第92話 錬金術のお時間
「まずは武器でも作ろうかね。アイデアはあるし」
それなりに考えていた原案を更にブラッシュアップして余計なものをそぎ落としていく。シンプルは究極の洗練である、と偉人も言っていたので、機能は単純なものだ。武器のレシピが思い浮かんだので、俺は手元にある最高の素材を作業台の上に置いた。
「俺の槍に資材回収で集めたオリハルコン、多種多様の武器、古びた剣、高品質のミスリル、大量の魔石……よし、間違いねぇな」
これらの武器は例のエクスカリバー(仮)と同類の選ばれた者が云々の類だ。大人しく素材になってもらおう。そして、古びた剣。錬金術のレベルが上がっても素材すら分からない変な剣。怪しさ満載だが、レシピに載っているので使っちゃう。気にしたら負けだ。
「魔力回復ポーションよーし。ドンとこい」
これまでの経験から確実に魔力が足りない気がするので、事前に対策をしておく。俺も学習しているのだ。俺は目を閉じて作業台に手をかざす。大量の魔力が流れていっているのがわかった。
これヤバくね? 魔力全然足りないんですけど! ヘルプ!
俺は必死に魔力を流しながら魔力回復ポーションを次々服用する。身体に悪いかもしれないが、ここで止めて失敗したくないのでがぶ飲みして対抗する。しかし、魔力が回復する端からどんどん流れていき、止まる様子はない。
いつもならすぐ終わるのに、今回に限って長すぎるだろ。何でだよ。こんな魔力が必要とか聞いてねぇぞ。ちくしょう。こうなったら意地でも完成させてやる。
「……はぁ~、疲れたぁ~……」
マジで疲れた。もうお腹がポーションでちゃぷちゃぷよ。げっぷ。吐きそう。
俺は頭痛と吐き気で気分が悪くなりながらも、作業台の上に乗っているものを見た。そこには俺が思い浮かべた通りの武器が鎮座していた。
「フッ、完成しちまったぜ。錬金術は世界一ィィィィ! ……叫ぶんじゃなかった。頭いてぇわ」
え? 何を作ったんだって? 見たい? しょうがないなぁ、特別だよ? じゃーん、これです。どう? 凄いでしょう? ……え? ただの棒きれにしか見えない? うん、そうだよ。ただの棒。って言うと思った? 残念でしたぁ。ちゃんと仕掛けがありますぅ。
俺は棒を手に取って魔力を流す。すると、棒の先端から魔力の刃が発生した。そう、この棒はアイナに渡したビームサーベルの技術を転用しているのだ。しかも、思い浮かべたどんな形にも形成できるので、剣にも槍にも斧にも槌にも鎌にも盾にもなる。まさに万能と呼ぶべき武器なのだ。
「なんと、それだけじゃないんです。魔力を蓄積することで長時間稼働も可能。更に、高出力で形成することで、俺のステータスを超える火力を出すことができるのです!」
あ、いつの間にか喋ってた。俺の心の中にいる某テレビショッピングの人が表に出てきたらしい。危なかったぜ……。もう少しで下取りとか言い出すところだった。
俺はベッドに横たわり魔力の回復を待ちながら、次の装備品のレシピを考える。あの装備は村正さん謹製の装備を勝手に改造したものだ。防具の至る所に金属製のスクロールを仕込んでいるのが特徴で、基本はその考えでいいだろう。防具はステータスを高めることと、防御系のスキルを中心に作って、スクロールを仕込む方向で作ろう。
「あ、いいこと思いついた」
俺はとあるアニメを思い出した。全力全開な魔法少女のアニメでは、魔力をカートリッジに込めていたはず。あれを参考にすれば、魔力足りない問題も解決できるのではないかと思ったのだ。
あれを小型化するとどうなる? 円筒状だと場所をとるからカード状にして装着するか。それなら全身に詰め込めそうだしアリだな。待てよ? カートリッジと身体強化のスクロールを合体させれば長時間稼働できるのでは? ……アイナに禁止されてたな、あのスクロール。はい、却下。カートリッジのみで考えよう。
そんな風に考えながら防具や装飾品を作っては魔力回復に勤しんでいると、いつの間にか夜が明けていたらしい。様子を見に来たアイナに見つかってしまった。
「寝ているんじゃなかったの?」
「寝てたよ? たまたま起きてただけで」
「嘘おっしゃい。隈ができているわよ」
「これは……何でだろうな?」
「もう! 身体をしっかり休めなさい!」
ド正論を幼女に言われるおっさんとか情けなさすぎる。格好いい大人を語った翌日にこれでは、アイナが幻滅してしまう。大人しく寝るとしよう。
「今から寝ると結局夕方辺りに起きるのでは? そうなると夜中に活動してしまうのは必然では?」
「……それもそうね」
「なら……」
「ダメよ。起きているのはいいけど活動はダメ。横になっているだけでもマシなのだから、しっかり休養を取りなさい」
「はいはい。じゃ、大人しく寝てますよ~。あ、その前にトイレ」
「もう!」
ダメって言われたら動きたくなるよなぁ? え? 違う? デリカシーの無さにアイナは怒っているだって? それは盲点だった。
アイナは俺のトイレまでついてきた。中には入らなかったけど、外で待っていた。何か子供のトイレに付いてきている母親のようだ。
……立場逆転してねぇか? 俺はトイレくらい一人でできるぞ。いくつだと思ってんだ。
俺は釈然としない気持ちでその日を大人しく過ごした。
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