第115話 魔道具は有用

「神崎さん!?」


「ミスリルゴーレム!?」




 突如として現れたミスリルゴーレムに現場は大混乱に陥った。爽やか君と門番君はそれぞれ武器を構えてミスリルゴーレムに相対する。爽やか君はフラグ建築士どもにそのままガーゴイルを倒すように指示を出すとミスリルゴーレムに攻撃を加え始めた。




「くっ……硬い! 後藤さんは?」


「俺も大ダメージは無理そうです。向こうに戻ってきてもらいますか?」


「いえ、このくらいは私たちで抑えましょう」


「わかりました!」




 あれ? 俺の心配は? さすがに気配探知で生きてることはバレてるか。でも、もうちょっと心配してくれてもいいのよ? 


 俺は五体満足、掠り傷一つない。ミスリルゴーレムに圧し潰される前に回避し、飛び石にぶつかりながら地面を転がっただけだ。そこで新調した防具がようやく日の目を浴びたのだ。当たらない事が一番いいのだが、攻撃に当たった場合の有用性を証明できた。この防具は衝撃が加わると硬質化して強固な金属鎧と同等になる。正にFS装甲。さらに、多重構造により衝撃を分散、吸収して装備者へのダメージを軽減してくれるのだ。しかし、残念ながらリアクティブアーマーの実装は見送られた。




「神崎さん!」


「こいつは素早く倒しましょう」


「ええ」




 俺もミスリルゴーレム討伐に加わるが、残念ながら俺のステータスでは傷を付けることが限度だ。攻撃は大人しく2人に任せよう。


 ん? 武器も新調しただろって? そうだよ。でも、俺の実力じゃ性能を十全に活かせなかったのさ。恐らく魔力操作のスキルレベルの限界があるのだろう。何というか、この世界厳しくない? と思ったのは俺だけじゃない筈。それに、もう一つ懸念が残っている。




「九城さん、こいつはどこから来たんでしょう?」


「わかりません。いきなり現れたように見えました」


「俺もそう見えました。いきなりこいつが空中に現れたんです」




 ほうほう、全員意見は一致しているな。そうなると、恐らくこのミスリルゴーレムはいきなり現れたのは事実だろう。しかし、どうやって? 気配探知に引っ掛かることなく空中から現れることができるゴーレムにしては、今目の前にいるゴーレムはあまりに普通過ぎる。




「特殊なスキル? 何故使わない?」


「……神崎さん。姿や気配を消せたりするスキルってあるんですか?」


「あるとしたら所謂ユニークスキルでしょうね」


「それならそのスキルを持った敵がまだ隠れている可能性はありませんか?」




 いやいや、そんなわけ……あるかも。フラグ建築士どもの情報にあったいきなり現れたアイアンゴーレム。魔物こそ違うが状況は同じである。何度も長期休載している有名なハンター漫画に出てくるカメレオンがこんな能力だったはず。空中から降ってきたことを考慮すると、羽の生えたカメレオンでもいるのだろうか。




「可能性は高いでしょう」


「そんな敵、どうやって倒せるんですか……」


「面倒ですね……。どうにか敵を炙り出せませんか?」




 また無茶を言ってくれる。だが、やらねばやられるのは俺たちだ。最善を尽くすさ。




「やってみましょう」


「お願いします」


「何で神崎さんはできるんですか……」




 それはね門番君。俺が弱いからだよ。


 俺はマジックバックから野球のボールほどの大きさの球体を取り出す。そして、それを宙に放り投げた。球体がある程度離れたところで俺はスクロールを遠隔起動する。




「わっ!?」


「な、なんだぁ!?」


「ギャー!?」




 いきなり空中に大量の火球がばら撒かれたらフラグ建築士どもの反応も当然と言えよう。これはクソ鳥との戦闘から得た知見により完成させた魔道具だ。相手の体内に入れて内部から魔法で焼き尽くすことを考えている。また、今回のように空中に投げて弾幕を張ることも可能だ。他にもいろいろな属性や種類を各種取り揃えているぞ。




「まだまだいきますよ」


「何個あるんですか!?」


「これで何もない空間に変化があれば……」




 察しが良いね、爽やか君。見えない敵でも実体はあるはずだ。実体もないなら知らん。その時は諦めよう。


 ミスリルゴーレムの攻撃を避けながら俺と爽やか君は上空を注視する。そして、5目の魔道具が放つ火球群の中に不自然な箇所が現れた。




「九城さん!」


「任せてください!」




 爽やか君が空中に向けて魔法を放つ。目星をつけた空間に火柱が立ち昇り空を赤く彩った。


 あれはファイアピラーか? 相手に向けて撃つランス系の魔法と違って、空間を指定して放つ魔法だから使いにくいんだよ。遠隔起動のできるスクロールだから設置型の魔法はそこまで有用性がないけど威力は高いなぁ。爽やか君のステータスがあってこそだけど。




「あれは……?」


「見たことないですね……」




 火柱の中からコウモリのような翼の生えた人型の魔物が姿を現した。大きさとより凶悪になった人相、4本に増えた腕以外はガーゴイルの名残があるように見える。




「形から言えばガーゴイルの進化系でしょうか?」


「変化し過ぎでは?」


「ゴブリンがあれだけ変化があったのです。これくらい変わってもおかしくないと思いますよ」


「どうでもいいから助けてください!」




 おや? 門番君が一人でミスリルゴーレムを足止めしていたけど旗色が悪いな。でも、俺が加わっても大して意味がないんだよなぁ。どうしたものか。




「神崎さん。あのガーゴイルを抑えることができますか?」




 何時になく真剣な目で爽やか君はそう言った。

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