第116話 遅延戦術はお手の物
爽やか君の目は真剣だ。爽やか君は何処か抜けているくせに、他人のことはしっかり見ている。恐らく薄々俺のステータスが低いことをわかった上でそう言っているのだろう。気配探知ではミスリルゴーレム以上の強敵だ。そんな魔物にステータスの低い俺が挑むなんて自殺行為に他ならない。
「できるのは足止めだけです」
ステータスが高い爽やか君が戦うべきだ、という意見もあるだろう。だが、相手は空中にいて姿と気配を完全に隠すことができる。両方に対応できるのが俺しかいない。俺があのガーゴイルを抑えている間に爽やか君と門番君がミスリルゴーレムを撃破。その後合流する方が勝率は高いだろう。
「構いません。お願いします」
「早く決着をつけて下さい。長くは持ちませんよ」
「ご武運を」
「其方こそ」
早くも姿を隠そうとしている四つ腕ガーゴイルをファイアランスで牽制して、俺はシールドを足場に宙を駆ける。考えるのは足止めだけだ。
こういう時って何て言うんだっけ? あ、思い出した。別に倒してしまっても構わんのだろう? よし、フラグ建築完了っと。見たか。これが本物のフラグ建築だ!
「どうした? かかってこないのか?」
勿論、返事はなかった。いや、魔法が返ってきたから返事はあったのか。だが、残念だったな。当たらなければどうということはないのだよ。
俺は次々と放たれる魔法を躱していく。地上に射線が行かないように気を付けるくらいで回避は余裕だった。そのまま距離を詰めていくと、四つ腕ガーゴイルの全容が露わになった。全長は2メートルくらいで質感は石っぽい。腕が増えた以外はガーゴイルの正統進化と言えよう。
「しかし、全然強くねぇな。あのクソ鳥と同じくらいかと思ったけど、スキル全振りタイプの敵か?」
ハマれば比類なき強さを発揮するが、対策されたりした途端攻略が簡単になるタイプ。あれ? どこかで聞いたことのあるタイプだ。相手が姿を消して奇襲ができない以上、それほど警戒する必要なんてある? と思った諸君。甘いねぇ。ガムシロップより甘いよ。油断して危機に陥った場面なんて創作で腐るほど見てきたじゃないか。
「っと、お前がガーゴイルを増やしてた犯人か。そんな強そうなスキルも持ってるとか卑怯だぞ!」
四つ腕ガーゴイルの周囲から通常のガーゴイルが何体も現れた。このガーゴイルの群れを呼び寄せたのはコイツで決まりだ。俺は複数の方向から魔法を撃たれながら回避と迎撃を行う。通常のガーゴイルなら俺でも問題なく倒せるし、倒しておかないと攻撃密度が増えて回避が困難になる。
しかし、仲間呼びは想定外だな。こんな大量のガーゴイルがいるなら噂になりそうなものだが、つい最近覚えたのか? 突然現れるアイアンゴーレムの噂は慣習になるほど古い話だから、長い時間をかけて新しいスキルを得たのか? あり得そう。神様、俺にも強いスキル下さい。
「オイオイオイ! ガーゴイルは投げちゃ駄目って学校で習わなかったのか!?」
四つ腕ガーゴイルは呼び出したガーゴイルを掴んで俺に投げ始めた。魔法より早く、地味にコントロールもいいので俺の回避の比重が多くなる。そうなると必然的にガーゴイルの打ち漏らしが増えて劣勢になってきた。
「チッ、相手が悪い! 毒もマヒも睡眠も無効とか相性悪いだろ。クソったれ。そんなに投げたきゃプロ野球にでも行ってこい!」
相手を炙りだすのに使った魔道具は無差別に魔法をばら撒くので使用できない。スクロールの狙いを定めたくても足を止めると集中砲火を浴びる。シールドで受けとめたくてもこの物量相手では一息入れる間もとれやしない。ちょっとピンチなのでは? 今更、ふざけてフラグを立てたことを後悔しても遅いか。じゃ、フラグはへし折りますかね。
「物量勝負なら相手になってやろうじゃねぇの!」
俺はマジックバックから新たな魔道具を取り出した。それはドリルの付いていない電動ドリルのような見た目だ。その魔道具に魔力を流すと先端から無数のファイアランスが同時に放たれる。まるでショットガンのように。
そう、俺は失敗から学べる大人。アイナに失敗作と暗に言われた拳銃を改造したものだ。あれは浪漫を追い求め過ぎた。一つの魔法に絞り、魔力は自前。とりあえず誰が使っても目の前の敵を倒すことができることを目的に作ったらこうなった。これなら雑に使っても外すことはないし、敢えて射程を短く調整した特注のスクロールを詰め込んであるので誤射の可能性も低い。見た目以外は完璧と言って差し支えない逸品だ。すごいだろう?
「アハハ、ガーゴイルがゴミのようだ!」
あー、楽しい。ガーゴイルの数がどんどん減ってく。やっぱ俺は雑魚の大群相手には強いな。強敵には滅法弱いけど。証拠に四つ腕ガーゴイルにファイアランスが当たってもピンピンしてやがる。スキル全振りとは言え強敵としてのステータスは持っているのか。面倒な。
あっという間に粗方ガーゴイルを処理し終わる頃になってようやく、四つ腕ガーゴイルが俺に近接戦闘を仕掛けてきた。俺の魔法が効かないことを学んだのだろう。しかし、それは想定内。まだまだ俺の掌の上だぜ?
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