第78話 劇的ビフォーアフター

「……本気ですか?」




 爽やか君が買うと言ったことに対して、案内人は正気を疑う。普通だったらそういう反応をするだろう。俺でもそうだったのだから。


 しかし、爽やか君は意見を変えることはなく、この屋敷を買うことになった。商人組合の建物で契約書にサインし、現金一括で取引終了だ。これであの屋敷の名義人は爽やか君となった。




「どうです? 一方的に驚かされる気分は?」




 遅めの昼飯をそこらの料理屋で食べながら、爽やか君がそう言う。


 ほう? 俺への当てつけか? 良いだろう。買ってやんよ。




「とても刺激的なものでした。これからも九城さんには驚かれるようなことをしたいと思います」


「え? いや、あの……」


「神崎の方が一枚上手だねぇ。諦めて驚かされな」




 村正さんの言葉に肩を落とす爽やか君に、今度はイケおじが声をかける。




「ところでどうするつもりだ? リフォームでもするつもりか?」


「はい」


「どうやって?」


「生産職の中に建築のユニークスキルを持つ人がいるんです」




 声を潜めて爽やか君がカミングアウトをする。ユニークスキルは大変貴重なものらしく、場合によっては攫われる可能性もあるらしい。だからひそひそと会話したのだ。




「これまでは使う機会がなかったのですが、今なら使えるでしょう。明日に見てもらうつもりです」




 その人のユニークスキルは錬金術の建築物特化版のようなものらしく、脳内に図面を思い浮かべると必要な素材がわかり、素材を使って一瞬で建物が建つそうだ。


 はー、すげぇ。使いどころに困る以外は強力なスキルだ。今の場面にぴったりなご都合スキルじゃん。


 翌日はその人が建物を見て必要な素材を聞き、迷宮都市を走り回って集めた。俺とアイナは少しでも金を節約するため、街を出て森の奥の方で木を切り倒し、石を集めさせられた。 ぶっちゃけると屋敷の修繕の素材の大半を集めた。しかも、レンガや鉄筋なども錬金術で作らされた。




「疲れたぞ……」




 いや、マジで頑張った。素材の半分以上は俺の努力と言っても過言ではない。石を上位錬成で高品質な石材にしながら形を一定にして、大小さまざまな板ガラスを作らされ、鉄筋は直径とか形とかを細かく指定されてマジ大変だった。しかも照明とかまで作らされてヘトヘトだ。もう二度としたくない。




「清水さん。お願いします」


「では、いきます」




 建設会社みたいな名前の人が大量の素材に手をかざすと、素材とボロ屋敷が俄かに光り輝き始める。素材が屋敷の方に吸い込まれ光が弾けたと思ったら、そこには新築物件ができあがっていた。異世界の建築技術は地球よりすごかった。




「みんなで中を確認しましょう! 部屋割に関してはこちらで終わらせています。部屋を変えたい方は空き部屋、もしくは部屋の持ち主と相談の上、私に申し出てください」




 この日は自分達の家が完成すると聞いて、全員がダンジョン攻略を休んでここに来ている。そして、爽やか君から部屋の場所が書かれた紙を貰って、なだれ込むように中に入っていく。俺とアイナは最後に入った。




「まだ照明がついていないわね」


「九城に現物は渡した。後は知らん」


「あなたは大変だったものね」




 言われた通り何十という照明、しかも屋敷の雰囲気に合うようなデザインで作らされた。設置は勝手にやればいい。俺はランタンとかあるし困らない。




「私たちの部屋は……隣どうしね」


「そうらしいな。しかし、わかってるじゃん。俺の性格を」




 俺の部屋は屋敷の中でも別館と思われる場所の最上階の一番奥。人の往来がなくて静かな場所だ。




「普通は怒るところじゃないかしら。一番不便な部屋を押し付けられたのよ?」


「食堂とトイレが遠いのが難点なくらいだろ。俺は騒がしい方が嫌だね」


「日当たりが悪くて暗いし湿気も溜まるわ」


「エアコンみたいなのでも作るか?」


「お願いするわ」




 家具もないし、ベッドのフレームだけでも作らないと地べたに布団を敷く羽目になるな。ブーツで出入りしているから、それはお断りしたい。今すぐ作っちまうか。


 俺はサクッとベッドのフレームを作り上げて設置する。後は宿屋から布団を持ってくるだけだ。




「……何でテーブルと椅子まであるのよ」


「懐かしいだろ? しかも使いやすい」


「何で持っているのよって聞いたの!」


「たくさんあったからパクってきた」




 大量に在庫はあったからな。こんな事もあろうかと持ってきた甲斐があった。




「ま、いいわ。家具をもっとちょうだいな。模様替えをするわ」




 アイナに各種家具を複数渡したら、俺は部屋から追い出された。仕方ないので俺も部屋を整える。作業台や鍋をセットし、テーブルや衝立を置いて見栄えを整える。結論からするとセンスのなさが浮き彫りとなった。




「……ま、いっか」




 最後に照明とカーテンを取り付けて完成だ。何ともまとまりのない部屋になった。と、俺の部屋のドアをノックする音が聞こえる。ノックをすることから、アイナではないことは確定だ。




「神崎さん、いらっしゃいますか?」


「いますよ。入ってきても構いませんよ」




 声からするに爽やか君だな。何しに来たのだろうか。




「失礼します。……なんでこんなに家具が揃っているんですか?」


「その質問をしたくて来たならお帰り下さい。失礼ですから」




 俺は全員分の家具なんて作りたくないぞ。錬金術なら早乙女さんたちがいるじゃない。作業台がないかもしれないが、そんなことは知らない。




「いえ、宿を引き払いに行ったらいかがですか、と言いに来たんです。既に大和さんと村正さんは何名か引き連れていきました」


「そうですね。天導さんが模様替えを終えたら向かいます」


「あら、終わったわよ?」




 何時の間にかアイナが部屋にいた。爽やか君が一瞬ビクッと震えたのは面白かった。




「では、宿を引き払いに向かいましょうか。それでは、九城さん」




 俺は爽やか君を部屋から追い出して、アイナと共に宿屋に向かう。


 こうして俺たちは拠点を手に入れたのだった。

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