第108話 歩く素材を狩りに行こう

「手掛かりナシ、か……。想定内っちゃ、想定内だが」




 あん? まだレベル上限上がらないのって? そうだよ。悪いか。どうせ俺には才能なんてないんですよーだ。あー、神様恨むぜ。こんちくしょう。


 冒険者組合の資料を探しても上限突破の手掛かりは載っておらず、この街にも本屋があると聞いて確認してみたが、そこでも当たりはなかった。俺の休日は徒労に終わっただけだった。




「スキルに関する本があったのは僥倖か。役に立つかは知らんが」




 この世界に古本屋があるのは驚いた。中世ヨーロッパとかだと本って高級品なイメージがあるのだが、そこはファンタジー世界。錬金術で羊皮紙モドキも簡単に量産できるから本も多少安いのだろう。しかも、俺が買った本は何冊も同じようなものがあった。表紙にエンブレムが描かれているので、何処かの学校の教科書なのかもしれない。




「あなた、朝よ。起きて……るのね。最近ずっと早起きだけれど、どうかしたの?」




 うっ……なんて鋭いんだ。確かにここ最近、レベル上限のこととかで不眠症がヤバいし、すぐ起きちゃう。これが女の勘ってやつか。おぉ、怖い怖い。ちゃんと寝たふりでもしておこうかな。




「なにもないさ」


「本当に?」


「本当」


「……そう」




 上手く誤魔化せたか? アイナに変な負担はかけたくないからな。子供に嘘つくのは心が痛いが、これは他人を傷つける嘘じゃないのでセーフ。他人を傷つける嘘は下衆のすることだ。


 今日からはダンジョン攻略に戻る。41層からスタートしてアイアンゴーレムを狩る予定だ。クランの財政状況などは知らないが、金はいくらあっても腐らないので攻略のペースを落として金稼ぎに重きを置くと聞いている。俺たちはさっさと朝の支度をして爽やか君たちと合流しダンジョンに向かった。




「今日からは41層、ゴーレムとの戦いです。頑張りましょう」




 転移石で41層の洞窟広場に到着し、そのまま洞窟の外に出る。そこの景色はこれまでとは違ったものだった。




「空は曇天。地面は瓦礫。見渡せば丘陵地ですね。ちょっと空気が重い気がします」




 爽やか君が端的に今の光景を説明してくれた。見渡す限り大小さまざまな石が転がっていて足場が悪く、ところどころに長くて巨大な岩が突き刺さって枯れ木のようなシルエットを醸し出している。代わりに木は一本も生えておらず、それどころか雑草も生えていない。例えるなら噴火後の火山周辺といった具合だろうか。




「ぺんぺん草すら生えとらんな」


「ぺんぺん草ってどんなのです?」


「あー、そういえばよくわからんな。ものの例えでは使うが」


「仕方がないからわたくしが教えてあげるわ」




 アイナ先生の植物講座が始まってしまった。滅茶苦茶詳しい知識、もとい細かすぎる雑学が出てきたぞ。そして諸君、何故俺を見るのかね。元はと言えば君たちの無学が原因ではないか。俺は楽しそうに語るアイナを止める気はないぞ。その後の不機嫌が俺にダイレクトアタックを仕掛けてくるんだから。




「素晴らしい知識ですね、天導さん」


「うふふ、この程度は常識よ」


「ぺんぺん草のことは十分わかりました。ですが、今はダンジョン内です。攻略後にあの家で神崎さんに聞いてもらえばよいのではないでしょうか?」


「……!」


「あら、九城さんにしてはいいことを言うのね」


「それほどでも」




 おいぃぃぃ! 俺を生贄にして逃げる気かこの野郎! アイナも乗り気になるんじゃないよ。爽やか君の口車に乗せられているぞ。


 かくして俺の予定が俺の与り知らぬところで決定してしまい、ダンジョン攻略が始まった。




「歩きにくいですね、このエリア」


「普通に生活していたら、早々歩くことはないからな。斎藤がなんでそんなに早く歩けるのか疑問でしかない」


「登山をしてるとこういう場所もあるもんだ。斜面じゃない分歩きやすいまである」




 へー、そうなんだ。いや、髭熊すげーわ。マジですいすい進んで行くもの。実は二足歩行の熊とかじゃないよね? あ、ちなみに俺は武器を杖代わりにして歩いてます。おかげで少し楽だよ。いやー、武器を棒にした俺ってすごい。先見の明がある。孔明もびっくりだわ。




「あ、魔物の反応アリですね」


「どこですか?」


「あっちですね」


「ちょっと待ってな」




 俺が指差した方向には大岩が転がっていた。髭熊は巨体に似合わない軽業で岩の上に昇って確認すると状況を伝えてきた。




「デカい岩の塊が動いてる。ストーンゴーレムって奴だろう」


「そうですか。……戦ってみましょう。ゴーレムとの戦闘を経験するいい機会です」


「了解だ」




 爽やか君の指示に従い行動し始める。事前に得たゴーレムの情報から物理攻撃ではなく魔法によって倒すことにしたらしい。その他にも試したいことがあるそうだ。




「よし、行くぞ」




 前衛職の3人がゴーレムの注意を引く。ゴーレムはイケおじたちに気が付いたらしく、進行方向を変えて真っ直ぐに向かい始めた。動きは俺でも余裕で目で追えるほどだが、この足場の悪さを考慮すると気を抜かない方がいいだろう。




「神崎さん。先ずはスクロールで攻撃をお願いします。有効打になる威力を探ってください」




 これは爽やか君たち以外のクランメンバーでもスクロールで倒せることができるのか知るためだ。ゴーレムを倒せるスクロールが完成すれば、ここでの狩りは他のどのパーティに任せても問題なくなる。爽やか君はクランリーダーとしてしっかりと考えて行動しているようだ。


 というわけで、俺、行きまーす。スクロールは各属性の威力を調整したもの多数。休日に作らされたぜ。なんかとても懐かしい気持ちになったよ。トホホ。

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