第97話 新作発表するよ

「しょうがないから許してあげるわ。でも、心配だから休んでちょうだい」


「おう」




 普通に心配されてしまった。俺はふざける余裕がなくなったのでベッドに潜り込む。しかし、アイナは帰る気配を見せない。これは前回と同じく寝かせてくれないパターンだ。うぅ……眠いよぉ。




「それで、あなたは何を作っていたの?」


「んー、ちょっとした魔道具かな。半分くらい失敗したけど」


「あなたが錬金術で失敗するなんて意外ね」




 そんな珍しいか? 俺が失敗するなんていつものことだろうに。あと、言っておくけど錬成中に爆発したとかじゃないからな。作ったけど想像通りに動かなかったんだよ。




「前に言っていた“ふぁんねる”みたいな魔道具なの?」


「そう。SF系の武器とか作れないかと思ったけど、やっぱり作れなかったわ」


「錬金術って変なところで不便なのね」


「ぐはぁ」




 な、なんてことを言うんだ。俺が必死に見て見ぬふりをしていることをズバズバと。


 俺はアイナの言葉に打ちひしがれながら作ったものをいくつか取り出す。




「これは? 拳銃みたいだけど」


「各属性の魔法を撃ちだせる魔道具」




 アイナが手に取ったのは銃型の魔道具だ。ファンタジー世界に銃を持ち込むのは転移者や転生者の特権だと思って作ったんだよ、形だけ。撃鉄はおろか引き金すら引くことのできないモデルガン以下のハリボテだ。マガジンが入る部分に金属製のスクロールを各属性分詰め込んでいて、起動の魔力もカートリッジで解決した。




「金属製のスクロールで十分じゃない。なんで重たくするのよ」




 ド正論過ぎる。起動の魔力なんて高々知れてるし、そんな魔力すらケチるほどの状況を打開できる武器ではない。しかも、スクロールの良い点は軽くて魔法の起動をある程度任意に決めれる点だ。その利点を丸々潰したこの武器ははっきり言って駄作としか言えない。なんなら鈍器として使った方がマシである。




「これは……マネキン?」


「ゴーレム……になるはずだったマネキンだ」




 錬金術と言えばゴーレム! そう意気込んだ俺は作ろうとしたんだ。先ずはストーンゴーレムを作ろうとした。否、一応作れた。2秒で崩れたけど。その後改良し続けてコアとなる魔石の質向上と本体重量の削減、素材の変更、関節部追加……といろいろ試して作ったのがこのマネキン。数分のそのそ動くだけで停止する欠陥品である。




「それ……必要?」


「いや、全く」




 動きが遅くても盾役や囮役、時間稼ぎに使えるならまだしも、的にすらならない人型の粗大ゴミだ。これで逃げ切れるような相手なら俺ですら苦戦なんてしない。




「他のは……」


「ここに出したのは失敗作だけだぞ」




 ファンネル改良型は地面をコロコロ転がるだけだったし、エリクサーを作ろうとしたら精力剤ができるしで意味わからなかった。俺は錬金術の本質を理解していなかったようだ。たぶんこれから先も理解できる気がしないけど。




「錬金術って変なスキルね。地球で言う錬金術なら賢者の石とかホムンクルスが浮かぶのだけれど?」


「アイナは俺に人体実験しろって言うのか?」


「言わないわよ。あなたにそんなことしてほしくないわ」




 俺の言葉をアイナは強く否定した。それを聞いて俺は安心する。アイナには良心がしっかりあったのだと確認できたから。


 そりゃねぇ、俺だって日本で一番有名な錬金術師のアニメは履修してますよ。でもね? いくら外道な俺でも無実の人を大量に殺したいとは思わないんだよ。俺はそこまで道を外れた覚えはない。そして、そんなふうに強くなろうとも思わない。




「結局何を作ったのよ?」


「フッ、見せてやろうではないか。我が作品たちを!」


「普通にして」


「はい」




 アイナに素気なくあしらわれて俺は至って真面目に成功作を取り出した。まずはこぶし大の球体だ。




「……」


「何だよ」




 何そのジト目。俺にとってはご褒美にしかならんぞ。あぁ~、ゾクゾクするぅ~。っといけない。アイナに愛想つかされる前に説明しなければ。




「これは要するに手榴弾だな。爆発と同時に毒をまき散らすタイプの」


「……バイオテロよ、それ」


「そんな危険なものじゃねぇって。ファンタジーな毒だから時間経過で治るし、薬でも治る。スキルで毒耐性だってつくんだぞ」


「そう、ならよかった。……待って。何故スキルで毒耐性がつくことを知っているのよ」


「あ、やっべ」




 そんな目で見ないでぇ! ちょっとした人体実験だから。解毒薬も作ってから安全に気をつけて実験したからぁ。涙目になるのは反則だよぉ。


 アイナが俺を心配して泣きそうになるのを必死になだめた。




「もう! もう! もうっ! 何であなたはそんなことばかり! おバカ!」


「いや、ごめんなさい」


「どれだけ心配させれば気が済むの! おバカ!」


「うぅ……すまん」




 いや、マジでおバカだわ。散々心配かけてるのに、また心配をかけてしまった。反省。これからは気を付けます。だから機嫌を直してください。それから何とかアイナの機嫌を直した。物凄く大変だったとだけ言っておこう。


 ついでに俺が毒爆弾なぞ作った理由を教えよう。ゲームとかで単純な強さ以外で苦戦した記憶を探してみたんだ。そうすると、ステージギミック系を除くとデバフや各種状態異常をばら撒く敵が本当に鬱陶しかった記憶が蘇った。対策をしていなければ全滅必至のそんなキャラこそ、今の俺にぴったりな姿なのではないかと思ってこれらを作製したのだ。結局、俺の成功作の発表はこれで終わってしまった。

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