第101話 まだまだ続くよ
あっという間に休暇は過ぎていき、ダンジョン攻略の日々に戻る。今回からダンジョン内で野宿をするので攻略も効率よく進むことだろう。俺としては営業スマイルを張り付け続ける時間が長くなるので非常に面倒だ。
「それでは行きましょう」
爽やか君を先頭にして転移石のある洞窟広場を通り抜ける。洞窟を抜けた先にはこれまでと同じように清々しいほど青い空とエメラルドグリーンの海が広がっていた。しかし、明確な違いもあった。
「海、広くなってますね」
「陸地が狭くなっている、という方が正しいだろう」
エリア自体のコンセプトは変わっていないものの、明らかに陸地と海の比率が逆転していた。これまでは広い浅瀬がある巨大な島というイメージだったが、今は半分以上水没した小さな小島郡という表現に近い。
「探索で確実に足が濡れるな」
「……ねぇ、あなた」
「ダンジョン攻略するうえでそれくらいはよくあるでしょう」
アイナが俺の服を引っ張るが、俺は心を鬼にしてアイナの要求を拒否した。これから先どんな環境があるのかわからないのだ。たかが足が濡れる程度を嫌がっていたら前に進めない。寧ろ、足場が濡れていたり水没したりした状況での戦闘は良い経験になるだろう。俺のレベルは上がらないが。
「ハハハ、神崎が珍しく嬢ちゃんに厳しいこと言いやがる」
「私ってそんなに甘やかしていますかね?」
「それなりに甘やかしてるな」
衝撃の事実。俺ってそんなにアイナを甘やかしていたのか……。でも、確かにいろいろ渡してるな。強請られたら断れないし。これは教育方針を修正する必要があるか?
「ま、放置するよりはマシだ」
「だな。嬢ちゃんも駄々こねたりしないし問題ないな」
「わたくし、そんなにお子様じゃなくてよ?」
「ならば問題ないですね。背負ったりしなくても」
アイナはハッとして俺を見た後、頬を膨らませた。自分で言った手前、簡単に前言撤回できるほどアイナは子供じゃないのだ。それ以上は何もなかった。それからは大人しく探索に精を出し、順調に探索を進めて37層に到着した。そして、やはり魔物も種類が増えて、状態異常を持つ敵も増えた。
「これで最後ね」
「嬢ちゃんが戦うだけで楽になるなぁ」
「的確に厄介な魔物を間引くおかげで俺たちが戦いやすくていい」
「本当ですね。俺も魔法が使いたくなりますよ」
アイナは褒められて嬉しそうだ。アイナは戦場全体を俯瞰して見ており、的確に魔法を放っていた。高精度高威力の魔法は確実に魔物を倒し、前衛が目の前の敵に集中できる環境を作り上げて戦闘の効率化に貢献していたのだ。
どうだい? アイナは凄いだろう。もっと褒めてもいいぞ。ん? 俺は何してたんだって? そんなもの決まっているじゃないか。アイナの後方父親面してただけだよ。アイナの成長をひしひしと感じて心の中で号泣してました。
「今日の探索はここで一区切りにしましょう。すぐそこの開けた場所で野営をします」
爽やか君がそう判断した。既に日は落ちかけていて、空は夕日色に染まっている。これ以上の探索は効率が悪そうだし、疲れもあるので反対の声は出なかった。爽やか君が指定した場所に簡易的な仕切りやテントを取り出して野営の準備を完了する。
「結局、九城さんは作ってもらったんですね」
「そうです。凄いでしょう?」
本当にやりやがったよ、この人。マジックバッグがあるからこその暴挙だが、本当にトレーラーハウスみたいなのを作ってもらったらしい。絶対清水さん困惑しただろうな。俺も橋作ったりして大概やってるけど、爽やか君も大概どうかしてるぞ。
「残念ながら洞窟内のことを考えて平屋になりましたけどね」
「残念なのはそこではないと思いますよ」
残念なのは爽やか君の頭だよ。普通ダンジョンに家を持ってくるやつなんていねぇから。俺でも自重したのに。今度俺も作ろうかな。
「おーい、九城。飯を出してくれ」
「わかりました」
事前に知っていたらしいイケおじたちは驚いた様子はなく、爽やか君に晩飯の催促をする。この場で料理をすることも考えたが、時間や材料、料理の腕前を考えた結果、シェフに料理を事前に作ってもらう方向で全会一致した。
外に設置されたテーブルに次々と料理が取り出されていく。暖かそうな湯気が立ち上り、食欲をそそるいい香りが鼻腔をくすぐった。マジで美味そう。シェフ、ありがとう。
「ダンジョンで榊原の料理が食えるってのは最高だな。俺もマジックバッグが欲しくなる」
「……残念ながら私では作れませんよ?」
「そうなのか……」
俺も作ろうかと思ったんだよ。でもレシピが思い浮かばなくてお手上げだ。錬金術のスキルレベルは一切上がっておらず7のままだ。何なら他のスキルの大半もレベルは上がっていない。耐性系が増えたくらいか。悲しい。
「早乙女さんも随分成長しましたし、私を越える日も近いでしょう。そちらに頼んだ方が確実かと」
俺が錬金術を教えていた生徒の早乙女さんは急成長を見せている。あの空飛ぶ即死トラップの一件後、それまでおどおどしていた雰囲気がなくなり、ものすごく集中して錬金術を学ぶようになったのだ。あの調子なら俺ももうすぐお払い箱かなぁ。
「戻ったら早乙女さんに聞いてみましょう」
「そうだな」
そこからは雑談をしながら美味い料理に舌鼓を打ちましたっと。
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