第114話 有事には有事が重なるものですわ

 ガーゴイルの群れをスクロールで迎撃しながら、わたくしはゆっくりと、そして確実に近づいてくるゴーレムを確認しました。神崎と比べてもとても大きなゴーレムです。ミスリルゴーレムと聞いていましたが、そのゴーレムはより人型に近い形をしていました。神崎なら喜びそうです。




「そろそろゴーレムを抑えるわ」


「援護は任せたぞ」


「はい、わかりました。どうかご無事で」




 九城さんが法術をかけてくださいました。ステータスを引き上げるスキルだそうです。わたくしには必要ありませんが、神崎のステータスを引き上げることができるのは少し羨ましい気持ちもあります。


 わたくしたちはそれぞれの武器を持って駆け出します。ガーゴイルが魔法で攻撃してきますが、それに当たるほど間抜けではありません。そもそも当たってもステータス的に問題ないと思いますが。わたくしは駆け出したスピードに乗せてゴーレムを一刀のもとに伏して、すぐに神崎に合流する予定です。




「……硬い……!」




 まさか、強化された柄ちゃんでも切断できないとは思いませんでした。大和さんや斎藤さんの攻撃も硬質的な音を立てて弾かれてしまいました。


 少し想定外ですわ。“みーちゃん”を使いましょう。みーちゃんというのは神崎のくれたとても美しい剣です。剣を振るうと光の粒子が飛び散る様子が天の川みたいだ、と神崎が言っていたのでそこから名前のヒントを得たのです。可愛いでしょう?




「力は強いですが、それだけですわ」




 ゴーレムの振り下ろされた腕をみーちゃんで受け止めました。刃が欠けるようなことすらなく、しっかりと金属の腕を受け止めています。その一撃でわたくしはゴーレムの強さを予測しました。


 これならわたくしの力の方が強いですね。問題は防御力ですが、もっと魔力を込めた柄ちゃんでなら何とかなるでしょう。




「嬢ちゃん、いけるか?」


「問題ありませんわ」


「ふっ、さすがだな」




 柄ちゃんに少し魔力を込めると魔力の刃からパチパチと不穏な音が聞こえました。不良品でしょうか? いえ、あの神崎が不良品を渡すはずありませんわ。素材が限界だったのでしょう。仕方がないのでこれで我慢しましょう。




「……これでも切れない……?」




 2回目の斬撃でもゴーレムを切断できませんでした。傷はついていますが、たったそれだけです。しかし、収穫はありました。




「嬢ちゃんでもダメか……」


「いえ、もう少し確かめさせてください」




 大和さんと斎藤さんの攻撃もわたくしと同じように傷をつけるだけに終わっています。わたくしも同じように攻撃をして傷をつけました。何度か魔法をぶつけてもほんの少し傷をつけるだけです。そこまでして、わたくしは確信しました。




「このゴーレムは一度に受けるダメージに上限があるようですわね」


「何!?」


「……連撃か」




 大和さんは理解したようですね。威力を変えた攻撃の結果、このゴーレムに傷をつけられる程度の威力の攻撃を連続で与えなければこのゴーレムは倒せそうにありません。裏を返せば長期戦になるだけの敵です。しかし、困りましたね。これではすぐに神崎と合流できないではないですか。




「集中力を切らしたら負け。命懸けの登山と一緒だな」


「お前はそんな危険な山に登ってたのか」


「昔の話さ」




 あら、登山ですか。わたくしも行ってみたいですわ。あぁ、でも神崎はすぐに息切れをしそうですね。となると、なるべく低くて登りやすい山でしょうか。今度の休みに探してみましょうかしら。そのためには目の前のゴーレムを倒さなければなりません。




「わたくしが正面を受け持ちます。お二人は側面から攻撃を」


「嬢ちゃんみたいな子供に任せるのは心苦しいが、任せるぞ。俺たちには正面から抑えることはできん」


「きつくなったらすぐに言え。少しだけなら俺たちでもどうにかできる」


「ええ、その時は頼りにしますわ」




 うふふ、神崎以外にも優しい大人はいるのですね。心配されるのがこんなにくすぐったい気持ちになるとは思いませんでした。わたくしを引っ張ってくれる神崎に感謝です。




「ではゴーレムさん。短いお付き合いになりますが、どうぞよろしくお願いいたしますわ」




 あらあら、随分と激しい攻撃ですわ。でも、力ですらわたくしの方が上です。そちらに勝ち目はなくってよ。はい、10連撃。もっと早く動かないとすぐに倒れてしまいますわ。それに、神崎がこちらに攻撃をしようとしてくるガーゴイルを倒してくれています。離れていてもちゃんとわたくしを見て下さっているようです。おかげで戦いやすいですわ。


 わたくしたちはゴーレムをひたすら攻撃しました。如何に強力なダメージ軽減があるとしても、これだけの手数を前にすればそれほど間を置かずに傷だらけになりました。




「この調子なら何とかなるな」


「ええ、このまま押し切りましょう。……斎藤さん?」


「……嫌な予感が消えない」




 斎藤さんは難しい顔でそう言いました。嫌な気配もなにも、気配探知に強い魔物の気配はこのゴーレムしかいません。だからわたくしは気のせいでしょう、と言おうとしたその時、突然魔物の気配が現れ、背後で大きな音が響きました。




「何だ!?」


「魔物よ。恐らくミスリルゴーレムだわ」


「増援に向かうべきか?」


「いえ、向こうも九城さんたちがいるわ。わたくしたちは一刻も早くこのゴーレムを倒しましょう」




 ミスリルゴーレムなら神崎でも大丈夫でしょう。逃げ回るくらいなら何とでもなる筈です。しかし、一体どこからミスリルゴーレムが出てきたのでしょうか。


 わたくしはその疑問がずっと思考に引っ掛かりながらゴーレムと相対しました。

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