第93話 入院ってこんな感じなのか

 アイナは話し相手と称して俺の部屋にいる。寝てろと言ったくせに寝かせてくれないのはいかがなものか。おかげでどんどん隈が濃くなっていくぞ。


 俺は仕方ないので魔力をひたすらカートリッジに溜めこんでいた。結局カートリッジは薄っぺらいUSBメモリくらいのサイズになった。これ以上小さくすると性能がガタ落ちするのでしょうがない。




「それで、これからどうするのよ?」


「どうするも何も、九城達と合流してダンジョンは攻略だな」


「はぁ……、仕方がないわね」


「どうせ遠からず合流する予定だったんだからいいだろ」




 そんなに嫌そうな顔をするなよ。俺だって営業スマイルを張り付けて、口調を変え続けるのは面倒なんだぞ。でも、これから俺はどんどん相対的に役立たずになるから、アイナと肩を並べて戦える仲間は必須なんだよ。




「あ、そういえば、何であなたは起きていたの? 何か作っているようだったけど」


「俺の装備品だな。あの戦いで壊れたし」




 修繕のスキルがついていても大きな破損は直せないらしい。今まで装備品を大きく破損させたことがなかったので初めて知った。クソ鳥に食わせた俺の腕も回収したから元通りにするのも簡単だが、より強化するには素材が足りない。正確には解体しないといけない。




「素材を剥ぎ取りたいけどなぁ」


「ダメに決まっているじゃない」


「戦うわけじゃないし、よくない?」


「よくないわ」




 取り付く島もないな、こりゃ。でもね、俺を寝かしてくれないのはアイナなんだよ? 活動せずに寝ることも許されないとか新手の拷問か? なんてひどい。俺はまだ約束を破ってないぞ。


 そんなふうに監視されて早三日。ようやくヨアヒムから活動の許可が出た。戦闘のような激しい運動は相変わらずダメだったが。




「じゃ、ダンジョンに行くか」


「話を聞いてなかったの?」


「聞いてたさ。戦わなければいいんだろ?」


「ダンジョンで戦わないことなんてないと思うのだけれど」


「おいおい、俺は生産職だぜ? 戦うことが全てじゃない」




 この屋敷で魔物の解体をしようか悩んだが、大きいし血や内臓も出るのでさすがに問題かなと思ったのだ。俺は周囲に配慮できる人間だからな。素晴らしい判断だと思う。


 俺は早速ダンジョンに向かう準備をする。装備は完成していないので、最初に作った装備を装着する。防御面に不安こそあれど、今回向かうはダンジョンの1層の人気のない場所。問題なんて起きるはずがない。しかもアイナがついてくる。どうやったら問題が起きるんだろうか。




「神崎さん、いますか……ダンジョンに行くんですか?」




 何で爽やか君が来るかなぁ。タイミング悪いよ、君。ダンジョンに向かったんじゃないの? え? 今日は休み? あ、そうですか。はい。




「大丈夫ですよ。戦闘をするつもりはないですし」


「つもりがないだけで、巻き込まれる可能性はありますよね?」


「天導さんがいますので問題ありませんよ。彼女は信用できますから」




 万一アイナが手こずる相手ならば、万全の状態の俺でも大して変わらない。それくらいアイナは強い。安心してくれたまえ。あと、爽やか君がついてくるとアイナの機嫌が悪くなるし、俺も疲れる。しかも、大事になりそうだから面倒だ。




「万一のことがあります。私もついていきます」




 えー、やだー。疲れるじゃん。どうやって断ろう。お? アイナが一歩前に進み出たぞ。いけ、アイナ。追い返すんだ。




「九城さんが前衛、わたくしが後衛でよろしくて?」


「ええ、もちろん。それなら大和さんたちも声をかけてみましょうか。人数が多い方が護衛は容易です」


「それもそうね」




 のぉぉぉぉ。二人が手を組みやがった。そんなのズルいぞ。勝てっこないじゃん。しかも人数増えそうだし。俺は反対だ。反対だぞ。




「それでいいかしら、あなた」


「……ええ、もちろん」




 目力勝負でこの俺が負けた!? 馬鹿な。俺が圧力に屈するなんて……。よく考えたら、アイナ相手にしょっちゅう負けてたわ。ぴえん。


 結局、爽やか君のパーティ全員が俺の護衛に加わった。アイナも含めて6人パーティだ。前衛がイケおじと髭熊と門番君、中衛が爽やか君、後衛がアイナでバランスがいい。しかも、全員がある程度前衛を務めることができるし、スクロールを持たせれば疑似後衛だってできる。ある意味ヤバい。厨パってこんな感じだろう。ちなみに俺は自由枠のキャラだよ。




「では行きましょう」


「それは構わんが、何処に行くんだ?」


「ダンジョンの1層目ですよ」


「今更ですか?」


「戦いに行くわけではないのですよ? 天導さんだけでも過剰戦力です」




 スライムしかいない階層なんだから問題ないって。人の話は聞きなさい、爽やか君。




「何しに行くんだ?」


「魔物の解体です。この屋敷をスプラッター映画顔負けの仕様にしてほしいならここで解体しても構いませんが?」


「それは止めてくれ」




 それは嫌だよね。わかる。血と内臓が撒き散らかされた屋敷とか、某ゾンビ映画だってやらないぞ。グロすぎる。


 そうして俺たちはダンジョン1層目の奥まった場所に向かった。

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