第105話 強すぎるとフラグも生えない

 俺はボス部屋の端にあるイカゲソが出てくる穴に仕掛けを設置していく。と、そこにようやく笑いのツボから復帰したアイナが話しかけてきた。




「何これ?」


「罠だが?」


「何時作ったの?」


「だいぶ前」




 なんだ、その目は。俺は嘘なんてついてないぞ。あ、ちなみに言うと俺が設置しているのは懐かしきΦ型の罠だ。あのデカゴブリンを真っ二つにしたヤツ。あの戦術自体は使えそうなので罠を少し量産したけど、これまで使う機会がなかったのだ。いい機会なので使ってしまおうと思う。


 ボス部屋全体の穴全てに設置できるほど数はないので、俺の武器の攻撃範囲外のところに設置して少しでも負担を減らそうという企みだ。




「正にリユース、リデュース、リサイクルってわけよ」


「今はSDGsって呼ぶのよ」




 時代は変わったな。単なる言葉遊びでしかないけど。さて、これで設置し終えたな。これで多少は楽になるだろう。




「おい! 本体がバリアを張ったぞ! 気を付けろ!」


「了解!」




 傷だらけのイカ本体が再び膜に覆われていた。その状態ではイケおじの斬撃も表面を切り裂く程度しかできていない様子だ。あの膜は途轍もない防御性能があるらしい。




「来たな」


「気泡が出ている穴から足が出てくるようね」




 そうなのか? 俺は気配探知で地下にうごめくイカゲソの動きを探ったけど、アイナの気づきが普通の対策なんだろうな、たぶん。こういう小さい変化に気が付けるのも才能かなぁ。あ、出てきたイカゲソが二つに割けてる。スカしたのもあるけど、罠は正常に作動したらしい。


 あとは流れ作業だった。前と同じく俺が巨大な魔力の刃を形成して一回転。残りをアイナが凍らせたり、燃やしたり、串刺しにしたりと大活躍だった。爽やか君たちもそれほど間を置かずにイカゲソを殲滅して、膜がなくなった本体をイケおじたちが攻撃する。最初でかなりのダメージを負っていたのか、イカ本体はすぐに倒れた。




「やったか!?」


「大和さん、それはフラグです!」


「どういう意味だ、後藤?」




 眉を顰めたイケおじは門番君を見る。そして、目を離した瞬間、倒れていたイカが起き上が……らなかった。本体が容赦なく切断されてたら死ぬでしょ。あ、でも地球のイカって新鮮だと捌いても少しの間動くよね。


 気配探知でイカが死んだことを確認してから本体とイカゲソ、罠を回収する。そして、41層に続く階段を下りると、何度も見た洞窟広場が広がっていた。仲の良くなったパーティも全員揃っていて一安心だ。




「お? 随分と早かったじゃねぇか」


「強いのはわかってたが、ここまで強いとはなぁ」


「皆さん無事で何よりです」




 あのイカは中々の曲者らしく、本体は全体魔法で攻撃しながらイカ墨で視界を奪い、イカゲソは打撃と魔法を使って攻撃してくるらしい。俺たちは本体をタコ殴りにして行動する暇を与えず、イカゲソは瞬殺したから大変って程でもなかった。




「ところで、この階層はやけに人が多いですが、何故なんです?」


「あ? そりゃあ、このエリアが一番稼げるからに決まってるからだろ」




 41層からのエリアはゴーレムがメインで出現するらしい。動きは遅いし魔法を使ってこない代わりに他のステータスが高いという脳筋使用だ。しかし、知能は驚くほど低いため罠に簡単に嵌るので、マジックバッグを持っているとこのエリアが一番安全に稼げるそうだ。




「狙い目はアイアンゴーレムだ。鉄は必需品だからな。高く売れる」




 その他にもストーンゴーレムやウッドゴーレム、ゴールドゴーレムなど様々な種類がいるが、一番コンスタントに狩ることができるのがアイアンゴーレムだそうだ。


 聞けば聞くほど俺にぴったりのエリアだな。素材がたくさんゲットできそうで楽しみだぜ。




「そうなんですか。あ、何か気を付けることはありますか?」


「ガーゴイルっていう空を飛びながら魔法を使ってくる魔物がいるらしい。ゴーレムにばかり気をとられていると痛い目に合うぞ。……さてとっと、俺たちは帰るが、お前らはどうすんだよ」


「私たちも帰りますよ。ダンジョンにずっといるのは疲れました」




 今はエリアボスを倒してテンションが上がっているが、その熱も段々と冷めてきている。消耗品の補充もあるが、何より安心して寝られる状況が俺は欲しい。それは俺以外の面子も同じ考えのようで、全会一致で撤退が可決された。




「ふぅー……、外はいいものね」


「嬢ちゃんの言う通りだな。しばらくダンジョンは行きたくねぇ」


「随分と長く攻略していましたから、長めの休息を取りましょうか」


「それは助かる」




 帰宅を考えた途端、急に疲れが顔を出し始めた。俺たちは転移石で1層に戻り、ダンジョンを後にする。仲良くなったパーティとはそこで別れて屋敷に帰った。


 あー、疲れたぁ。早く寝たい。まだ日は高いけど仮眠くらいはいいでしょ。不眠症の俺でも良く寝られそうなくらい疲れてるんだ。おーい、アイナ。眠るなら自分の部屋で寝なさい。はぁ、こりゃあダメだな。運ぶか。


 ほとんど目を閉じて舟を漕いでいるアイナを抱えて俺はアイナの部屋に向かった。アイナのブーツを脱がしたりマジックバッグを取り外してベッドに寝かせてから、俺も自室のベッドに潜った。

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