第74話 イケイケどんどん

 アイナに笑顔が戻ったのでヨシ! たまにはイイこと言うんだなって? そんなに褒めんなよ。照れるだろ。


 そんなやり取りをしていたら、いつの間にかダンジョンにいた。4層でノブタを数匹狩ってから5層に下りることになった。




「ダンジョン攻略するわよ!」


「はいはい」




 なんか元気になったアイナに連れ去られるようにして5層を突破。気が付けば6層だ。階段を下りたら広場で、転移石が鎮座していた。




「結構人がいるな」


「転移石が使えるか確認しておきましょう」




 俺の話、聞いてる? 無視ですか。ぐすん。


 俺たちは転移石に近づくと、脳裏に行き先が思い浮かぶ。今行けるのは1層と6層だけだ。一応1層に行ってから6層にとんぼ返りしてみる。




「使えたな」


「そうね。じゃ、攻略に戻りましょう」




 転移石が使えることを確認して、6層の攻略だ。見た目は洞窟チックで変わっていないが、魔物が大きく変わっていた。爽やか君の言った通り魔物の種類が増えて、魔物自体も集団で行動していた。




「数だけならどうとでもなるな」




 手数だけはアイナすら上回る俺の前に、小規模な魔物の群れなど恐れるに足りない。数匹ならスクロールすら必要ないくらいだ。




「ウルフって聞いたからてっきり犬かと思ったけど、なんか違うわね」


「丁度いいだろ。躊躇いなく倒せるし」




 ウルフと聞いて最初に思い浮かんだのはシ〇トン動物記の狼だ。実際エンカウントしてみると、あばら骨が浮き出るくらいガリガリで愛嬌など何処にも存在しない魔物だった。しかも犬に比べて足が遅い。野生の猪より弱いと思う。




「ホーンラビットも可愛げないしなぁ。魔物になると目つきが悪くなるのか?」


「あら? それならあなたも魔物かしら?」




 それはフリか? 全力で乗っかってやるぜ!




「ハッハッハ、よくわかったな!」


「え? 本当なの?」


「違うから」




 何で真顔になるんだよ。俺も素に戻ったじゃんか。


 ウルフは毛皮と爪を、ホーンラビットは毛皮と角と肉を回収した。ホーンラビットはノブタに比べて討伐難易度が高く、肉も少ししか取れないので相場が高いらしい。




「美味しいのかしら?」


「昼に食ってみるさ。血抜きも完璧だから期待だな」




 6層も全体的に冒険者が散らばっていて宝箱は期待できそうになかったので、俺たちはさっさと7層に突入した。といっても、風景と魔物にたいして変化はない。




「6層ほどではないけれど、この層も色んな所に人がいるわね」


「宝箱はなさそうだな」




 下層に行くほど収入が良くて、転移石のおかげで行き来にそこまで苦労しない。危険度なども考慮すると転移石のある層とその一つ下がちょうどいいのだろう、とアイナが言っていた。




「1、2層は?」


「あそこは例外的に割が合わないのよ。スライムばかりだったでしょう?」




 まー確かに。スライムを探して徘徊するよりはノブタ1匹倒した方が楽かもしれない。ノブタがいくらで買い取ってもらえるかは知らんがな。


 7層もあっという間に攻略して、8層に突入すると、冒険者の数がぐっと減った。なので、人気のなさそうな場所でホーンラビットの肉を焼いてみた。毒見は俺である。




「……んー」


「どうなのよ?」


「……もう1枚……」


「美味しいのね? そうよね?」




 あー、焼いた肉が全部持ってかれた。しかも美味しそうに食いやがって。味は美味しかった。ノブタの肉は噛み応えと強い旨味が特徴だったが、ホーンラビットの肉は柔らかくて脂がのっていた。めっちゃ美味い鶏肉みたいな感じだ。どっちも甲乙つけがたい美味しさがある。




「おかわり」


「はいよ」




 お嬢様キャラを破壊する程の美味しさ。この世界の料理水準が低いのか、日本の料理が美味しいのか。たぶん後者だな。あー、醤油が恋しいぜ。異世界もの定番の日本モドキの国ってないのかな。いや、錬金術でワンチャン……? あ、食い物系の錬金はやべーんだった。


 昼飯を食った後は攻略だ。アイナは11層を目指すらしい。俺の意見は聞かれなかった。別にいいけど。




「8層突破ね。この調子なら余裕かしら?」


「一番の心配は俺の体力だな」


「あら? 運んであげましょうか?」




 え、いいの? わーい、とか言わないから。幼女に運ばれるおっさんとか情けなくてお嫁に行けなくなる。……何だよ。お前は男だし、そもそも嫁に来る女なんていない? う、うるせぇ! 夢くらい見たっていいじゃん!




「断る。死んでも自分で歩く」


「それってゾンビ?」


「ゔぁー」


「え? 嘘でしょ?」


「嘘だよ」




 俺渾身のゾンビの鳴き声にアイナはドン引きだ。忘年会の一発芸で鍛えた甲斐があったな。あの時はマ〇クラ知らない年寄りが多くて不発だったんだ。


 9層はイタチみたいな魔物やヘビみたいな魔物、クモの魔物もいた。最後のはアイナの悲鳴が聞こえたよ。俺もデカいクモは苦手だ。某有名な魔法学校の映画に出てくる巨大グモは今でもぞわぞわする。本当は益虫なんだけどね。




「素材も何もかもを燃やしよってからに」


「仕方ないじゃない。あんな大きなの……」




 アイナはクモを思い出して身震いしている。暗がりからいきなり出てきた時には驚いたが、タランチュラを巨大化した姿ではなくデフォルメしたクモだったのでまだ俺は耐えられた。




「幸い1回しかエンカウントしてないし、良かったじゃないか」




 そうなると、あのクモはレアモンスターだったのでは? ますます素材が惜しく感じる。アイナには申し訳ないが、もう一度だけエンカウントしたい。


 だが、非情にも俺の祈りは届かずに10層に到達した。階段を降りると長い通路の先に洞窟とは不釣り合いの巨大で立派な扉があった。




「並んでいるわね」


「1回の挑戦につき1パーティなんだろうな。順番待ちか。だるいな」




 とりあえず行列の最後尾に並ぶために近づくと、目の前のパーティは爽やか君たちだった。爽やか君は俺たちの姿を見ると手を振ってきた。

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