第110話 プロジェクトO
聞いてくれよ。この作戦を思いつくまで試行錯誤があったんだ。相手が石とか鉄と聞いてどう対策するか考えたんだ。まず思い浮かんだのは発破だな。トンネル工事とかの要領で爆発物をゴーレムに埋め込んでドカン。簡単な発想だよ。発想は。
「爆発物なくね? しかも、どうやってゴーレムに穴空けるの? 穴空けられるなら爆発物とか要らんだろ」
正にそこが問題なのだ。俺の魔法陣のスキルレベルではエクスプロージョンのスクロールは作れない。クソ鳥とかにしたようにストーンウォールとかで内部から引き裂くことも考えたが、そこで穴を空けることができないことに気が付いたのだ。
「ドリルでも作るか? でも、ゴーレムが大人しく穴を空けられるのを待ってくれるか?」
普通に考えて無理だろう。だから代案を考えたのさ。ビルを解体する時に使う特殊な爆発物とか、パイルバンカーとか、溶鉱炉にぶち込むとか、パイルバンカーとかさ。しかし、結局それらはいろいろな問題から採用は見送られた。
「ゴーレムを打ち上げる? どうやって……。ストーンウォールを弄って背の高い石柱にする……いや、ダメだな。魔力消費が大きすぎる。コスパが悪い。……待てよ?」
そう、俺はこの時思ったんだ。ゴーレムを打ち上げるから大変なんだ。上から重量物をぶつければいいじゃん、と。長時間拘束するのは難しくても、短時間なら落とし穴でも掘ればいい。その間に俺が上空に上がりそこから落とせば完璧じゃね、と。
「上から落とすのは重くて硬い物。一部を金で作って重量を増やして鋼鉄で全体を覆う。ゴーレムとぶつかる底面はミスリルで強度を上げて……」
必要な機能を取捨選択して一つのレシピが頭に思い浮かんだ。大きさと重さで室内での製作を諦めて庭で制作することになり、ついでに錬金術を教えている生徒たちにも手伝ってもらった。
「この非常識さが私に足りないものなんですね」
おい、早乙女さん。誰が非常識の禿げたおっさんか。まだ禿げてないわ。そして非常識でもない。ただ常識に囚われていないだけだ。そこを間違うとただの変態不審者だから気を付けるように。わかったか?
これがこの作戦の経緯である。そして、この作戦の結果は示された。ゴーレムの破壊という素晴らしい事実を伴って。この業績は後世に引き継がれることになるだろう。サブタイは~錬金術師の執念、鋼鉄を越えて~になる予定です。
「気配はなくなりましたね。私の勝利です」
俺は金属塊をマジックバッグに一度しまい、もう一度取り出して異常が無いかを確認する。結果は異状なし。金属塊を片付けて、幾つかのパーツに別れたゴーレムも回収した。
「あの、あれは……?」
「金属の塊ですね」
「いや、そういうことじゃなくて」
気になっちゃう感じ? 爽やか君も聞きたがりだなぁ。仕方ない。教えてあげようではないか。ああ見えてあれも一応魔道具なんだよ。硬化と重量増加が付いてる。一応、修繕も。だから見た目より重いのよ。……え? そうじゃない?
「やめとけ九城。今の神崎に関しては考えるだけ無駄だ」
「完全に揶揄われているな」
別に揶揄ってはないけど。俺の作品を凄さを語っただけですが。ま、聞きたくなったら聞きに来てよ。今を逃すと話すテンションじゃなくなると思うけどね。
「あなた、あんなものを作っていたのね」
「凄いでしょう?」
「呆れるわ。欠点も多いし」
し、辛辣……。いや、俺も欠点は理解してるよ。マジックバッグで運ぶことが前提だし、上空に行かないといけないし、そもそも上方向に距離がないと威力が減衰するし、敵を固定しないと簡単に逃げられるし、魔力はほとんど使わないと言っても素材の原価は馬鹿みたいに高いし。
「ま、いいわ。あなたが無事だから」
まったく。なんていい子なんだ。よしよし。さて、驚きで動作がゴーレムみたいになっていた爽やか君が元に戻ったから攻略再開だ。
その後は順調にアイアンゴーレムを中心に狩りを続けた。かなり熱中していたらしく、階段は見つけられずに41層の洞窟広場で野営をすることになった。これまでの階層に比べて格段に野営をするパーティが増えていた。
「ここで寝泊まりするのなら帰ってもそれほど変わりはないのではなくて?」
「ダンジョンへの行き来する時間などを考えると、野営の方が時間効率はいいんです」
おいおい、爽やか君。そりゃそうだけど、その通勤時間が勿体ないから会社で仮眠をとるみたいな考え方はよくないよ。社畜の一歩手前だ。あと一歩を踏み出すと、かつての俺みたいになるぞ。
「あら、こんなに人がいると九城さん自慢の“おうち”は出せなくてよ」
「う……」
そんな簡単に揺らいでんじゃねぇよ。男だろ。自分が決めたことなんだから諦めろ。てか、あれ滅茶苦茶目立つからやめてほしい。ギョッとした顔であの家を見て、持ち主を探して俺と目が合って口論になるから。てか、もうなったことあるから。あの悲劇を我々は忘れてはならない。今は誤解とわかって和解したけど、最初は険悪なムードだったんだぞ。
「よっ! 久しぶりだな。あんたらも来たのか」
「お久しぶりですね。私たちも今日からゴーレム狩りです」
「そうなのか。じゃ、ゴーレム狩りの先輩として指導してやろうかな」
「つっても3日目だがな。それに姐さんがいるし教えることなんてねぇだろ。目つきの悪いあんちゃんもいるし」
おやおや、おやおやおやおやおやおや。君たちは錬金術の実験体になりたいのかな?
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