第76話 洞窟を抜けるとそこは

 エリアボスを倒すと扉の向かい側に階段が出現した。俺たちは11層に下り、案の定、階段を下りてすぐに広場があり、転移石が鎮座していた。




「お早いですね」


「ええ、数量の勝負では負けるつもりはありません」




 ゴブリンなら100匹単位で襲ってきても勝てるぜ? 俺は雑魚相手なら強いんだ。




「しかし、まだ洞窟ですか。いい加減見飽きました。」


「そうでないですよ、神崎さん」




 爽やか君がニッコリと笑って面白い冗談を言ってくる。広場から続く洞窟の先に太陽と草原があるんだとか。そんな馬鹿な話があるわけないのに断言する爽やか君は疲れているのだろう。


 え? 壮大な前振りにしか見えない、だと? そそそそそんなわけねぇし!? 異世界ものでよくある不思議空間が広がっていると考えたら心が踊ってるわけないし!? なななななにを言ってんだよ!?




「聞いただけでは信じられませんよね? 見に行ってみたらどうですか? 凄いですよ」




 ほーん、そこまで言うなら見に行こうじゃねぇの。仕方ねぇなぁ。


 俺とアイナは広場から適当な通路に入る。ぐねぐねと曲がった通路の先から光が見えた。




「……どういう原理なのかしらね?」


「さあ? 広い空間の壁と天井に風景でも投影してんじゃね?」


「あり得るわ」




 眼前に広がる広大な草原に、俺とアイナは立ち尽くす。頬を撫でる風は草の匂いを運び、目の前の草を揺らしている。草も地面も本物で、地平線の彼方まで続いていると錯覚しそうだ。




「時刻は……3時くらいか? 外と連動してんだな。ありがてぇ」




 洞窟内では時間がわからず俺の腹時計を信じて活動していたが、実時間とずれていた。それがなくなるのはありがたい。




「少し散歩しましょうよ」




 日本では簡単に味わえなかった体験だ。新鮮な気持ちで草原を歩く。ところどころサバンナにあるような木が生えていて、結構な数の魔物がいるようだ。想像以上に広い草原を歩きながら散歩を楽しむ。




「鹿」


「ガゼル」


「牛」


「バッファロー」


「猫」


「ピューマ」


「鳥」


「ハゲワシ」


「誰が禿げか」




 俺が適当に魔物の見た目を言うと、アイナが一番近い動物の名前を教えてくれる。そして最後にディスられた。それはそうと、だいぶ魔物の種類が多い。他にも羊っぽい魔物やホーンラビット、ヤバそうな植物などがいる。




「なんじゃありゃぁ?」


「ハエトリソウ?」


「デカすぎやしないかい?」




 どう見ても全長4メートルはあるだろうハエトリソウモドキ。ヤバくないですか? そんな大きなハエがいるんですかね? 俺の知っているハエトリソウとは形が違うし。あ、ガゼルが食われた。マジかよ。




「……ガゼルトリソウ、かしらね?」


「おっかねぇな。刈り取るか」




 俺はスクロールを取り出す。魔力を流して起動させると風の刃が駆け抜けた。




「嘘だろ。切れなかっただと?」


「それよりもこっちに来ていないかしら?」




 ハエトリソウモドキは器用に根を動かして俺たちの方に向かってくる。ガゼルを食った部分が、模様も相まって口が裂けた顔みたいで恐ろしい。




「仕方ない。逃げるか」


「倒しなさいよ」


「えー、面倒くさいじゃん」


「素材がこっちに向かってきているわよ。しかも、あれは今までに1匹しか見ていないわ」


「レア素材だ。刈り取るぞ」




 燃やすと素材がなくなるので却下。頭みたいな部分は3つもある。死角はなさそうだ。しかし困った。俺は対策を練って戦うタイプなんだ。初見で戦うのは苦手だぜ。




「ちょっと試すか」




 俺は槍を持って慎重に近づく。ハエトリソウモドキは俺を食べようと上から顔が迫る。そして、俺の頭上で半透明の壁にぶつかって止まる。顔を振り回して半透明の壁にぶつけるが、シールドが破られる気配はない。


 オッケー、勝てるわ。動かないように根っこの上からシールドをしましょうねっと。はい、上下がシールドで守られました。後はぶっとい茎を刈り取りましょう。あ、そーれ。




「余裕だな」


「シールドを地面と平行に使う人なんて普通いないわよ」


「そうか? サイズを小さくして足場にしてやれば舞空術だって使えるぞ」


「普通に使いなさいよ」




 俺にとっては普通なんだが? ステータスが低い分、その他で頑張らないといけないんだ。工夫と言って欲しいな。




「えーっと、なになに? ニクトリソウ? ほー、素材としては上等だな」




 なんかヤバい名前だったが無視だ。気にしたら負けである。素材としては高品質か。植物性の素材はほとんど持ってなかったから楽しみだ。ぐへへ。




「後は適当に狩って戻るか。買取価格が高そうな魔物を優先だ」




 俺たちは目に付いた魔物を倒しながら進む。気が付いたらかなり日が落ちていた。洞窟の広場に戻ると爽やか君のパーティはまだ残っていた。




「どうでしたか? 凄かったでしょう?」


「ええ、驚きました。思わず見入ってしまいました」




 これはマジ。予想はしていても実際見ると驚愕の連続だった。




「ここではタックルバッファローとグラスピューマが高値で買い取ってもらえるそうですね」


「ほう。それはいいことを聞きました」


「それとニクトリソウという巨大植物には注意してください。滅多に見かけないそうですが、かなり手強いそうです」


「……早く知りたかったですね」




 あいつ、強かったのか。刈り取ったから知らんがな。明らかに品質が高かったし、魔石も大きかったのには納得がいったぜ。


 俺たちがニクトリソウを討伐したことに爽やか君のパーティは目を丸くしていた。

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