第112話 フラグが現れた
皆さま、ついにこの日がやって参りました。そう、何を隠そう我々のパーティが44層に到達したのです。振り返れば山あり谷ありの道中でした。アイアンゴーレムを他のパーティに横取りされかけたり、睨んだ、と因縁を吹っ掛けられた事もありました。普通の冒険者が野営でとる食事を食べて、何故フラグ建築士どもが泣いていたのかを理解したこともありましたね。実に大変でした。
「やっぱ姐さん強いわ」
「ミスリルゴーレムを一刀両断とかマジかよ」
「……はぁ」
「おい、どうした? おい?」
一人危ないやつがいるな。処しておくか。こら、アイナ。見てはいけません。情操教育に悪すぎるから。
「やっと44層ですか、はぁ……」
「景色がこれだと気が滅入るな。こういう時はどうしたらいいんだ? 斎藤」
「せめて晴れてくれればマシなんだが……。こういう時は楽しいことを考えると多少は気が楽になる」
「他には一つのことに集中することですかね」
「瞑想も良いと聞くわ」
瞑想、ねぇ。俺は絶賛人生迷走中だがな! ……うん、今のはつまらなかったわ。自覚あるもん。次からはもうちょっと捻ったおやじギャグを出せるようにするわ。え? おやじギャグから離れろって? この前アイナが笑ってくれのに? 解せないなぁ。
「ここも人が多いわね」
「44層と48層が一番アイアンゴーレムに遭遇しやすいらしいですからね」
「わざわざ転移石から微妙に遠いところに稼ぎどころがあるのは狙ってるのか」
「どうなんでしょうね?」
「さあな」
テンプレ通りならダンジョンマスターとかいるんだろうけど興味ないし、どうでもいいか。で、これからどうするの? 早いけど野営にするの? 今日はしっかりと休んで明日に備える、か。了解だ。
その日はのんびりと身体を休めることになった。といってもダンジョン内部は暇である。ネットがないだけでなく、ウィンドショッピングすらできないのだから、時間が過ぎるのが遅かった。
「作ってもらって正解だったな。ほい、王手」
「なっ! ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「はい、チェックメイト」
「う……。もう一度です!」
これもテンプレだよね。将棋とかチェスとかオセロとか。生産職で手分けして作ったんだ。楽しいでしょ? 門番君なんかフラグ建築士どもにオセロで無双してるし。あ? 俺はやらないのかって? 言うと思った。残念ながらアイナにコテンパンにやられた後です。おかげでボドゲが嫌いになったよ。
そんな風に和気あいあいとした空気でその日は終わった。そして次の日、俺たちはいつも通り44層を攻略し始めた。フラグ建築士どもとは別行動である。
「段々ガーゴイルが増えてきたな」
「あいつら嫌いです」
「はっはっは、後藤に同意だ」
「笑いごとじゃないですよ。空飛んでるし、魔法をチクチク打ってくるしで、本っ当にウザいです」
わかるよ、わかる。俺もあいつらのせいで舞空術が使いにくくなったし、いざ空中にでると集中砲火してくるんだよ。マジ嫌がらせ。小さい悪魔みたいな見た目しているけど、正に悪魔だわ。しかも石製だから倒すと空中で瓦礫となって振ってくるからマジ厄介。
「しかし、視界の何処かには冒険者がいますね。これは少し遠出する必要がありそうです」
「拠点から近い場所は面倒事が多いですから離れましょう」
「気の毒でしたよね。神崎さん」
「大丈夫ですよ。慣れています」
「それは慣れない方がいいのではないかしら?」
慣れないとやっていけないよ。一々絡まれてリアクションしてたら疲れるじゃない。ほら、話してたらストーンゴーレムが出てきたよ。倒して。
そんなこんなでいつも通りゴーレムを狩りながらいると、昼もだいぶ遅くなった時間帯で怪しい現象に遭遇した。
「なんか、ガーゴイルが集まってますね」
「……嫌な予感がするな。登山では違和感があるなら中止だが……どうする?」
「それなら戻りましょう。無理に危険を冒す必要はありません」
賢明な判断だと思うぞ。俺も嫌な予感がするしって、あれ? こっちに走って来てる人間があるな。……フラグ建築士どもか? たぶんそうだ。
「おーい! お前ら! 逃げろっ!」
「例のゴーレムだ!」
「えっ!?」
フラグは折れなかったか……。いや、まだだ。まだ終わらんよ! 今から逃げれば問題ない。よし、逃げよう。
フラグ建築士どもが俺たちに追いついて事情を話しながら水を飲む。彼らの息が切れているので仕方ない。
「ハァ……ハァ……、さっきは別のパーティが戦っていた……」
「好奇心で見てみたけど……ハァ……あれは絶対に勝てない」
「ふぅー……、今すぐ逃げるべきだ。早く」
「……わかりました。直ぐに移動しましょう」
「……どうやら無理そうだぞ」
「迎撃準備でもしますか」
俺と髭熊はずっとガーゴイルの群れを観察していたが、その群れが急にこちらに向かって一目散に飛んで来始めた。恐らく戦っていたパーティは全滅したのだろう。そして、近くにいた俺たちをロックオンしたに違いない。
「ガーゴイルくらいなら逃げきれますよ?」
「俺たちは、な」
「え? あ……」
そう、俺も身体強化と舞空術を併用すれば爽やか君たちから遅れず移動できる。しかし、フラグ建築士どもは別だ。俺よりステータスは高いだろうが、空中移動で足場と障害物を無視できる俺より移動速度は遅い。そうなると、必然的に次の被害者は彼らになる。そして、仲のいい誰かを見捨てて逃げれるほど冷淡な人間ではないのが爽やか君だ。
「えーっと、皆さん?」
「お前さんが簡単に他人を切り捨てられない人間なのは知っている」
「そうですよ。俺も友達を置いて逃げるなんてしたくないです」
「だそうだ。ボケッとしてないでさっさと動け。お前らもだ」
接敵までは多少時間がある。少しでも動きやすい場所に移動したり、足場を整えるくらいの時間はある。俺はフラグ建築士どもがどうなろうとそれほど気にならないが、爽やか君たちがいなくなるのは困るので生存の可能性を高める選択肢を選ぶことにした。
「はぁ、仕方のない人たちね」
そういうアイナも口の端が緩んでいるぞ。まったく。
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