第96話 新品ってテンション上がる

 あー、パねぇ。頭痛がパねぇ。カートリッジから魔力を引き出しながら作ったおかげで魔力に余裕はあるのに痛い。これは、あれだな。残存魔力量じゃなくて、魔力の使用量で頭痛が起きるのかもしれないな。もしくは両方か。どちらでもいいけど、頭痛はやめてほしい。




「……完璧ね。わたくしが考えたデザインと差異ないわ」




 アイナは俺の作った装備一式を広げて確認している。黒が基調の某度し難い探窟家が着ていそうな衣装だ。俺が装備を作ろうとしたらアイナが割って入って、そしていつの間にか描いていた俺の装備のデザインを見せつけてきたのだ。




「でも地味ね。わたくしの考えたデザインの方がよかったのではないかしら?」




 最初は燕尾服みたいな感じだったが、俺が案を出して修正してもらった。元のデザインはよかったけど、俺に執事は似合わねぇって。しかもフリルはやめてくれ。それは宝塚がやることだ。知らんけど。




「それで、この装備はどんなスキルが付いているの?」


「それはだな……」




 現状持っている素材をつぎ込んだだけあって、アイナの衣装に劣らない性能だ。スキルはほぼ全部防御寄りで、ステータス上昇から魔力防御、各種耐性、デバフにも耐性がある。それだけじゃなく、硬質化や衝撃吸収、衝撃反応装甲とかいう今作りました感バリバリのスキル付きまで付いているのだ。


 あれか? 神様が俺のために創ってくれたのかな? ありがとー。ついでに俺のレベル上限解放してください。一生のお願いです。




「他にも温度調節とか修繕とかいろいろ付けた」


「わたくしの衣装より強くないかしら?」


「スキルは多いが、アイナの衣装は素の性能とスキルの強さが別格だぞ」




 俺は足りない部分が多いから、それを補うために手広くスキルをつけている。対してアイナは外付けのスキルなしでも十分なので、必要なスキルを絞って特化させているのだ。




「これでまたダンジョン攻略に向かえるわね」


「そうだな」




 ま、どれだけ装備を強くしたところで、素のステータスが低くてレベルがこれ以上上らない俺では限度が見えているけどな。




「あなたの体調次第だけれど、いつまでかかるのかしら?」


「さぁな。七瀬に聞いてみるしかないだろ」




 現状、俺は戦闘できるほど動けない。今なお身体が痛いのだ。体感的に言えばあと一週間くらい休む必要があると思うし、個人的には1年くらい休みたい。ヨアヒムに明日聞いてみるとしよう。




「さ、アイナ。そろそろいい時間だ。お休みしな」


「あら、もうそんな時間?」




 アイナは席を立つとお休みの挨拶をしてから部屋に戻っていった。俺は魔力が回復するのを待ってから再び作業台に向かう。防具一式はできたが、装飾品はまだ完成していないからだ。




「さてと、いろいろ作っちゃおうねぇ」




 どんなものを作ろうかな? まずは防御系の強い装飾品かな。再利用可能で回数制限を付ける代わりに強力なバリアを張るのとか面白そう。量産すれば回数制限とか無視できるし。そうだ、デバフ解除みたいなのも欲しいな。ついでに相手のバフも打ち消せる、いてつくはどうみたいなやつも欲しい。




「それなら攻撃系も欲しくなる。あ、カートリッジがあるなら魔法を連射する魔道具でも作るのもアリだな。マシンガンみたいに魔法が飛んでくのか。金属製のスクロールと組み合わせればいけるのでは?」




 おぉ、楽しくなってきた。ヤバい。今夜は寝れないかもしれない。完徹したらアイナに叱られるけど、これは止まらねぇぞ。やっはー。


 俺は気の向くままに錬金術を楽しむのだった。




「それで、何か申し開きはあるかしら?」




 アイナが怒っている。カルシウム不足かな? 牛乳飲めよ。身長も伸びるぞ。たぶん。




「あなたは何を考えているのかしら? 反省しているの?」




 怒った顔も可愛いなぁ。全然迫力がない。背後の魔法さえ仕舞ってくれたらな。今は俺の命が懸かっている。ふざけている余裕なんてない。どうやって言い訳しよう。




「錬金術が楽しくて徹夜しました。反省はしています。後悔はしていません」


「……へぇ」




 なんで冷たく怒るの!? 正直に言ったじゃん。正直者は救われるって誰かが言ってたはずなのに。でも、俺はこれっぽっちも信じてないけどな。正直者が本当に救われるなら媚や忖度、太鼓持ちとかいないって。




「辞世の句はそれでいいのね?」




 あれ? 俺、殺される? ま、アイナにならいいか。せめて一刀のもとに伏してくれ。痛いのは嫌なんだ。あ、ちなみにギロチンって残酷に聞こえるけど、実際は人道に則った処刑道具なんだぜ。これでまた一つ賢くなったな。明日学校で自慢話にしていいぞ。




「そうだなぁ……。楽しくていろいろ作ったけど、アイナにプレゼントがあるんだ」


「え?」




 これで最後になるからな。俺がアイナにプレゼントを渡して処刑エンド。俺の物語はここでお終い。じゃあな、みんな。来世で会おう。


 俺はマジックバッグからネックレスを取り出してアイナの首にかけた。興が乗って金属素材を作っていたらアイナの髪色に似た綺麗な紫色の金属になってしまったので、それを基に装飾品を作ってみたのだ。ちなみに女の子に送るから花の形にしてみた。昔実家に生えていたウィンドフラワーとかいう紫色の花がモチーフだ。




「ふむ、よく似合うな」


「……そう? うふふ」




 プレゼントをもらったアイナの機嫌は急回復を見せた。おかげで俺は処刑を免れたぞ。やったね! 皆も女子にはプレゼントを贈ってみたらどうだろうか。もしかしたらもしかするかもしれないぞ。

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