠りそうだったよ。てか、こいつ、段々俺の動きについてきてない? いやいや、そんな馬鹿な。……今、明確に俺の足元のシールドを壊そうとしたよね? 俺見てたから。
「ばっ……」
こいつ魔法使えたのかよ! そういうのは早く言え! 隠し玉用意しておくとか最低だ。正々堂々戦え! え? 鏡を見ろ? ワァオ、殺人的目つきの男がいる! じゃなくて。
「あ……」
足元のシールドが破壊されちゃったよ! 階段を踏み外したような感じで滑稽な姿の俺が自由落下し始めた。……勝負あったな。四つ腕ガーゴイルよ。大変惜しい戦いだったが、それも終わりだ。幕引きといこう。
「俺の勝ちだ」
「わたくしが倒したのよ」
俺の戦略では始めから俺以外の誰かが倒す予定だったから俺の勝ちでいいの。しかし、シールドって硬いんだな。攻撃を受け止めるんだから当然か。ケツが痛いぜぇ。
ちなみにアイナは空を飛んでいる。俺みたいななんちゃって舞空術と違って風魔法を上手く使っているらしい。制御に失敗すると吹き飛ぶと言っていた。
「下は?」
「ミスリルゴーレムは大和さんたちが救援に向かったから大丈夫でしょう。ガーゴイルの方は彼らが大半を倒したようね。意外に優秀だわ」
なんと、フラグ建築士どもはあのガーゴイルの群れ相手に勝ったのか。アホっぽいところが目立つが、冒険者としては優秀なんだろうな。人は見かけによらないものだ。俺みたいに。……おい。何が見た目通り乙。だゴラァ。
俺とアイナが地上に降りる頃にはほとんど戦闘は終わっていた。残った数匹のガーゴイルをフラグ建築士どもが倒しきって、ようやく戦闘が終了したのだった。
「な、何とかなったぜ……」
「俺たち、生きてるんだよな……?」
「ああ、生きてる」
「やったぁ~。生きてるぅ~」
おうおう、男の友情は熱いねぇ。あ、ちょっと視界に入らないで貰えますか? 暑苦しいので。いやー、しかし倒したねぇ。素材がウッハウハよ。山分けするから目減りするけど、それでも悪くない量が手に入りそうだ。
「皆さん、お疲れ様でした」
「さすがに疲れたな」
「それを言うなら嬢ちゃんが一番疲れているだろうよ」
「それほど疲れていないわよ」
そう言っていられるのも今の内だろうな。この前は自室に戻る前に寝ちゃったじゃん。みんな知ってるから苦笑いだぞ。それじゃあ早く戻ろう。どっちにしろ44層とかいう中途半端な階層だからすぐに家に帰れないし、今日は疲れをとることを意識していいんじゃない?
俺の意見に他の面々も賛同し、マジックバックに片っ端から素材を詰め込んでいく。他のパーティと協力した時の素材の分け方も教えてもらいながら回収した。
「基本的には倒したパーティのものになるけど、貢献度によってどうするか変わる」
「そうそう。命を救われたから金の代わりに素材を渡したりな」
「それでよく喧嘩になるんだ。面倒くせぇ」
今回、フラグ建築士どもはガーゴイルを少し手にして終わった。俺たちがいなければ死んでいたのは確実だし、大量のスクロールを渡してくれたのだから、本来は取り分がなくても文句は言えないそうだ。そこは爽やか君が半ば無理やり持たせていたが。その後は何事もなく洞窟広場に到着した。
「さて、明日はどうする?」
「そうですね……」
何やら深刻そうな表情で悩む爽やか君が一瞬俺を見た。俺は営業スマイルをお返ししておいた。
「この戦いでだいぶ消耗しました。46層まではできる限り真っ直ぐ行きたいと思います」
「そうだな。予定が狂ったのなら方針も変えるべきだ」
「明日は遅めに出発します。ゆっくり休んで少しでも疲れをとりましょう」
「了解です」
少し門番君の元気がないな。ミスリルゴーレムを相手にして、イケおじたちとの強さの差を見て落ち込んでいるのかもしれない。でも仕方ないよ。それは才能。開き直った方が楽だよ、俺の経験上。それに門番君はまだレベル上限に達していないだろう。それなら強くなる余地はあるし、装備も俺みたいにガチガチに固めてないからな。今回のミスリルゴーレムの素材を使って装備を新調したら全然強くなれるよ。
そういった内容の言葉を門番君に投げかけたら物凄い驚いたような顔をしていた。
「神崎さんはよく人を見ているんですね」
「たまたまですよ」
門番君の悩みは俺も体験したからなぁ。だからアドバイスくらいはできるさ。問題は俺には伸びしろがないことくらいだけど。はてさて、どうしたものか。
自身の悩みに解決の糸口を見つけた門番君はいつも通りの元気な姿に戻った。一安心である。
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