第102話 海を眺めて朝食をとる、贅沢だね

「あなた、朝よ」




 アイナの声がする。あー、眠い。えーっと? 昨日は飯食った後、夜番をしながら焚き火で門番君とカニを焼いて食べながらいたんだっけ。そして、門番君と入れ替わりでイケおじと魚の干物を炙って食べて……。美味かったなぁ。お休み。




「……あ、な、た?」


「はいはい」




 だって眠いんだもん。アイナは夜番してないから元気いっぱいだなぁ。いや、俺がおっさんなだけか。さて、そろそろ起きるとしましょうかねぇ。ふぁぁ~ぁ。


 アイナに叩き起こされて俺はテントから出た。俺は寝床にそれほどこだわりがないのでテントのままだ。それから朝の支度をして、夜番で起きていた爽やか君のもとに向かう。




「おはようございます」


「おはようございます。朝食は手軽にホットサンドですよ」




 いい匂いがするなぁ。ここにコーヒーでもあれば最高の朝食だな。でも朝食はNGです。後で食べるからマジックバッグに放り込んで終了。水をコーヒー代わりに飲みながら夜明けの海を眺める。




「美味しいわ」


「神崎さんも食べればいいのに」




 いやねぇ、俺も食べたいよ? でも体質はどうしようもないのよ。誰かこの気持ちを共有できる人間はいねぇかなぁ。


 そうしていると髭熊が視界に映る。手には簡素な槍を担ぎ、穂先には大きな魚が刺さっていた。正に原住民って感じだ。ある意味とても似合っている。




「神崎と嬢ちゃんも起きたか。後は後藤と大和だけか」


「おはようございます、斎藤さん。それで、後ろのそれは?」


「あのマグロの小さいやつだ。美味かったから獲ってきた」




 へー、そうんだ。あれ美味かったもんなぁ、じゃねぇよ。そんな簡単に獲ってこれる魔物じゃないと思うよ。しかもそんなボロい槍で。


 そのまま髭熊はイケおじと門番君を叩き起こし、朝食を食べて出発だ。夜番を除けば一々転移石のある階層から移動したりする必要がないので、時間効率は良くなったと言える。おかげで探索が進む進む。




「よっこらせっと」




 俺は最後の魔物を倒す。装備のおかげでちょっと手こずる程度で済んでいるのは幸いだ。しかし、この装備込みの俺より倒すのが早い爽やか君たちって滅茶苦茶強いと改めて思う。


 ちょっとショックだなぁ。今の俺が作れる最高装備で勝てないとか、いろいろ自信なくしちゃうぞ。あくまで装備は装備、本体のステータスが低いと持て余しちゃうのかもしれないな。現にアイナは何の問題もなさそうだし。どんな名刀も使い方を知らない素人ではナマクラも同じか。




「終わったか、神崎。鈍ってるんじゃないか? 動きが遅く見えたぞ」


「足場のせいですよ。水場で戦うのは慣れていませんので」


「ん? あぁ、そうだったな。神崎はずっと後ろにいたか」




 そうそう、そういうことにしておいて。周りが強くなりすぎて相対的に弱くなってるとかわかってても認めたくないし、倒れたせいにするとアイナに心配かけちゃうから。


 俺は適当に煙に巻いてはぐらかした。しかし、こうも敵が強くなると、俺がこのパーティにいられる時間も長くはないかもしれない。これ以上強くなるのも望み薄だし、今後のことも考えておく必要がある。




「よし、次行くぞ、次」


「そろそろ次の階層への階段が見つかってほしいですねぇ」


「そうだな。昼前に次の階層に行きたい。そしたら飯が安心して食える」


「今日のお昼は何なんです?」


「お前は飯のことばっかりだな、後藤」


「だってダンジョンでの一番の楽しみってご飯じゃないですか」




 それはわかるよ、うん。この殺伐としたダンジョン攻略で一番の楽しみは食事だ。地球でも戦時中の食事が兵士の士気に直結するくらい重要な要素なのだから、門番君が執着するのもわかる。あ、ちなみに一番の癒しはアイナの笑顔な。異論は認めません。




「あ、皆さん。魔物です」




 変なタイミングで変なこと言うなよ、爽やか君。一瞬期待しちゃったじゃん。




「階段がよかったです。はぁ……」


「そうですよね。はぁ……」


「また魔物か。はぁ……」


「期待させやがって。はぁ……」


「まったくよ。はぁ……」


「なんで!?」




 ほら、そんな間抜け面を晒している暇なんてないぞ、爽やか君。早く倒したまえ。俺は後方で眺めててあげるから。……おー、強い。爽やか君って前衛職が専門でもないのに強すぎるよ。しかも魔法もバフもかけれるオールラウンダーって羨ましい。俺に一つ分けてよ。


 爽やか君はこちらに向かっていた魚の魔物を次々と倒していく。門番君も手伝って、俺もスクロールで援護した。魔物の群れはそれで瞬く間に数を減らしていき戦闘は終了した。




「皆さん、行きますよ」




 そんなやり取りを挟みつつ、昼前に38層に続く階段を発見することができた。そのまま階段を下りて38層の洞窟広場に到着すると先着のパーティが何組か既に陣取っているようで、生活感のある空間が部分的にあった。俺たちは空いている場所を探して、そこで昼食をとることに決定した。




「暖かい飯が食えるっていいもんだなぁ」


「何かあったんですか、大和さん」


「後藤は知らなくていいことさ」




 お? イケおじは昔冷めた飯を食ったことがあるのか? 仕事一筋で家庭を顧みなかったとかかもな。イケおじの年齢は就職氷河期くらいだろうから食いつなぐのに必死だったのかもしれない。大変だっただろうなぁ。俺の世代もレッテル貼りが酷かったけどね。


 そんな話をしていると、ここで寝泊まりしていると思われるパーティが戻って来た。

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