第111話 一級フラグ建築士の称号を授ける
「うめぇ!」
「うぅ……」
「泣くんじゃねぇよ……。飯がしょっぱくなるだろうがぁ……」
「最高だ……」
むさ苦しい野郎どもが涙を流しながらシェフの作った飯を食べている。販促として見るなら120点を差し上げるところだ。中途半端な芸人とかアイドルを使うくらいなら、本当に美味しそうに食べる人間を登用した方が宣伝としてよいではなかろうか。皆もそう思うだろ?
何故こんなことになっているのかというと、彼らの持っている情報の対価として晩飯を奢ったのだ。ちなみに前回の攻略でもシェフの飯を食べているはずなのにこのリアクションをできるのは、ある種の才能ではないだろうか。
「あ~、食ったぁ~」
「マジで美味かったぜ」
「こんな美味い飯食っちまったら全部話すしかねぇわな」
そこからは彼らが集めた情報を教えてくれた。このエリアはかなりの数の冒険者が攻略をしているため、他のエリアに比べると相当攻略が進んでいるらしい。戦いやすい場所やアイアンゴーレムが出やすい場所などの有用な情報などを始め、信ぴょう性の低い噂話みたいなものまで様々だ。
「それが、出たんだよ」
「確認不足ではないかしら?」
「違うんだよ、姐さん。見通しのいい平地で全員目視で確認したし、気配探知にも反応がなかったらしい。でも、いきなり目の前にアイアンゴーレムが現れたのさ」
「そうそう。夜中だったからそのパーティもすぐに反応できなくて半壊したらしいぜ?」
「眉唾物ね」
やっと怪談調の話は終わったらしい。へ? らしいって聞いてたんじゃないのかって? いやー、急に眠たくなっちゃってさぁ。ちょっと居眠りしちゃったんだよねー。ついうっかりうっかり。べ、別に怪談が怖くて耳を塞いでたとかじゃないから。絶対にないから。
「ま、そんな話もあるから外で野営はやめた方がいいってベテランはみんな言ってた」
「そうなの。先人たちが言うなら聞いておくべきね」
あぁ、アイナが成長している。お父さん、もう涙腺が緩くなってしまったよ。歳はとりたくないものだねぇ。
「このエリアでは大人しく普通の野営をすることになりそうね」
「……サイズを小さくすれば……」
「今から戻る気か?」
「神崎さん……」
「嫌ですよ」
「楽しいのに、野営」
そんなにおうちが恋しいのか爽やか君。叱られた犬みたいになりよってからに。家に付くのは猫だろう。一体君はどっちなんだい?
「九城さんは放っておいて、他に何か情報はあるかしら?」
「ありますぜ、姐さん。とっておきの情報が」
「聞かせてちょうだい」
おー、アイナも姐御キャラが板についてきたねぇ。ん? 何で彼らはアイナのことを姐さんって呼ぶのか、だって? それは簡単さ。初見でアイナを揶揄ったらわからせられただけだよ。彼らの性癖が変わった瞬間だ。
「44層にネームドが出たらしいっす」
「ネームド?」
「はい。滅茶苦茶強い魔物っす。偶に出現するらしいっすけど、この階層で戦う魔物ではないそうっす。見かけたら逃げるべきっす」
なんか君たちキャラ変わってない? ま、いいけど。で、ネームドの出現条件は不明だけど、エリアボスより強くてその階層を移動してるのか。ランダムエンカのクソモンスみたいな感じかな。モンスターをハントするゲームの空きっ腹凶竜とか金髪ゴリラとかか。あー、嫌な思い出が……。
「ミスリルゴーレムのネームドらしいって専らの噂っす」
「もっと攻略を進めているパーティじゃないと勝てそうにないっす」
「そう、気を付けるわ。それと、そろそろその口調はやめなさい」
「あ、ハイ」
ミスリルゴーレムだって? なにその美味しそうな魔物は。でも強いだろうなぁ。アイアンゴーレムでさえ、まともに正面から戦ったら危なそうだもん。大人しく援護に回るのが吉か。
「ま、姐さんなら余裕で勝てるって」
「そーそー。それに、そう簡単に見つからないっしょ」
「しかも10日も前の話だし、誰かが討伐してるだろうよ」
「そもそも噂だからな。本当にいるとも限らないし」
「確かに。だっはっはっは!」
うわぁぁああぁぁ、なんてフラグを建築してくれてんだ。しかも入念に何度も。こいつらアホなんじゃなかろうか。どうかフラグが折れますように。あ、門番君と目が合った。うん、門番君も同じこと思うよね。一緒に神様にお祈りしておこう。
「俺らが集めた話はこんなもんだな」
「ええ、ありがとうございました」
「いいってことよ。美味い飯も食えたし」
「それに姐さんがいるなら攻略頑張っちゃうぜぇ!」
「……お前、まさか……」
「……! いや、違うからっ!」
もしもし、お巡りさん。コイツです。あ、裁判官も来てくださったんですね。はい……はい。死刑で。了解です。アイナに良からぬ視線を向ける不審者はどこだぁ~。てめぇか?
その日からは騒がしく過ぎていった。爽やか君は自慢のおうちを出せずに意気消沈していた以外は何の問題もなく攻略は進み、噂話を忘れた頃になって俺たちは44層に到達した。
俺の歯車が大きく狂う事態が起きたのはここだった。
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