第109話 やっぱりハメ技よ
俺の視線の先で胴体に風穴が空いたアイアンゴーレムが倒れた。ストーンゴーレムでの情報収集を終えて、アイアンゴーレムでスクロールの実験をしているのだ。
「ふぅー、突っ立てるだけってのも疲れるな」
「それはわかります。地味な実験とかって眠くなりますもん」
「授業はちゃんと受けろ」
「ハイ! すいませんでした!」
いいなぁ、楽しそうで。俺の話し相手は爽やか君だけだぜ? 爽やかなイケメンとの会話とか無理だって。化粧品の種類とか知らねぇわ。俺は田舎産まれのおっさんだぞ。そんなハイカラな文化で生きてないから。え? アイナがあるだろって? アイナは俺が爽やか君と話している間は割り込んでこない空気の読める子なんだ。物凄い睨んでいるけどね。
「属性による変化はなし。土属性魔法で出てくる石は魔法攻撃力を参照する可能性大。威力はどうですか?」
「一撃で倒すスクロールは現実的ではないですね。魔力効率を考えると威力を高めたランス系を3発くらいで倒すのが簡単でしょうか」
高威力の魔法は強いが規模も比例して大きくなりやすい。前衛がいることを考えると魔力多めで作ったランス系で戦う方がいいだろう。スクロールも作りやすくて楽だ。
「そうですか。……スクロールのデータ収集はこれで終わりです。次からは前衛の戦いを中心にしてみましょう」
やっと俺の仕事が終わったよ。疲れた。では、お先に失礼しまーす。……え? まだ帰るな? お仕事はいくらでもある? 残業はサービスだ? ワァオ、なんてアットホームな職場なんだ! くそくらえ。
冗談はここまでにしておき、次はイケおじたち前衛3人が戦う番だ。俺とアイナは後方で応援するのみ。そして、言うが早いか3人はアイアンゴーレムと戦い始めた。爽やか君も前に出て指示を出している。
「頑張ってるなぁ」
「あなたも頑張っていたわよ」
「……うぅ……」
「ちょ、ちょっと! 何で泣きはじめるの!?」
「泣いてないが?」
「もう!」
いや、ちょっと揶揄っただけだって。俺は心の中でぎゃん泣きしているけど。それにしてもこの足場でよくそんな早く動けるなぁ。俺だと躓きそう。あ、門番君が躓いた。と思ったらハンドスプリングの要領で着地した。うそん。
「あら? みんなの持っている武器が変わっているわね。よく見ると防具も一新されているわ」
「そうなのか? 気が付かなかった」
俺のこれまでの装備は見た目が大きく変わっているが、爽やか君たちの装備は変化がない。いや、俺が気が付いてないだけで更新しているのだろう。今回は素材も多量に集まったので一斉に新調したのではないか? そうなると村正さんたち生産職の苦労が目に浮かぶようだ。さすが、アットホームなクラン。
「鉄くらいなら簡単に切断できると思ったのだけれど、予想以上に苦戦しているようね。魔物だからかしら?」
「さあな。俺に詳しいことはわかんねぇ」
ま、そんなこと言ったら鉄とは比較にならないくらい柔らかい人間の皮膚ですらステータスのおかげで硬いんだ。鉄製の皮膚と考えたらクソ硬いのも納得できるかもしれない。知らんけど。
と、イケおじがお得意の居合を放つ。もはや俺の目では姿が掻き消えてしまい、目視不可能な速度だ。アイアンゴーレムはすっぱりと両断されて倒れた。
「こりゃあ俺たちには厳しいぞ。一体だけでこんなに苦労するとは思わなかった」
「嬢ちゃんと神崎に任せるか」
え、俺に任せるの? 嫌だよ。面倒くさそうだしっておい、何で都合よくアイアンゴーレムがこっちに来てんだよ。おかしいだろ。意味わかんねぇ。
「おい、神崎。来たぞ」
「仕方ないですね」
「お? やる気か?」
俺は向かって来るアイアンゴーレムに挑もうと一歩踏み出すと同時、アイナに手を引かれた。
「大丈夫なの?」
あ、これはクソ鳥のことが頭をよぎったな。ちゃんと成長してくれているようで何より。でも大丈夫。
「いざとなったら天導さんがいますから」
「……! 当然よ!」
これぞ他人任せ。これで俺の身の安全は確保できた。では参る。
俺はゴーレムの少し手前で立ち止まり、静かにゴーレムの動向を観察する。一歩踏み出すごとにドシンと重低音を響かせる姿は人型の重機そのものだ。ゴーレムは俺の目の前に到達すると鉄でできた腕を振り上げる。そして、そのまま振り下ろした。
「ふむ、直撃したら死にますね」
俺は後ろに下がる事でそれを回避。再びゴーレムとの距離が開く。ゴーレムは特に不審な挙動などはせずに真っ直ぐ俺に向けて一歩を踏み出し、地面が陥没して落とし穴に落ちた。俺が生活魔法で足元に空洞を作っておいたのだ。
「目測を間違いましたか。ま、許容範囲でしょう」
ゴーレムは落とし穴から肩より上がまだ出ている。それだけでも1メートルはあるので、全長は3メートルくらいあるのだろう。本当はもう少し地上にゴーレムを出しておく予定だったが問題はない。
「な……!」
「神崎が空を飛んだ!?」
「すごっ!」
「嘘でしょう!?」
どうだね諸君。俺はついに空を駆けることができるようになったのさ。なんてね。足元に小さなシールドを発生させて、それを足場にジャンプしているだけです。あのクソ鳥に体当たりした時のヤツだね。これが本来の使い方。え? シールドなら攻撃を防ぐのが普通だと? おっと、俺としたことが。盲点だった。
「危ないので離れて下さいね!」
「何を……って、えぇ!?」
俺が取り出したるは巨大な金属の塊。相手が鉄の塊だろうが重力を乗せたそれより重い物で一撃粉砕してやろう作戦。略して……、略して……。うん。格好いい名前が思いつきませんでした。
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