第113話 事前準備なしはキツイよ

 俺たちは周囲より少し高い丘の上に陣取った。ここなら倒したガーゴイルが足場に溜まることはないだろう。あとは大きめの石をどかして足場を整え、ガーゴイルの魔法避けのストーンウォールを立てたくらいだ。ガーゴイルの群れは随分近くに見える。そして、その奥の丘から巨大なゴーレムが顔を出していた。


 より人型に近くなったな。ゴリマッチョゴーレムとでも呼ぶか。もう少し意匠を整えたら格好いいロボットになるな。めっちゃほしい。




「作戦を確認します。先ずはスクロールの攻撃でガーゴイルの群れを減らします。その後は天導さんを主軸に大和さんと斎藤さんで巨大ゴーレムを相手取り、残りはガーゴイルがゴーレムの方に流れないように逐次倒していきます。大丈夫ですか?」




 俺たちは転移してきた人間は大丈夫そうだ。対してフラグ建築士どもは青ざめている。意外にも平和ボケしている日本人の方が平気らしい。既に死線を越えたことがあるから慣れたのかもしれない。




「スクロールがこんなに……」


「使い方はわかりますね? 節約など気にせずに使ってください。足りなくなったら在庫はありますので声をかけてください」




 スクロールはそこそこ高価な品物らしく、そんなポンポン使うものではないらしいが知ったことではない。紙とインクを安価で量産できるし、錬金術と併用すれば大量生産なんて余裕。いざとなった時の金策にしようくらいの感覚だ。




「まもなく射程圏内です。いきますよ? ……攻撃開始!」




 こちらの人数からは考えられない程の量の魔法がガーゴイルの群れに飛んでいく。多数の倒れたガーゴイルが落下して地面に散らばった。




「チッ、散開した! あいつら賢いぞ」


「落ち着いて一匹ずつ確実に落としてください!」




 ガーゴイルはそこらの魔物より賢いのか、空全体を覆うように向かって来るようになった。魔法の密度が減って倒せたガーゴイルの数は見るからに減少するが、それでも魔法を撃ち続ける。できればゴーレムと接敵する前にできるだけ数は減らしておきたい。アイナたちがゴーレムを抑える役に回ると迎撃人数が減るのだから。




「ゴーレムが近づいてきたわね。5メートルくらいかしら?」


「気を付けてください。普通のミスリルゴーレムとは比べ物にならないくらい強そうです」




 気配探知でも危険な匂いがプンプンしてる。あのクソ鳥とタメ張れるくらいには危険な感じがする。アイナなら大丈夫だろうが、何か変わった能力がありそうだ。




「そろそろゴーレムを抑えるわ」


「援護は任せたぞ」


「はい、わかりました。どうかご無事で」




 爽やか君は法術を使ってからアイナたちを前線に送り出す。直ぐに地響きや金属音が聞こえてきた。俺たちとは少し離れた場所でゴーレムとの戦闘が始まったようだ。




「ガーゴイルも魔法で攻撃してきましたね」


「一撃は脅威でなくても数が揃えば十分脅威です。危ないと感じたらすぐに隠れてください」


「わかった!」




 フラグ建築士どもも頑張っているな。スクロールにも慣れてきて命中精度が高くなっている、気がする。てか、元々自力でここまで攻略できるパーティなのだから、連携や逃げたり隠れたりの判断が上手だ。ステータスや装備に頼らない強さがある。俺に必要な強さなのかもしれない。




「凄いですね」


「我々と違って何年も磨いてきた技術の賜物でしょう」


「俺らも頑張らないといけないですね」




 門番君は前向きだなぁ。それっと。アイナに魔法を撃とうとしない。そこも。戦場でよそ見は命とりだと習わなかったのか? あ、これは敢えてアイナたちの方を狙っているガーゴイルを狙った方が楽だな。簡単に当たるぞ。それそれそれ。あ、ちょっと待って。何で俺を集中的に狙って来るのさ。




「神崎さんが狙われてます!」


「私が注意を引きますので倒してください」




 早くしてくれ! ふぁっ!? あ、危ねぇ。ほらほら、かかって来いよ、ノーコンガーゴイルが。やーい。うわっ、何か攻撃が苛烈になってる!? ズルいぞ! 一対一で戦え!




「どんどん当たるぞ」


「打て打て!」


「俺たちの力を思い知ったか!」




 わわっ! 今度は石も降ってきた。たぶん倒れたガーゴイルだな。なんかゲームやってるみたいだ。あるよね? こういう上から物が降ってくるのを躱すゲーム。差し詰め、今は2面ってところか。あ、こら。アイナを狙うな。




「神崎さん、器用ですね……」


「今のうちに数を減らしましょう」




 こんなことをしながらガーゴイルを倒していると、段々と違和感に気が付き始めた。そう、ガーゴイルの数が倒しても減らないのだ。否、少し違う。倒してはいるのだ。しかし数が減ったように見えない。何処からともなくガーゴイルが湧いて出てくるような感じだ。




「おかしいですね……」


「数が減ってないぞ。どういうことだ?」


「わかりません。ですが、何か悪い予感がします」




 珍しく爽やか君と同意見だ。俺たちが認知していない“何か”が存在する気がする。フラグ建築士どもの噂ではゴーレムがガーゴイルの群れを連れているという話はなかった。しかし、これだけ目立てばゴーレムの話と同じくらいガーゴイルの噂もあるはずだ。それがないのなら、ここ最近で急激にゴーレムが変化したのだろうか。もしくはゴーレムとガーゴイルは関係してないのか。


 俺は回避運動をとりながら考えていると、気配探知に不可思議な現象が発生した。俺の上空に魔物の気配が突然現れたのだ。

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