第103話 俺は人見知りを発動した
「見慣れねぇ顔だが、ここに来たばかりか?」
「はい、そうです。そちらはここで寝泊まりをしているのですか?」
「ああ、そうだ。行き来に時間がかかるからな。……そんなことを聞くってことは、これまでダンジョン内を拠点にしてこなかったな?」
「実はそうなんですよ」
爽やか君が爽やかに応対しているぞ。こうやっていろんな人と話して情報を集めてたんだな。人見知りの俺にはできないわ。知らない人間と話すのとかマジ面倒だし。あ、ちなみに本当に人見知りだと、逆に知らない人とは話せるんだぜ? 中途半端に顔見知りとかはマジで会話が続かいないのさ。
「何で神崎さんは壁を向いてるんですか?」
「私の目つきは誤解を招くようですので」
「あぁ……」
おい、何納得してんだ、門番君。そして、アイナ。笑ってんのバレてるからな。いくら目を逸らしても肩が震えてるぞ。
はぁ……と俺は心の中でため息を吐いた。この世界に来てから既に睨まれたと因縁をつけられること2回。初対面の人に怖がられること数回。さすがの俺でも学習するってものだ。
「そうでしたか。ありがとうございます」
「なぁに、いいってことよ。こういうのはお互い様だからな」
爽やか君の情報収集が終わった。幸か不幸か、相手のパーティに女がいなかったからナンパに発展せずにスムーズに話は進んだ。もし女がいれば血で血を洗う凄惨な戦いが繰り広げられていた……かもしれない。
「それで、何かわかったのですか?」
「はい。ここと次の階層の情報とかが中心です」
38層、39層はこれまでの水没小島郡に変わった木が生えているらしい。話を聞くとマングローブっぽく聞こえるが、これが曲者のようだ。
「木に擬態したトレントや木の実に擬態した魔物だけでなく、水中に隠れ潜む魔物が厄介と言っていました」
さらにこれまでの状態異常を振りまく魔物も健在で、慣れたパーティでも気を抜くと簡単に全滅する可能性があるほどだそうだ。
難易度としては待ち伏せ型の魔物が増えた感じか。何というか、これまでに比べて急に上がった感が否めないな。20代の階層は簡単だったんだけどなぁ。そう思わないかい? 爽やか君。
「神崎さんの感覚は正しいですよ。何でも適正レベルが31層から少しずつ乖離していくそうで、中途半端なレベルで挑むと苦労すると言っていました。ここで野営しているパーティはレベル上げとお金稼ぎを中心にやっているそうです。」
へー、そうなんだぁ。じゃないよ。その話、マジ? 道理で魔物が強いわけだよ。この装備で固めれば50層くらいは最低いけると思ったんだが、たぶん無理だな。これは困ったぞ。予定が狂った。
「あと、運が良ければこの階層あたりからマジックバッグが宝箱から出るそうです。制限があるそうですけど、ここで野営をしているパーティは一つ以上所有していると言っていました」
「そうでしたか。なら擬装用バックパックはもう必要ないかもしれませんね」
どうする? 装備品を更に改良するか? でも、はっきり言ってこれ以上の素材なんて手に入らないぞ。あのクソ鳥は強いだけあって、素材はかなり高品質だったんだ。あれ以上の素材を手に入れるとか、金に物言わせて買い漁るしかないじゃん。いくらかかるか考えたくもねぇ。
「あとは40層のエリアボスの情報ですかね。ちょっと特殊なボスらしくて、ギミックがあるらしいです」
ギミックという言葉にアイナがビクッとした。まだ俺の件を気にしているようだ。俺は気にしてないがアイナは違う。次に似たようなミスをしたらアイナの心の傷が広がるのは想像に難くない。ヘマはできないので、爽やか君に詳しく聞くとしよう。
「どのようなギミックなのですか?」
「エリアボスはタコとイカを混ぜたような魔物らしいのですが、その足を切断しないと本体にダメージが入りにくいそうです」
正統派なギミックだった。あのクソギミックではないので一安心だ。それなら何とかなるだろう。
「話もこのくらいにして昼食に集中しましょう。午後から私たちも探索です」
そうだった。考える時間はあとで取ろう。雑念は太刀筋を乱れさせるって誰かが言っていた。そもそも俺の技量では綺麗な太刀筋の方が出すのが難しい。はぁ……どうしよっかなぁ。
俺は昼飯を食べながら考えるが、終ぞ結論は出なかった。否、もう出ている結論以外を考えていた。
「では行きましょう!」
爽やか君の号令に各々反応の声を上げて洞窟広場を後にする。外は青い空に緑の木々が映える風景が広がっていた。
うん、あれだな。修学旅行で沖縄に行った時に見たマングローブにそっくりだ。動いている以外は。
「あれがトレントですかね?」
「そうっぽいですね」
「木が動く、か。つくづく地球と違うな」
「足場が悪い中、木を切るのは面倒だ」
「これは注意すべきことがたくさんありそうです」
「足が濡れるわ」
口々に感想を言いながら俺たちは38層の探索を開始した。
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