第80話 ダンジョン攻略再開だ

 あー、ダンジョン攻略だー。面倒くさいなぁ。何というか、地球での月曜日に近いものを感じるようになってしまった。これは、あれか。生活に余裕が生まれたから、ダンジョン攻略を仕事と認識してしまっているのか。




「ノンノン、仕事じゃないんだ。ダンジョン攻略は素材集めなんだ。貴重な休日にホムセンに行く感覚だ。思い出せ、俺」




 物事の捉え方を少し変えるだけでモチベーションが劇的に変わる、とどっかのネットに載っていたような気がする。その記事を信じるんだ。信じる者が救われるんだ。……やっぱ無理だわ。




「今日はサボっちまうか。眠いし。仕事があるのにサボるというこの罪悪感。素晴らしいね」




 それではお休み~。くかー。


 と、俺が二度寝を敢行しようと布団に潜り込むのと時を同じくして、俺の部屋のドアが開いた。もはやノックすらせずに入ってくる人物は一人しか知らない。




「朝よ! ダンジョンに行くわよ!」




 元気だなぁ。俺は疲れてんだよ。特に昨日のせいで。ん? 昨日って休みだったんだろって? 屋敷の庭掃除にアイナとの買い物、作業台と鍋と諸々の作製、アイナの服選び、錬金術とスクロール製作の部屋を準備、アイナの私服作製とマジで忙しかった。休日なんて幻想だったらしい。




「あと5分……」


「さっきも同じことを聞いたわ」




 なんと! 俺は寝言でも言っていたのか。記憶がねぇ……。というか、律義に5分待ってくれたのか。いい子か! いい子か……。




「あと5日……」


「何で延びるのよ!」




 あー、ツッコミが気持ちえぇんじゃぁ。老骨に沁み渡るようだぁ。……そろそろ起きないとアイナに呆れられるか? それは嫌だな。起きるか。




「おはよぅ、アイナ。朝から元気だなぁ」


「おはよう、あなた。早く着替えて準備してちょうだい」




 はいはい、じゃあ部屋の外で待っててね。おっさんの俺でも誰かに見られながら着替えをする趣味はねぇんだ。


 アイナが部屋の外に出て行くのを見届けて俺はすぐさま着替える。この世界に来てからも早着替えばかりしている気がする。俺はもっとスローライフを満喫したい。




「相変わらず早いわね」


「そんなに待ちたかったのか?」


「いいえ。寧ろ、わたくしを起こしに来なさいな」




 まさか早起きをしろというのか。そんなぁ。今でさえ太陽が顔を出す前にダンジョンに向かうというのに、これ以上早起きなんてしたくない。絶対にだ。


 アイナは食堂で朝食を食べ、俺はマジックバッグに放り込む。




「榊原さん以外の人の料理も美味しいわね」




 今キッチンにいるのはシェフではない。料理スキルを持った人が朝食を担当している。シェフのユニークスキルはすごいが、本人がいなければキッチンを維持できない。それではシェフの負担が大きくなりすぎるので、俺が頑張ってコンロとか色々作った。




「神崎は食べんのか?」


「私は朝食を食べない人なんですよ」




 イケおじが話しかけてきた。三角巾で腕を吊っているが、ダンジョンに向かうようだ。




「大和さん、腕の方は?」


「予想より早く復帰できそうだ。今は無理だが、すぐに追いつくさ」


「追いつくも何も、大和さんの方が強いではないですか」




 片手でありながら戦闘力上位にいるのだ。俺よりもすでに強い。俺は装備とアイテムと戦略で補っているだけなのだから。




「ダンジョンの話だ。今は生産職の人間を連れて戦っているが、怪我が治ったらダンジョン攻略を本格的に進めようと思っている」




 あー、そういうこと。頑張れ。イケおじならいけるっしょ。よゆーよゆー。


 アイナが朝飯を食べ終わり、イケおじたちよりも一足早くダンジョンに向かった。本日は11層からのスタートだ。




「さて、どうするよ? 金になる魔物を中心に狩りでもすっかね?」


「何言っているのよ。攻略に決まっているじゃない。最近来ていなかった分を取り返すのよ」


「さいですか……」




 えー、またハイペース攻略するの? 疲れるから嫌なんだけど。って一人で進まない。迷子になったら大変でしょうが、俺が。




「で、次の層の見当はついてるのか?」


「もちろんよ。聞いておいたわ」




 なんと、アイナはこの数日でダンジョンの情報を女性陣から引き出していたらしい。うぅ……、俺は嬉しいよ。あのアイナが他人と会話できたって聞いて感動だ。少しずつあのグループに馴染めているようで何よりだ。お父さん、嬉しいよ……!


 俺が心の中で男泣きをしながらアイナに引きずられるようにして11層を進む。ちらほらと冒険者の姿が見える。遠目で見る限り、ガゼルを狩っている冒険者が多いようだ。




「ここまで来れるなら、もっとマシなの狩れよ」


「一番マシなのがガゼルなのよ」




 高値で買い取ってくれるタックルバッファローやグラスピューマは危険度が高く、ハゲワシは弓か魔法がないと狩ることが難しい。必然的に強くなく数も多いガゼルがターゲットに上がる。




「魔石も取れて肉も毛皮も角も買い取り素材。確かにマシだな」




 納得だわ。買い取り金額も10層までとは大きく違う。1日に2匹狩れれば着実に金が貯まるな。


 そんな彼らを横目に歩いていると、面倒事が歩いてやって来た。

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