第77話 九城、家を買う

 転移石で1層に戻り、出張所で魔物を買い取ってもらう。爽やか君の言った通り牛と猫は高く売れた。正式名称とか忘れた。必要があるなら覚えるだろう。と、組合職員が爽やか君に話しかけていた。話が終わると俺たちの方に来る。




「盗賊逮捕の報奨金が準備できたそうです。今すぐ貰うこともできるそうですが、分配を考えてからの方がいいと思うのですが……」




 一瞬何の話しかと思ったが、あの臭い盗賊団の話だった。臭すぎて記憶の彼方に追いやられていたようだ。ちなみに金額を聞くと、家一軒軽く買える額らしい。盗賊団の規模と過去の犯罪歴、迷宮都市の外に出る冒険者の少なさから報奨金が高くなったそうだ。




「それでも良いですが、皆さんに許可を取った上で将来のクランの拠点を買ったらどうでしょう?」


「……は?」




 何だ、その顔は? スマホがあれば撮影してネットにばら撒いてたところだ。よかったな、異世界で。




「それはいいのでしょうか?」


「冒険者は家を買ってはならない、と規定があるなら無理でしょうが、一考の余地ありだと思いますよ」




 他人の家に冒険者が寝泊まりしてはならない、なんて規定もないだろう。クランを設立してからでないと集団で生活してはならない、とかもないだろうな。規制する意味が無いし。


 すぐに爽やか君は受付嬢にナンパ、もとい情報収集して戻ってきた。どうやら問題ないらしい。




「皆さんから許可を取らないといけませんね」


「割と簡単だと思いますけどね。宿代がかからなくなること、生産職は自身の生産拠点が持てること、榊原さんの料理が食べられることを伝えれば大丈夫ですよ、きっと」




 日本育ちという共通点のある集団でいる方が落ち着くだろう。反対する人はいないんじゃないかな。アイナですらシェフの料理と聞いて頷いたのだから。




「わかりました。今日みんなの意見を聞いてみて、明日には物件探しをしたいと思います」


「頑張ってくださいね」




 俺とアイナは宿屋に戻った。晩飯を食べて、俺は錬金術で色々作ってみる。アイナは興味津々の様子で見学するらしい。


 さて、俺が本日作るものは何でしょう? まずはニクトリソウの葉と茎を準備します。大きいので切断しましょう。そして、品質向上剤と適当な魔石を少し。目を瞑って魔力を流して完成だ。




「……今更糸なんて作って何がしたいのよ? しかもこんなにたくさん」


「まぁ見てろって」




 俺は一端糸をマジックバッグに放り込み、今度は羊の毛を取り出す。糸と同じように錬金すると、綺麗なふわふわの綿毛になった。獣臭さもなく、手触りは悪くない。




「ふわふわね」


「少しだけなら持っていっていいぞ」


「……貰っておくわ」




 そんなもの欲しそうな顔していたら誰だってわかるぞ。笑顔になっちゃって可愛いなぁ。ちなみに、俺が作ろうとしているのは布団だ。いい加減キャンプグッズで寝るのも疲れたからな。ふかふかのオフトゥンで眠りたい。はい、完成。掛け敷き2枚のふかふかオフトゥン枕付きが2セットだ。スキル付きで臭いも汚れもなくなるし、睡眠に適する温度に調整する機能付きだ。




「これはいいわね」




 早速、敷いたばかりの布団に潜り込んだアイナは顔だけ出してうっとりしている。俺も寝転がってみたが大満足だ。お値段以上の価値はある。その後はスクロールを量産し、錬金術でいろいろ作って俺は寝た。久しぶりにぐっすり眠れた。


 そこから数日はダンジョン攻略に勤しみ金を稼いでいると、爽やか君から話しかけられた。




「神崎さん、幾つか拠点の候補がありまして。ご一緒に内見しませんか?」




 内見の知識なんてないぞ。何せ安アパート暮らしの人間だ。虫は出るわ、騒音は響くわ、夏は暑くて冬は寒いわで、大体のところは快適だと感じてしまう。でも、楽しそうだから行っちゃう。もちろんアイナも一緒だ。


 内見当日は爽やか君とイケおじ、村正さんという見知った顔が揃っていた。商人組合の人に案内されて拠点候補の家に案内される。1件目は冒険者組合本部からほど近い場所にあった。




「こちらの建物は冒険者組合に近く、建物自体もしっかりと管理されているので修繕不要です」




 案内人はそう言って扉を開ける。中はがらんとしているが掃除は行き届いているようだ。個室や廊下も綺麗なものである。だが、問題は建物自体が小さいことだ。38人全員が暮らすには窮屈である。結果、この建物は却下となった。




「次の建物はダンジョンに近い建物ですね。冒険者の方々に必要なお店にすぐ行けます」




 この建物も手入れはそれなりに行き届いていた。全員に個室は無理でも集団生活はできそうだ。小さいながらも庭があるのはポイント高めである。結果、保留になった。


 その後、数件巡ったがどれも一長一短な建物ばかりだった。最初こそ楽しかったが、途中から疲れてきて口数が少なくなる。最後の建物に着く頃には無言になっていた。




「こちらが最後の建物になります。見ての通り荒れ放題で建物も管理できておりませんのでお勧めはしかねます」




 立地も悪くて組合からも、ダンジョンからも遠く、大通りから少し奥まった場所にある。だが、代わりに今まで見たどこよりも土地が広く、もはや屋敷と呼ぶレベルの建物が2棟立っている。




「中も荒れ放題だったが、どうするつもりだ?」


「実は名案があるのです」




 イケおじは却下したそうな雰囲気で爽やか君に判断を仰いだら、爽やか君は悪戯っぽく口に指をあてた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る